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時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

欧米の戦後レジーム 変更迫るイスラム国

コラム(財界)

 アメリカやEUでイスラム国への脅威が高まっている。オバマ米大統領やキャメロン英首相らは、口々に「イスラム国の脅威はこれまでより重大かつ深刻だ」と述べ、ビン・ラディンが率いていたアル・カイダ以上に警戒を強め、有志連合づくりを目ざすとしている。

 イスラム国は、ことし6月イラク北部とシリア東部にまたがる地域に、突然、建国宣言してできた新国家だ。といっても議会や選挙、内閣などがあるわけでなく、イラク・スンニ派過激組織のリーダー、アブ・バクル・アル・バグダディなる人物らが約2万人といわれる部隊で次々と油田などを制圧、勢力を広げているのだ。7月の1カ月で6000人が参集したといわれ、そのうち外国人が数千人、50カ国に上り、欧米出身が2000人を占めたとされる。

 アラブではチュニジアの若者が焼身自殺を遂げて政府に抗議したのをきっかけに、自由化や民主化、反貧困などを掲げた反独裁政権闘争が広がった。エジプト、リビア、イエメンなどの長期独裁政権を倒すことに成功し、シリアでも反体制派の民衆蜂起でアサド政権を崩壊寸前まで追いつめていた。しかしロシアや中国の後ろ楯を得て再びアサド政権が盛り返し内戦激化の状況に陥った。そこへ介入してきたのがイラク・スンニ派(イラクではシーア派が60%以上)の武闘組織で、イラク第二の都市モスルやシリア北部の大都市アレッポ地域などを占拠し始め、イラクのシリアの過激派グループの戦闘員らが続々とイスラム国に参加し戦闘力を強めている。オバマ大統領は、第二のアル・カイダになることを懸念し、イスラム国支配地域に空爆などまで仕掛け長期的な戦略を追求するとし、欧州にも協力を呼びかけた。

 欧米が恐れているのは、イスラム国の戦闘に参加した欧米人の半数が帰国し、自国でテロ活動を行うとの見方があるためだ。イスラム国などの活動に参加するため渡航した人数はフランス約900人、英国約500人、ドイツ約400人、アメリカ300人以上とされる。しかもフランスはイスラム教徒を約500万人、英国は約270万人を抱え、イスラムの過激派は「今後、欧米の国々でも闘争を始める用意がある」と宣言しているだけに国内テロへの懸念も強めているのだ。

 イスラム原理主義とは、イスラムの教えを忠実に守るライフスタイルを旨とする考え方だ。イスラムアラブ諸国は元々誇り高い優秀な民族で科学、文化、学問などでも13世紀ぐらいまでは世界の先頭を走っていた。欧州のキリスト教十字軍が何度も戦争を挑んだが退けられたのはその良い例だろう。ところが欧米が近代化に成功し、第一次大戦オスマントルコ帝国が崩壊したとき、イギリス、フランスなど連合国側が秘密裡にサイクス・ピコ協定を結びイラク、シリア、ヨルダン、レバノンなど分割を決め、地図上に定規をあて勝手に国境を定めた。最近、イスラム国は、欧米の定めた戦後秩序への見直しとイスラム復権を賭けた思想、闘いだとしている。20世紀に固定したかにみえる戦後レジームがあちこちで問い直されているのか……。
【財界 2014年10月7日号 第384回】