日対中で緊迫化 東南アジア外交
アメリカの大統領は、1月下旬に共和党のトランプ氏から民主党のバイデン元副大統領に交代することになった。ほぼ時を同じくして日本では、安倍晋三前首相からその安倍氏の下で約8年間にわたり官房長官を務めた菅義偉氏が新首相の座についた。
トランプ大統領は、「アメリカ第一主義」を唱え、多国間ではなく二国間で「ディール(取引)」を行なって主張を通す手法を選んでいる。これまでのアメリカ大統領は、国際主義・多国間主義を旨とし、自由主義や自由貿易、人種、環境などの価値を信奉してその旗印の下で自由主義世界のリーダー役を務めてきた。
しかし、トランプ大統領は不動産ビジネスで成功してきた経験からか、かつてのアメリカ大統領が踏襲してきた価値観の多くを否定した。多国間主義、多角主義、自由貿易主義、脱炭素化などに反対し、環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱、中国など貿易相手国へ一方的関税の賦課を行なった。また脱炭素化の国際的行動基準を決めたパリ協定やユネスコからの離脱も公言している。
そんな中で日本の安倍首相とは14回も首脳会談を行ない特別の関係を築いたようにみえた。確かに二人の関係は良好だったが、アメリカの対日要求を取り下げたり、緩めることはなかった。
ただ日本の巨額の貿易黒字が原因となって日米関係がギクシャクし悪化することはなかった。しかし、日本の外交は日米関係ばかりが突出し、日本の基盤となるべきアジア外交は、かつてに比べると弱体化した点は否めなかった。
日本は戦後一貫して日米関係とともにアジア外交、とりわけ東南アジアとの関係を重視し、アジアを基盤とした外交を展開することに力を注いできた。このため、日本がアジアを代表するような形で国際関係の会議に出るときは、事前にアジア各国の要望を聞いてまわることが多かったし、会議終了後はその内容を丁寧に報告したものだ。第二次大戦中にアジア各国に迷惑をかけて傷つけたという負い目があり、その償いを行なう意味もあって歴代首脳は頻繁にアジアへ足を向けたのだ。
そうした日本とアジアの関係に割って入ってきていたのが中国だった。中国は多額の援助やインフラ整備などで東南アジア各国やアジア太平洋諸国、インド洋周辺国にも援助や医療支援などで接近し、見返りに港湾の使用や軍港利用などを持ち掛けている。アジア太平洋、インドの海上交通の拠点地域で米・日対中国の間で激しい攻防が行われているのだ。
いまやアジア、特に東南アジア諸国は、遅れた途上国ではなく成長著しい新興国に発展している。それだけに新発足したバイデン政権、菅政権にとって今後のアジア外交は極めて重要な意味を持ってきているといえよう。
【Japan In-depth 2020年12月19日】
画像:首相官邸Facebook