首脳外交の糸口は・・・ ~過去の近似的世相から見えてくるもの~
2月14日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。
テーマ:安倍総理のゴルフ外交はロンヤスの再来!?
今日は先日(2月10日)行われた日米首脳会談について、過去の日米首脳会談との比較も含めお話したい。日本の新聞では非常にうまくいったと書かれていたが、私は必ずしもそうだと思っていない。
【ゴルフの話題が先行・・・】
今回、ゴルフのことが非常に話題となったが、実はトランプ大統領は当選前の選挙戦でオバマ氏が大統領在任中にゴルフばかりしていることを非難していた。そのオバマ氏が大統領に当選以降ゴルフをしたのは就任から4か月後だったが、トランプ大統領は就任から1ヶ月以内でゴルフをしている・・・
今回、日米両首脳はゴルフの話題で親密ぶりをアピールしているのだが、肝心の会談で話すべき内容について本当に首脳同士で話合ったのかということは見えてこない。今回の日米首脳会談について共同通信社が行なった世論調査(2月12、13日電話調査)では70%がよかったと支持し、高い評価を得ている。
【30年前の外交文書から見えてくるもの】
日米首脳会談で印象的なのは「ロンヤス」。これは、当時の中曽根首相(ヤス:中曽根康弘氏の名前に由来)とレーガン大統領(ロン:ロナルド・レーガン氏の名前に由来)の時代のことで、1980年代の日米トップの親密ぶりを表した言葉。今回、タイミングよくその「ロンヤス」時代の会談内容について今年の1月12日に外務省が一般公開した外交文書(30年後の公開)でその中身が明らかになった。
【改善もみられる日米関係だが・・・】
当時、日米にとって最大の懸案事項のひとつは貿易摩擦だった。貿易収支については日本の黒字が常態化し、アメリカは日本に市場開放を要求。特に、農産物の関税引き下げを強く求めていた。当時、アメリカは経済が低迷し失業率が10%を超えていた。そんな中、アメリカでは日本製の自動車や電気製品があふれ、労働者を中心に不満が高まっていた。そういう意味では、今のアメリカと似た状況ではあるといえる。
アメリカはさらに内向き志向が広がり、日本製品輸入を排除する立法の動きも出ていた。そして、日本製品を打破する動きとして日本の自動車を叩き壊す映像が日本でも報じられたことは記憶に新しい。その一方で、アメリカはアフガニスタン侵攻など拡大政策をとるソ連にどう向き合うかという安全保障政策における問題についても頭を悩ませていた。その背景から今のトランプ大統領が抱える「日米貿易通商政策」と「中国をめぐる安保政策」という問題は状況が類似したテーマであるといえる。
このように日本とアメリカは「ロンヤス」時代と同じような状況であるが、先も話した通りこれらの問題に関して安倍首相とトランプ大統領が具体的にどんな会談内容で、どのような対応をしたのかということについては少し相違があると感じる。当時のアメリカ経済は深刻な状態だったが、現在のアメリカ経済は活況で、当時と必ずしも一致していない。さらに日本はアメリカに対して当時よりも市場を開放し、日本からアメリカへ雇用も創生している。当時の状況とは随分違い、それらをトランプ大統領は斟酌していない面も見受けられる中で、トランプ大統領は現状の問題と対峙している。
【戦略的な段取りのロンヤス会談】
ロンヤス時代はこれらの問題に対して、どう妥協し、どう立ち向かったのかを見てみたい。ロンヤス会談については、戦略的な段取りが取られていたことが先に公開された外交文書の記載から読み取れる。ロンヤス会談の船出は2回にわたって演出された。
1回目は中曽根氏が首相就任3ヵ月後の翌年83年1月に、初めて訪米しレーガン氏と会談を実施。中曽根氏は訪米時に大統領を含む4人のトップに用意周到な戦略的個別会談を仕掛けていた。83年1月19日発信の極秘公電によると、中曽根氏はワシントンで同月18日にシュルツ国務長官と会談。シュルツ氏は内戦中のレバノンに派遣されたアメリカやフランスなどによる多国籍軍への資金提供を要請し、中曽根氏は「答えはイエスだ」と応じ支出の規模や名目について外相間で協議するよう求めた。その後、同日に行われたレーガン氏との会談では、武器輸出三原則の例外として日本がアメリカへ武器の技術供与することを決めた。この際、中曽根氏は「日本を正常な針路に乗せるため国民の説得に当たる」と強調し、レーガン氏はこれをえらく歓迎した。
さらに、ワインバーガー国防長官との直接会談では防衛予算の増額を約束。中曽根氏は「有事ではソ連の潜水艦を日本海に封じ込め、爆撃機の日本通過も許さない」として理解を求めた。当時、日本には国民総生産(GNP)の1%以内の防衛費という枠組みがあったが、防衛費のGNP1%枠の撤廃に意欲を示した。
【率直な会談で意気投合。強固な日米関係に】
また、首脳会談前のワシントン・ポストとの朝食会で、中曽根氏は「日本列島を不沈空母のように強力に防衛する。」と発言。その一方で、牛肉・オレンジ問題についてはブロック農務長官に、「No」と譲歩しない態度を貫いた。レーガン氏に「具体的政策ではアメリカと異なることもあり得ると理解願いたい」とも述べ、通商政策で譲らない面もあることを伝えた。この率直な会談で2人は意気投合したといわれている。
今の話を整理すると中曽根氏は「武器輸出三原則」を大幅に譲歩した。この譲歩は当時としては相当大きな譲歩であった。日本で防衛費のGNP1%枠の撤廃はタブーであったし、世論の激しい反対が起こることは想像に難くないことでもあった。さらに、「不沈空母」という表現もタブーだった。新聞は各紙違った論調で、毎日は防衛問題については前のめり外交と批判、朝日、読売は日米関係改善と評価した。そういうことから中曽根氏は通商面においてかなりの努力をしたことがうかがえる。
【解決の糸口は首脳会談の大きな意義だが・・・】
本来、難しい問題について首相同士で話し合い、解決の糸口を作るというのが首脳会談の大きな意義だ。しかしながら、今回の会談においてはほとんどそういう話題が出ていない。報じられるのはゴルフをしたという話ばかりで、二人の間で具体的に日本とアメリカの間で問題になっているNAFTA(北米自由貿易協定 / North American Free Trade Agreement)の問題、TPP、日本の円安批判などについてどこまで腹を割って話し合ったのかほとんど見えてこない。
それらを麻生副総理とペンス副大統領に任せるという形とし、ゴルフをやった演出だけが目立つという感じだ。そういう点でも、ロンヤスと大きな相違があると感じる。これが先送りされ、大きな問題となる可能性も含んでいる。トランプ大統領の上機嫌さを見ていると、安倍首相はどのような発言をしたのかということも非常に気になるところである。どのような話をしたのかを国民に明らかにするということも今後の日米関係にとって大事だと思う。おそらく直近で出てくることはなく、30年経って文書が公開された時点で把握することになるだろう。実際には通商問題で強面になり、これからが正念場となる。
【外交における演出】
ロンヤスの会談の二回目は、先に紹介した初会談の10ヶ月後に今度はレーガン氏が来日して東京都西多摩郡日の出町にある中曽根氏の別荘「日の出山荘」で行われた。この時、中曽根氏はレーガン氏に正座してお茶をふるまったが、レーガン氏は正座ができず足を投げ出すような格好でお茶を飲んだ。テレビを見ている人は正座して居ずまいを正す中曽根氏がカッコよく見え、日本の礼儀作法を世界に知らしめるだけでなく、二人は深い付き合いだと感じられたことが評判になった。外交には演出が必要だということを示した例でもあったといえる。
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