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TPP11で判明する安倍外交

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 日本は本気で先頭に立ち、アメリカを巻き込んだTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の早期発効に持ち込める外交力があるのか──アメリカを除く11カ国の閣僚会合は、TPPの早期発効に向け努力を続けることでかろうじて一致した。しかしTPP11カ国の意見は推進派の日本から慎重派のベトナム、マレーシアまで思惑は四通りぐらいに分かれており、日本が11月までにまとめるのは容易ではない日本が本気でまとめられなければ、日本の外交力の評判はガタ落ちになるだろう。

 TPPは単なる関税引き下げ交渉にとどまらず各国の規制緩和なども含めた太平洋諸国の貿易交渉だ。当初はチリやペルーなど南米諸国を中心とした交渉として始まったが、米国のオバマ政権時代にアジア太平洋地域の新たな貿易ルールづくりになると考え、一時はアメリカ主導の交渉の様相を呈していた。その頃日本は、国内で反対の強い農産物などの開放を迫られるとみてどちらかというと消極的だった。それがオバマ政権の方針に引っ張られ、いつの間にか推進派にまわったという経緯がある。

 しかし、トランプ政権が登場した途端、トランプ大統領は「TPPには反対」と方針を大きく変え、今後の貿易交渉は二国間の協定を結ぶ形に変えたいと言い出したのだ。その結果、日本が必然的に前に押し出され、TPP11カ国のリーダー的役割を担う格好となってしまった。

 しかもTPPとは別に中国は、東南アジアやインドなどを入れたRCEP(東アジア地域包括的経済連携)協定の早期成立をめざし、アジア太平洋地域の貿易ルールづくりの主導権を握ろうと動き出している。日本はこのRCEPにも参加を迫られ、TPPと中国主導の交渉の板挟み状態になっている。それだけに、日本がアメリカが抜けた後どう主導的に動くかについては単にTPP問題だけでなく今後の日本の外交力を試されているのだ。

 日本はアメリカとの二国間交渉で農産物問題などをゴリ押しされる前にTPPを成立させてアメリカを牽制するとともに、アジアの外交的主役として印象づけたいところだろう。しかし農産物輸出を期待する豪州、ニュージーランドNAFTA北米自由貿易協定)再交渉を前にアメリカとケンカしたくないカナダ、メキシコ。アメリカ抜きのTPP11なら合意を見直したいベトナムなど各国の思惑はバラバラなのだ。それを11月のAPEC総会までに日本が各国の合意を取り付けアメリカを参加させることは至難の業だ。安倍外交が単なる各国巡りの顔見世興行ではなかったかどうかは、今後数カ月で判明しよう
【財界 2017年6月20日号 449号】

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