尋常でないフランスの怒り
フランスの怒りようがすさまじい。パリ同時多発テロに襲われたフランスは11月19日、「イスラム国」との戦いに各国が立ち上がる決意を示すよう国連安保理の理事会に決議案を提出。さらにフランス国民議会(下院)は同日、非常事態を3カ月延長する法案を可決した。フランス当局の発表によると、テロの死者が130人に達し、民間の調査会社のアンケートでは、フランス国民の88%が非常事態延長に賛成、仏大統領府は27日に国家追悼式典を行うと発表した。オランド大統領は「テロが標的にしたのはフランスの理念、自由だ。だがフランスは自由の国であり続ける。恐れに屈しない」と強調。市民が無差別に狙われたテロは、シリア空爆の報復ではなく〝自由〟〝平等〟〝博愛〟という国の根幹をなす価値観への挑戦だと主張した。
フランスといえば、イラク戦争の際、イラク攻撃の国連決議を求められたとき、時のドビルパン仏外相は〝イラクが大量破壊兵器を所有している証拠はない〟と迫力に満ちた演説を行いアメリカへの追随を拒否して、ドイツもフランスにならった。このためアメリカを中心としたイラク攻撃はイギリス、日本などアメリカ有志連合による戦いとなった。後にイラクに大量破壊兵器がなかったことが判明し、イギリスのブレア首相は苦しい立場に追い込まれ、最近は「判断の誤りだった」と謝罪している。あのイラク戦争時のアメリカを向こうにまわして強固な意思を示したフランスの演説は世界を驚かせた。しかし今回のフランスの怒り方も尋常でなく、自らの国益を侵されたりした時は間髪を入れず行動に出る国だと思い知らされた。フランス革命で市民が血を流して封建王制を倒した理念がいまも脈々と生きているのかな、と感じさせられる。
フランスは移民を受け入れるにあたって差別化するのではなく、同化させる方針であることも知られている。むろん、すべてが理念通りにおこなわれているわけではないだろうし、フランスの右派グループは移民に反発しているようだ。それにしても、フランスは自由、平等、博愛などの理念を根幹にすえた方針を揺るがせにしないように努力しているようにみえる。
アメリカは中東から手を引きつつあり、アフガニスタンからも1年以内に撤退する方針を出しているが、今後は中東、アフリカの混乱に対してヨーロッパ、とくにフランスがリーダーシップをとっていくのだろうか。フランスは「イスラム過激派は国際的な平和と安全への世界規模の前例のない脅威だ」とし、イスラム国への外国人の渡航阻止やテロ資金の遮断なども呼びかけている。〝仏革命の国〟の怒りと熱気は、また新たな世界と国際情勢の断面をみせ始めたようだ。
【財界 2016年1月5日号】