時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

昨日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~強権政治勃興の裏にはポピュリズム~

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スタッフです。
昨日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

テーマ:独裁すすむ世界情勢


【反対勢力は根こそぎに】
本日はこのところ世界で目立ちはじめた「強権政治」についてお話したい。まず、トルコのエルドアン大統領。政権に批判的なジャーナリスト・政治家・企業に対して 圧力を強めているとして、国際社会でも批判されている。象徴的な出来事としては2007年の爆破テロ未遂事件。政権側は、この事件を政権批判的な組織が企てたと断定し、大々的な摘発に乗り出し軍関係者約250人を拘束。さらに、ジャーナリスト100人以上までも投獄された。

つい2ヶ月前には、政権に反発する軍の一部が反政権運動、 軍事クーデターを起こすが未遂。ここでも、政権側は、軍、警官、公務員ら6万人を拘束、解雇した。さらに昨日(12日)報じられたニュースでは、自治体の首長28人をクーデターに関わった疑いで解任した。裁判という手法はとらずいきなり解任となっているのは、非常に強権的だといえる。自分達に反対する勢力は根こそぎにしてしまえという表れだ。


オバマ大統領への侮蔑も話題に】
続いて、フィリピンのドゥテルテ大統領。つい先日オバマ大統領を口汚く、罵り、首脳会談がご破算になった。フィリピンはアメリカに守ってもらっていた国なので、昔だったら大変なことだ。麻薬犯罪撲滅に強権的な動きで数百人の麻薬仲買人、常習者1000人以上が殺されたとされドゥテルテ大統領は「殺したのはたった1000人」と語っている。麻薬の常習者ということで市民は拍手するが、そのやり方に関しては眉をひそめている。しかしながら、フィリピン国内では非常に人気がある。


【中国でも目立つ強権政治】
さらに、中国の習近平国家主席もそうだ。汚職をどんどん摘発している。まもなく、次の5年間の人事を決定しなくてはならないため、江沢民派や李克強派と相当激しい闘いを繰り広げている。それに対しては言論統制への「21項目の通達」を出し、習氏の事を重点的に報じ李克強氏のことはあまり報道しない、反習近平氏のネットの書き込みがあったら直ちに封鎖するなど、激しい強権政治を行なっている。

その他、軍制服組トップ数人を解雇。汚職幹部の摘発は一段落したかにみえたが、まだまだ国営企業の幹部や構造改革に反対する人たちに対する摘発は続けるようだ。また、先日、昨年7月に逮捕された人権派弁護士の裁判を実施するとの報道もあった。これらのことから中国も強権的な政治が目立ってきたといえる。


【世界の弱体化】
トルコ、フィリピン、中国と紹介してきたが、何といっても我々の身近なのは北朝鮮。先週末の9月9日の共和国創建記念日に核実験を実施。さらに、この数年で100人以上の幹部を処刑。そして、8月中旬にはイギリス駐在の北朝鮮公使が亡命し、亡命理由は「金正恩体制に嫌気がさした」という。

この金正恩態勢をいつまで放置しておくのかという問題はあるが、アメリカも中国も今一つ強く出られない。今後まだまだ実験を行なう可能性は否めないし、日本に飛んでくる可能性もある。世界中から非難され制裁決議が行なわれてもほとんど効果はなく、世界がそれを取り押さえる力が無くなってきたといえる。


【米ソが牛耳った時代】
以前は、北朝鮮であれば中国が言えば収まる、新興国であればアメリカやソ連が言えば収まるという状況だったが、残念ながら今はそういう状況ではない。昔も強権政治はあった。例をあげると強権的で有名なフィリピン・マルコス大統領、エジプト・サダト大統領とムバラク大統領はこの二人の時代50~60年間エジプトを強権的に支配し、軍が非常に強かった。そして、アフリカ・ソマリアではソ連とアメリカが交互に味方し、政権がソ連派、アメリカ派と大きく入れ替わった、その中で特に印象に残っているのはバーレー大統領時代の強権だ。

冷戦時代は背後でアメリカとソ連がその国をバックアップしていたことによって全体が収まっていたが、今はそういった際に治める人がいなくなった。そのあたりが今の強権政治の難しい流れがあるのだろう。


【冷戦終結で事態は一変】
昔はアメリカを中心とする「資本主義、自由主義の国」とソ連を中心とする「共産主義社会主義の国」とが対立し、世界が二色に別れていたという感じであった。それによって中南米やアフリカでは、ある時はソ連側、ある時はアメリカ側に寄った政権となっていた。有事の際には、最後には背後のソ連とアメリカが話合えば解決できたのである。

しかしながら、西側はG7、社会主義側はソ連が中心となって世界を抑えていたのが、冷戦終結により困難となってきた。ロシアがウクライナに侵攻しても、西側は抗議はするもののそれを阻止することはできないようになっている。


【大衆翼賛的なポピュリズム
中国もさまざまな問題を抱えているが、大衆翼賛的なポピュリズムをうまく活用し、汚職摘発などもやりながら、強権政治となっている。その一方で、尖閣南シナ海東シナ海で問題を起こしているが誰もそれを押さえることが出来ない。内政的には国民が共感を覚えるような政策を実施し、国内を抑制している。その一方で、国外には反発はあるものの強く出て発散し、それが国民にも喜ばれる。このようにポピュリズムをうまく形容した新たな形の強権政治という感じがする。

そうなってきた一つの要因はアメリカ、ロシアの力が弱まってきた上に、ヨーロッパも混乱しているので、だれも問題が発生した際に抑制できなくなってきた。かつてのG7のような集団体制で抑制するような仕組みにしていかないと、世の中はますます混乱していくだろう。G7が弱体化しG20となり、非常に拡散し力を発揮できていないというジレンマに陥っている。これがジレンマのままで終わるのか、内戦などが勃発しそれによってますます混乱するということもある。今、瀬戸際にきているように思う。

画像はトルコ・エルドアン大統領(Wikimedia commons / Recep Tayyip Erdogan, Prime Minister of Turkey captured during the session 'The New Comparative Advantages' at the Annual Meeting 2006 of the World Economic Forum in Davos, Switzerland, January 27, 2006. Copyright by World Economic Forum swiss-image.ch/Photo by E.T. Studhalter)

昨日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト: 動物写真家 前川貴行様 音源掲載

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スタッフです。昨日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)の動物写真家の前川貴行様をお迎えした音源が番組サイトに掲載されました。

動物との対峙や衝撃 
クマに魅せられた理由や、アラスカやカナダの極地で撮影する苦労話。山中でクマなどの野生動物と遭遇した時の衝撃や、被写体とどう馴染んでいくかなどにつきお伺いしました。 

 

次週も前川さまもゲストにお迎えし、動物写真の醍醐味、作品を通して伝えたいこと、これから撮影したい動物。アメリカやアフリカを主な活動場所として、野生動物をテーマに撮影する魅力などについてお伺いする予定です。

次週もお楽しみに。

シルクロードの日本人伝説

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 小さい頃から中国大陸、中央アジアシルクロード――といった言葉に夢やロマンを感じていた。私は1942年に中国で生まれ、1年ほど上海で暮らしたことや、父も新聞記者で中国やアジア地域を駆け巡り、時々取材の話などを聞いていたためだろう。私と母は敗戦間近の1944年末に帰国しているが中国滞在中の記憶は全くない。時々、中国にいた頃の写真を見て記憶を辿(たど)るのだが何も覚えていない。

 母は、当時としては飛んでいる女性だった。女子専門学校を卒業後、京都のデパートの宣伝部に勤務。アメリカ行きを望んだが日米関係の悪化により、北京へ渡り、北京の中学校で中国人に日本語等を教えていた。そこで父と知り合って結婚したが、今風に言えば”デキちゃった婚”だったのではないかと思っている。

 そんな家庭環境もありわが家には中国関係の書籍がかなり多く、それらの背表紙を見ているうちに興味をもったように思う。宮崎滔天(みやざきとうてん)の「三十三年の夢」やヘディンの「さまよえる湖」などを読み、ますます大陸にロマンを感ずるようになった。

 中国には記者となり、1970年代に初めて訪問。以来、仕事や旅行で3~4年に1回は訪れたが中央アジアはまだ遠かった。ウズベキスタンに初めて足を踏み入れたのは96年。アジア開発銀行の総裁を務めた千野忠男(ちのただお)さん(元大蔵省財務官)の話を聞き、俄然(がぜん)興味が湧いた。ウズベクは91年にソ連から独立し、国家づくりのモデルを日本に求めたという。若い志士たちが奔走し途上国から近代国家をつくり、欧米先進国に追いついた様子をみて”見習うべきは日本だ”と思ったようだ。

 ウズベクは数千年前から欧州と中国をつなぐ真ん中に位置し、東西の文物、文化、学問、人間の交流の結節点にあった。天文学や数学、織物文化などに優れ、欧州やインド、ペルシャ、トルコ、中国、モンゴル、ロシア人などの交易が行き交い、16世紀の大航海時代が来るまでは世界の文化の中心的存在だった。しかしその後、鉄道や飛行機、宇宙の時代が到来するにつれ中央アジアの存在感は薄れてゆく。

 日本との関係では第二次大戦後、満州で捕虜となった日本の航空工兵が首都のタシケントに、ソ連の四大オペラハウスといわれるナボイ劇場をウズベク人と共に47年に完成させ、この伝説的秘話が語り継がれてきた。66年にタシケント市が全壊する大地震に襲われるが、ナボイ劇場は凛としてその美しい姿をとどめた。そして、中央アジア全体に日本人の仕事ぶりや勤勉さ、美徳が伝えられ、有名な観光的建物となった。今なお、捕虜になっても後世に恥を残さないような建物を作ろうと決意し、完成させた約5百名の日本兵の伝説が今なお伝えられているのである。

国立民族学博物館 編集・発行『月刊みんぱく』2016年8月号に掲載】

画像は、本コラムに登場するナボイ劇場正面。

この日本人伝説を描いた「日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた」を昨年9月末に角川書店より上梓しました。1年近く経った今でも、「冒頭から感動した」など読まれた方からさまざまなお手紙を頂いています。

まだお読みになっていない方は、この日本人伝説をぜひお読み頂けると幸いです。全国津々浦々の図書館に入荷頂いています。

「中央アジア+日本」対話 第9回東京対話(公開シンポジウム)「知られざる中央アジア:その魅力と日本との絆」にて嶌がスピーカーを務めます

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スタッフです。外務省主催,独立行政法人国際交流基金筑波大学東京大学東京外国語大学の共催により、「中央アジア+日本」対話 第9回東京対話ウィークリーイベント「知られざる中央アジア:その魅力と日本との絆」の開催される旨の告知が外務省のサイトに掲載されました。

会期中、9月28日に嶌が公開シンポジウム「知られざる中央アジア:その魅力と日本との絆」に登壇し、中央アジアの魅力を語ります。

開催概要
開催日時: 2016年9月28日(水曜日)10:00~15:00 (9:30開場)
      嶌の登場時間は13時30分ごろの予定となっております。

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開催場所: 筑波大学東京キャンパス(茗荷谷

主催 : 外務省
共催 : 筑波大学
入場無料、要事前登録(定員あり)、一般公開,日露同時通訳付き
出演者(敬称略) : 中央アジア5か国からの招聘者,松浦俊昭(唐招提寺執事)、小松久男東京外国語大学特任教授)、相木俊宏(外務省中央アジア担当特別代表(大使))、嶌信彦(ジャーナリスト)他

参加ご希望の方は以下申込書に必要事項を記載の上、申込書に記載のメールかFAXにてご応募ください。なお、各イベントとも定員に達し次第締め切られます。
申込み用紙(Office Word):リンクをクリックするとダウンロードされます。
申込み用紙(PDF) 


中央アジア+日本」対話は、2004年8月に川口外務大臣(当時)が中央アジア諸国との対話と協力を目的として立ち上げられた枠組みです。日本が触媒することで中央アジアが開かれた地域として安定・発展していくことや域内国が共通の課題に共同で対処することも目的としています。

今回、日本ではまだ馴染みの薄い中央アジア各国の魅力を一人でも多くの日本の方々に知っていただくため、従来の公開シンポジウム(東京対話)に加え、映画祭、音楽祭、大使館オープンイベントという3つの文化交流イベントを初めて企画さました。

各イベントに参加された方には、中央アジアを舞台とした人気コミック「乙嫁語り」の作家である漫画家・森薫先生によるオリジナル・イラスト入りグッズをご用意されているようです。多くの皆様のご参加をお待ちしております。

シンポジウム等開催イベントの概要は外務省サイトに掲載されておりますので、以下リンクを参照ください。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ca_c/page23_001619.html

11日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト: 動物写真家 前川貴行様

スタッフです。次回11日(日)のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)はゲストに 動物写真家の前川貴行様をお迎えします。

動物との対峙や衝撃 
クマに魅せられた理由や、アラスカやカナダの極地で撮影する苦労話。山中でクマなどの野生動物と遭遇した時の衝撃や、被写体とどう馴染んでいくかなどにつきお伺いする予定です。 

※トップ画像は前川氏のオフィシャルサイト内のギャラリー より

"風車のお百合"の次の手は?

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 ”風車のお百合”が、逆風を活用して都知事選で圧勝した。「風車は逆風が吹くとよく回るんですよ」と、選挙後にニッコリ。ただ、投票日間近になると自民党の組織力がフル回転していたから、内心は落ち着かなかっただろう。


 それにしても小池氏の戦いぶりは見事だった。後から立候補する〝後出しジャンケン〟が有利とされていたが先陣を切って名乗りをあげ、自民党増田寛也氏を推薦すると、自ら推薦願いを取り下げ組織応援なしの孤立無援で戦う道を選んだ。野党四党は鳥越俊太郎氏を共同で推したから、当初は組織をバックに持たない小池氏は圧倒的に不利にみえた。


 だが、政策面でも選挙戦術でもしたたかだった。増田、鳥越両候補が政策ではありきたりの品ぞろえを連呼していたのに対し、都政の透明化や待機児童、待機老人など生活に密着した政策を事細かに並べ勉強の深さを感じさせた。また、グリーン=環境をイメージさせるグリーン選挙を貫徹し「キュウリやブロッコリーなど緑の野菜でも結構です」といい、演説集会ではグリーンが段々目立ち、イメージカラーとして定着させた。さらに演説会場は中央線と山手線を軸に都の島にまで飛び「私は防衛大臣を務めたので港、海、空を活用し、ネットやSNSも毎日細かく対象毎に工夫してきました」と言って驚かせた。


 小池氏の真骨頂は”群れない”ことと、自分で発想してエイッと飛び込む度胸だろう。渡り鳥といわれ日本新党を皮切りに新進党、保守党、自民党などを渡り歩いたが、すべて自分の判断で決めてきた。政界は派閥のしがらみにとらわれる人が多いが、小池氏はほぼ無縁だった。小泉郵政選挙では、慣れ親しんだ兵庫の選挙区を捨て〝刺客〟候補として真っ先に名乗りをあげ東京から立候補し当選した。今日の都知事の基盤にもなったわけだ。


 小池氏の経歴も変わっている。関西の私立大学に在学していたが、アラビア語国連公用語になるとエジプトに留学。帰国後にアラビア語通訳、経済番組のTVキャスターを務めた後、政界へ打って出た。今もアラブの在京大使館の人々と年に数回は食事会を開き人脈を保っているほか、環境大臣当時に世界の環境大臣などとの人脈を作り上げている。何といっても有名なのは〝クールビズ〟を定着させたことだろう。センスのよいファッションを衣類メーカーに呼びかけ、小泉首相経団連会長、在京のアラブ大使などをファッション・ショーに引っ張り出し国民的なものにした。イベントのアイディアなどをすぐ実行に移す実行型の人物だ。一時は自民党で干されていたが、自分の力で復活してきた馬力は、今後の政界でもあなどれまい。
【財界 2019年9月6日号】

画像はWikimedia Commons
※本コラムは2016年8月23日発売号に掲載されたものです。

本日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~東京都外部ブレーン登用から振り返る、民間の国政ブレーン登用の起源~

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スタッフです。
本日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

テーマ:小池都知事とブレーン

本日は、就任から1ヵ月。小池都知事についてお話したい。この間、オリンピックの問題や築地の移転問題など、短期間に相当話題を振りまき、毎日のように新聞やテレビに登場し話題をよんでいる。

その中でも、築地移転延期と同時に都政改革本部を発足し14人のブレーンが入ってきたことが特に話題となっている。9月1日に第1回都政改革本部会議が行なわれたが、今後このブレーンと副知事や局長ら30人あまりで東京のこれからを話合い、決めていくようだ。

 

【14人の外部ブレーンの顔ぶれ】
14人の顔ぶれを見ると、統括をするのは非常に有名な経営コンサルタント上山信一氏(慶應大学教授)。運輸省(現在の国土交通省)を経て、コンサルタント会社「マッキンゼー」に勤務し、企業経営改革を手がけた。2008年に橋下氏が大阪府知事に就任すると特別顧問として迎えられ、赤字財政だった大阪府政の再建に尽力。11年ぶりに黒字決算で人件費を抑制し、約3%歳出を減少させた。

小池都知事はオリンピックの無駄を見直すと明言しているので、そういう意味からもそこに大阪流で斬りこむ狙いがあるのだろう。私は上山氏に2、3度あったことがあるが、コンサル的に物事を論理的にきちんと話される方。大阪の橋下氏の下で改革されているので、大阪維新の色がついている可能性があるという懸念はあるかもしれない。


【原則に合わせた問題解決】
今回の都政改革本部のメンバーには弁護士、税理士、企業の顧問など幅広い人を集めているように思う。他の主なメンバーとして、小池都知事が環境大臣在任中に環境省の地球環境審議官を務めた小池都知事の懐刀である小島敏郎氏、弁護士の加毛修氏、都知事選の時にサポートした若狭氏と同じ弁護士事務所に属する弁護士の坂根義範氏、シャープの社外監査役を務める須田徹氏などがいる。

このように有識者を集め、当面は築地の問題とオリンピック問題の改革をしていくだろう。小池都知事の偉い所は、都民ファースト、情報公開、税の有効活用といった原則に合わせてこれらの問題がうまく解決できるかどうかということを表明している点だ。築地に関しては9月中旬くらいまでに中間報告を出すことも表明している。


【日本の将来構想の礎】
このようにブレーンを集めることを遡ってみると、大平内閣を思いだす。大平氏は1978年12月に総理に就任し、その翌年79年に「大平構想」を発表。79年は第二次石油ショックの最中で、日本がこれからどう動くのかということを非常に皆心配していた。その時、大平氏は官邸にいると世間が狭くなる。裸の王様にならない為にはいろんなブレーンを集めた方がいいという考えの基、200人近い学者等のメンバーを集めた。香山健一氏、牛尾治朗氏など、その後ブレーンに欠かせない人たちがメンバーとなった。「大平構想」では、田園都市構想、環太平洋連帯構想、総合安全保障構想や財政問題構想などの9つの委員会を作った。これはそれまでのブレーン政治とは違った今後の新しい日本の将来を考える構想の基になったことが大きく、民間活用ということもはっきり出ていた。

この大平氏が集めたメンバーはその後、中曽根政権下でも引き継がれる。前川春雄・元日銀総裁らによる「前川リポート」が出来たり、細川政権下では平岩外四・元経団連会長を座長とする平岩委員会にて「平岩リポート」を作って、規制緩和の流れを作った。役所の意見をバックアップするというより、日本全体の構想を考える委員会を作っていったというのが、「大平構想」の大きな特色である。


【過去の国政にヒントを得る!?】
小池都知事もそれに類するような形でブレーンを考えたのではないかと思うが、14人のブレーンを引き連れてとなると都の職員も身構えてしまう。そんな中、小池都知事は「私たちは戦後のGHQとして都庁に乗り込んでいるわけではなく、外部から連れてきた人によって全てを決めるわけではない。」と表明し、副知事や幹部も含め皆で議論しようとしている。原則の都民ファースト、情報公開、税の有効活用に合わせ、外部から来た人たちだけで決めるというものではないということの表れなのだろう。


【今後の行方に注目】
それがどこまで説得力を持ち、素直に聞いてもらえるのかというのがポイントだと思う。オリンピック問題でいうと森喜朗氏やJOC竹田恒和氏との関係をうまくやっていけるかどうか、実に難しい。森氏と小池都知事は因縁の仲。また、竹田氏が承認したコンサル料2.3億円は違法性はないということになったが、無駄な予算をどうやって削減していくかということを掲げており、このあたりにどう斬りこんでいくのかというのも大きい。都知事選で小池氏を応援した元検事の若狭氏の仲間が今回のメンバーに入っていることから、どこかで衝突する可能性はある。

今は都民の支持をバックにしてやっているが、これがうまくいかなくなり小池都知事の支持が下がってくると小池都知事は孤立する可能性もある。今、小池都知事は孤立しないように都民ファーストといった原則を決め、それに基づきながら行なうことで論理を取ろうとしているのだろう。なかなか面白い戦いだと思う。

※画像は東京都ホームページ掲載の活動紹介「第1回都政改革本部会議」より

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