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ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

わかりにくい 農協改革論争

最近、わかりにくい政策論争が多い。そのひとつが農協改革だ。

 自民党の農協改革検討チームが全国約700の地域農協を統括する全国農業協同組合中央会(JA全中、万歳章会長)に対し、JA全中の監査権を廃止すべしと要求している問題である。監査権とはJA全中の全国監査機構の農協監査士が地域農協の財務諸表をチェックする会計監査と日常業務を点検する業務監査の権限のことをいうらしい。一般企業では外部の公認会計士監査法人などが正しい会計、決算処理などを行っているかどうかをチェックしている。

 政府・自民党がJA全中の指導・監査権を全廃せよと主張するのは地域農協の自由な活動を阻害し、画一的な指導方針が地域の特性に応じた農業の展開を阻んでいるからだという。また指導・監査権に基づいて約100億円前後の賦課金を集めてJA全中の農業保護の活動費に使われているとみている。  農業の自由化と保護政策はつねに対立してきた。ただ、これまではアメリカなど海外からの自由化圧力に対し、政府・自民党も農協と一体となって反発してきた歴史が多い。牛肉・オレンジ問題や他の農産物の輸入規制に対し、これまでの政府・自民党は「自由化すれば日本の農業は大打撃を受ける」とつねに抵抗し、そのバックにはJA全中を票田とする自民党などの農林族議員が後押ししていたのである。  今回の農協改革は、日本の農業の競争力を強化するには、JA全中の統一的支配権が、いわゆる〝岩盤〟のように固く、ここに風穴をあけたいとする安倍首相と自民党規制改革派の主張でもある。その戦いが全面衝突したのが佐賀県知事選で、安倍政権と与党改革派が推した推薦候補が農協の政治団体が支持した候補に敗北してしまったのだ。農協と農林族議員の強さを見せつけた点で、政局的には面白く大きな話題となった。

 しかし本当の問題は、日本の農業を再生し強くするにはどうしたらよいかについて国民の前で議論すべきなのだ。農協監査権が日本農業とどう関係しているかという具体的中味や論理が国民には見えず、農業関係者や利益団体のコップの中の嵐にしかみえないのが実情である。

 私は、日本の農業の再生力はあるし、改革によって輸出競争力もあると思っている。日本の農畜産物は安全でおいしいというのが国際的評価なのだ。多少高くても安全でおいしい農畜産物を食べたいという外国人は多いし、特に中間層が増大し健康や安全に気を使い始めた中国やアジアなど近隣諸国では人気が高い。輸出を強化するには、輸入規制もゆるめなければなるまい。また一律的なバラまき農業予算はやめ、付加価値の高い農畜産物生産者や環境に配慮した農家などに傾斜配分した予算をつけるなどを考えるべきだろう。こうした農業再生や消費者ニーズ主体の農協改革なのかどうか。もっと生活者にわかりやすい農業再生論、農協改革論を展開して欲しいものだ。【財界 2015年02月24日 393号】

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