時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

次世代の工作機・3Dプリンター 金型生産時代に変わる?

 3D(スリーディー=三次元)プリンターという言葉が、今メーカーの間で注目されている。今年のアメリカ一般教書の中でオバマ大統領が「ものづくりに革命をもたらすツールになる」と述べたこともあって一層話題になった。

 東京ビッグサイトで秋に開催された日本国際工作機械見本市(JIMTOF)には海外を含め13万人が訪れ、なかでも3Dプリンター機能を搭載する工作機械メーカーの存在感が圧倒的に光ったという。この工作機械を開発したのはDMG森精機ヤマザキマザックで、やはり「いわばハイブリッド複合加工機。ものづくりに新たな市場を生み出す」と指摘している。

 

――3次元データから全く違う生産方法へ――

 3Dプリンターを簡単に言うならば、三次元データ・設計図を基に3D専用の機械で樹脂や金属などの素材(粉末)を吹き付け積み重ねていく技術(アディティブ・マニュファクチャリング=積層造形)をさし、一種の印刷のようにも見えるのでプリンターと呼ばれるようだ。CAD(三次元データコンピューター)によって描かれた画像を積層技術によって粉末などを忠実に再現することで、立体的な造形物がプリントされ出来上がるというわけだ。

 先月、私が司会をしている毎週土曜日の「グローバルナビ・フロント」の番組に3Dプリンターのベンチャー企業「アスペクト」の早野誠治社長に出演してもらい、3Dプリンターの仕組みやメリット、課題などを語ってもらってようやく大筋がわかってきた。

 これまでは、金属の塊などを切削機械で削ったりしながら自動車部品や航空機部品の三次元構造部品を製作していた。あるいは個々の形をつくり、それらを組み合わせることで三次元物体を作っていた。もし二次元部品なら金型をつくり、金型から大量生産が可能だったが、三次元部品は金型を作ることも、大量生産することもできなかった。

 それが3Dプリンター機械を使うと、CADによって描かれたデータを組み込んでおくと、まず一番下に作りたい三次元製造物の原型になる図・模様(一次元)があり、その上から図を含む全体に金属粉あるいは樹脂、石こうなどを何層にもわたって吹き付けていく。吹き付けていく過程で、設計図に沿った立体物の凸凹が形成されているのだ。映像でみると上から粉末が次々と吹き付けられ、最終的には長方形の立体になっていた。その長方形の立体の層を次々と削っていくと、基本図形の上に何と立体の造形品が出てくるのだ。

 つまり、樹脂を上からまんべんなく何層にもわたって吹き付けているように見えていたが、CAD設計図に従って三次元の部品などが出来ているのである。三次元とは無関係の箇所は単に樹脂が積み重なっているだけで、部品の部分は新品の造形に従って樹脂が重ねられているので、後にそれらを剥がすと余計な樹脂部分はなくなり、立体的な構造物だけが残る仕掛になっていた。

 

――一挙に立体構造物、臓器の内部まで生産――

 このプリンターでは、一度に立体部品やフィギュア、リングなど数種類の3次元構造物の設計図が入っていたので、長方立方体の樹脂をたたいて削っていくと、中から数種類の三次元モノが出てきた。上から樹脂や金属粉を吹き付けているので、その時点では何を作っているかわからず、単に層になって樹脂などが積み重なっているように見えたが、実は設計図によって細かな部分まで積み重ね方が違っているようだった。

 今回、映像で見たのは比較的簡単な3次元立体物だったが、心臓の立体模型などは、内部の毛細血管一本一本までが忠実に再現できるようだ。

 

――試作品・一品ものに最適、将来は大量生産も――

 もちろんこの3Dプリンターからは1個の立体物しか出来ないので、現在は一品もの製品か、試作品作りに活用していることが多い。従来だと試作品作りに多くの時間とコストがかかっていたが、3Dプリンターだと簡単なものなら数時間で出来るらしい。複雑なものだと10時間以上はかかるらしい。試作品以外でも一品物やオーダーメードな物、複雑なデザイン製品、航空機部品、人体臓器、チョコレートや人形のフィギュア――など、要するにCADデータがきちんとしていれば、相当複雑なものでも作れるという。一部では銃も作れてしまうので、製造物の規制も必要になってくるといわれているほどだ。

 早野氏は、商社勤務だった1980年代にこの技術を知り、1996年に独立して「アスペクト」を起業した。同社の技術の特色は、特殊な樹脂だと光に反応して硬化するので光造形装置に着手したことだという。3Dプリンターは、材料となる樹脂、金属、石こうなどがあり、粉末を固める方法も光に反応して固める方法やレーザー照射(熱で溶かして後に焼結)、ノリを塗布するやり方などがあり、材料や固め方の違いでさまざまな3Dプリンター機械があるようだ。価格も工業用だと3,000万円~1億円、高いものだと数億円はするという。

 アスペクトの開発した機械(3Dプリンター)「ラファエロ」(粉末床溶融結合)は樹脂の粉末にレーザーを照射して、その粉末が熱で溶け冷えて固まるとまた照射――という工程を何度も繰り返すことで3Dデータに基づく立体を作り上げる。設計図にない部分は単なる石こうとなっているのだ。ラファエロの場合は製品価格が5,000万円前後で自動車部品メーカーなどへ納入している。

 アスペクトは3Dプリンターの開発・製造・販売を行っている。金属粉末から作るものは最終製品となるものも少なくないらしい。ただ大量生産技術にはまだ到達していないの

で、今後はそこが課題となるが、3Dプリンターで大量生産が可能となれば、従来の金型メーカーは厳しい構造変革を迫られよう。

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※アスペクト社のSDプリンター「RaFaEl(ラファエロ)550

 

――現場と海外で同時利用のアイリスオーヤマ――

 家庭用品などを作っているアイリスオーヤマは、毎年新商品が50%以上占めるので、その試作が重要になる。最新の簡単な掃除機を作る場合、3Dプリンターで試作品をつくるが、同社では「30ミクロンの単位までの試作品が簡単に出来るので、時間もコストも大変な節約になっている。まもなく、大連の製造拠点にも3Dプリンターを設置するので、製造現場にデータを送り、同時に同じものをもって改良を話せるので試作品から最終製品まで、かなりのスピードで作れるようになるだろう」と指摘している。また、医療用だとCTスキャンのデータから脳や心臓の模型を柔らかい樹脂で作れば、切り開いて内部の細かな血管までわかるので、学習用や手術前の実習などにも活用できるという。

 3Dプリンターの特色は、CADデータと3Dプリンターがあれば、その場で部品ができてしまうことだ。たとえば、人工関節は多くの在庫をもちながら手術などに使っているが、3Dプリンターの登場により、患者に最適な一品ものをオンデマンド(その場の要請)に従ってできるようになるから、患者にとっても病院にとっても大きなメリットになる。また、補修部品もデジタルデータがあればその場で作れるので、在庫や金型の保存もいらなくなる。

 アイリスオーヤマの例をとれば、日中同時に開発でき、試作品の協議ができるので、試作品の往復物流の手間がなくなり、コストやロスタイムが大幅に削減できるとしている。いま、企業は多品種少量生産から個別最適型の消費者の好みに応じたオンリーワン型製品作りへと、力点を変えつつある。それにもっとも適しているのが3Dプリンターの生産だというのである。

 

――米、独、日で開発にシノギ――

 アメリカでは昨年から、オバマ大統領の肝いりで3Dプリンターの生産技術発展に研究支援予算をつけはじめた。国防総省、エネルギー省、商務省などが支援し、全米1,000小学校に3Dプリンターを設置し、子供教育の時期から乗り出しているのだ。一方、ドイツでは熟練したマイスターのもつ知能・技術をデータ化することで全体の技能を引き上げる「インダストリー4.0」と呼ぶ国家プロジェクトを立ち上げている。日本では企業と大学が共同して、さらに精度の高い高速性のあるマシンや、将来は一品ものから大量生産も可能な3Dプリンター生産も視野に入れているという。

 3Dプリンターによって実際の模型を手にしながら開発者、デザイナー、営業、生産者が話し合う場ができることで、製品製作までのスピード、コスト、製品の完成度などまで大きく変わることになる。ある大手企業では、カメラを作るケースを比較すると金型生産に比べ試作時間で90%減、試作費用で80%減になったという。まさに3Dプリンターはモノづくり現場に新しい革命を起こしつつあると言える。
TSR情報 2014年12月1日】

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