時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

年金のハシゴをはずすな

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 「人生100年時代」だと日本人の長寿化をはやしておきながら、100年時代を公的年金だけで生きようとすると“老後の生活費が2000万円不足する”という金融庁の報告が出た。すると途端に、麻生金融相は「誤解を与えるのでその報告書は受け取らない」と駄々をこねた。間近に迫った参院選に不利とみたためらしいが、自ら諮問した報告書を受け取らないとはお笑い草だ。

 報告書は、夫が65歳以上、妻が60歳以上の無職の夫婦の場合、毎月の収支の赤字額は平均5万円で、今後人生100年時代に向けて生きるとすると約2000万円が不足になると明記している。2000万円ないと長寿は金銭的に不可能だと正面をきって言われれば、無職の夫婦は誰しもたじろぐに違いない。

 現在、20~30代の年間収入の平均は約300万円弱といわれる。夫婦共稼ぎだと500万円台くらいだと思われる。しかし、住宅、生活費を支払い子供二人もいたらカツカツでとても貯蓄などにおカネを回せない。このため、子供一人の世帯が多く少子高齢化もストップできないのが、日本の現実なのだ。

 そんな現実におかれているのに2000万円を蓄えよとか、一世帯の子供の人数を1.8人(現状は1.4人以下)に増やさないと2050年の日本人人口は8000万人にも届かないと他人事のように政府は指摘する。しかし国民の給与や貯蓄、生活の実情をどこまでわかっているのかと言いたくなる。

 しかも、企業は増収傾向にあるのに給与は増えず、あのトヨタ自動車でさえ年収を今後4~5%低く抑えると言い、ここ10年間の時給も一般企業の平均で9%も減っているのである。

 さすがに政府も気が引けたのか、「100年安心は年金制度の持続と個人の生活を年金だけで賄うことを保障したものではない」と弁明し、資産を息長く活用する必要性を訴え始めた。それによると、現役期は小額からでも資産形成の行動を起こす、退職期が近づいたら退職金額を確かめ老後の資産が十分かどうか調べたり、再雇用などで継続して働くかどうかを検討する。高齢期には資産をどう取り崩すか、認知能力の低下などに備えた対応を取るように、と指摘している。

 むろん、人によって資産のあり方は異なるが、一般的には公的年金だけでは暮らしが難しくなるので今から対応を考えておけということらしい。しかし多くの人は、退職後は年金をかけてきたのだから豊かに暮せるはずだ、と思って人生を過ごしてきたのだ。人生の最終局面になって年金だけでは豊かな暮らしはムリですよ。と言われたらハシゴをはずされたようなものではないか。
【財界 2019年8月6日 第500回】

なお、本コラムは参院選前に入稿したものです。