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前途多難な日産自動車の再生

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「利益を出していくことが難しくなった。拡大路線の失敗を認め、選択と集中を今後の経営の柱とする」

名門・日産自動車は2020年3月期決算で6712億円の最終赤字を出した。カルロス・ゴーン前会長は20年前に大幅なリストラと拡大路線で日産を一時急回復させたが、ゴーン氏と対立した日産の現経営陣は、再び経営が悪化したため、今後はゴーン路線と完全に断ち切り当面は生産・販売体制を縮小して構造改革に全力を尽くすと方針転換を明確にした。

内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は3月期決算の発表にあたり「2年前から拡大路線を修正してきたが、このままの状態を続けても利益を出していくことは困難だと認識した」と発表。約20年間のゴーン路線と手を切り、インドネシア、スペイン工場を閉鎖し韓国からも撤退して、21年3月期の固定費を前年同期に比べ3000億円圧縮するとしている。人員削減は従来計画の1万2500人を更に上積みする。このため世界の生産能力は年間700万台あるが、20年の生産能力は2割削減して年間540万台体制まで減らすと明言した。

ゴーン元CEOが就任初期に作った2000~2002年度の「日産リバイバルプラン」では国内5工場を閉鎖し、人員削減と合わせて1兆円規模のコストを削減したが、一方で、北米市場で販売台数を伸ばし日本を上回るなどの成績も上げた。しかし、その後ゴーン氏のワンマン経営や社内費の不正使用などもあって社内のゴタゴタが続き、ゴーン氏は逮捕された。2018年のゴーン逮捕後も幹部の間の対立や提携しているルノーとの関係悪化などで経営の混乱が続き、成長は伴わなかった。

日産自動車は、トヨタ自動車と並んで日本を代表する名門自動車会社だった。特に“技術の日産”といわれ、“販売のトヨタ”とは一線を画した特徴を持ち、数々の人気車種を生んできた。ただ昔から労組を率いていたカリスマ委員長の塩路一郎氏との対立が激しく、社内の経営統治がいつも問題視されていた。そこへ次に外部からゴーン氏が入ってきて経営を好き放題に動かし日本人経営者もゴーン派とアンチゴーン派に分かれるなど社内の経営が安定しないことが、日産の弱点といわれ続けてきたのが日産の歴史でもあった。

現在、日産はフランスのルノー、日本の三菱自動車と三社で資本提携している。特に43%の出資をしている筆頭株主ルノーもこのところ経営難に陥っており、今後3年で全世界の従業員の8%にあたる1万5000人を削減すると発表、生産能力を年400万台から330万台に下げて約2400億円の固定費を減らすと発表したばかりだ。

日産は今後、欧州の事業を縮小し、日本とアメリカ、中国市場に主力を注ぎ、ルノーとの提携強化も図ってゆくとしている。ただ世界は今回の新型コロナウイルス感染症の拡大で景気が低迷、人々のライフスタイルも大きく変わるだろうと予想されている。かつてのような自動車と家電製品、持家をそろえることが夢とされていた人々の生活が大きく変わってゆく可能性もあるわけだ。そんな中でゴーン後の三社連合がどんな車を作り、アジアなどの新興市場にどう関わってゆくか――日産自動車と三社連合の先行きは必ずしも楽観できる状況にはない。かつてのような人気のある車を作り、コロナ後の新しい生活にふさわしいスタイリッシュな自動車ライフを提案できるか、だろう。
【Japan In-depth 2020年6月21日】

 

画像:日産コーポレートサイト(第121回定時株主総会)

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