TPP決着で勝つ道探れ
TPP(環太平洋経済連携協定)がやっと大筋合意に達した。これにより国内総生産(GDP)で世界の4割近くを占める大経済圏がアジア太平洋地域に生まれる可能性ができた。中国もTPPとは別に東南アジア、日本、韓国などを含む経済協定をもくろんでいるが、TPPはギリギリのところで中国に先んじた。
TPPの参加国はアメリカ、カナダ、オーストラリアなど12カ国だ。中国は東南アジアと経済協定を結ぼうとしているほかアジアインフラ銀、BRICs銀行が一帯一路(新シルクロード)構想など独自の構想を公表しアジア太平洋で経済主導権を握ろうとしている。TPPがモタモタしていたことは絶好のチャンスとみていたようだが、肝心の中国経済がバブルで破裂する状況に陥り急失速してしまった。
もともとTPPはシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドなど太平洋岸の小国4カ国からスタートしたものだった。この構想にアメリカが目をつけ、世界経済問題に仕立てあげたのだ。日本は当初、慎重だったが、アメリカ主導に大きく衣替えしたため、乗らざるを得なくなった。
しかし、日本の農業団体などは海外から農産物輸入がふえるため反対を唱え、バイオ医薬品をめぐる独占的販売のデータ保護期間や自動車部品の調達ルールなどについても日米間などで交渉が難航し続けてきた。とくにアメリカのフロマン代表は、アメリカ議会から交渉権限をなかなか得られなかったため、TPP交渉を延長させるトラブルメーカーになった時期さえあった。このため日本の甘利TPP担当相は「アメリカがしっかりしてくれないから何度も延長交渉が続くのだ」とおかんむりになっていた。
日本はTPP交渉で、関税協議の対象からコメなど日本の重要5品目をはずすことを明言して交渉入りした。しかし結果として農産品の関税引き下げなどで撤廃を余儀なくされそうだし、日本が求めていた自動車関税(2.5%)の撤廃は、何と25年もかける結果となった。このほか著作権の保護期間などもアメリカに押しまくられて譲歩してしまったようだ。
問題はこれからだ。大筋合意とはいっても合意内容を各国議会で承認しないと発効できないからだ。アメリカは来年大統領選挙があり、日本は参院選挙だ。日本では早くも参院選用に1兆円前後の農業補助金などを出すというウワサが出ているし、アメリカも慎重。オバマ大統領のリーダーシップが再び問われることになりそうだ。
とはいえ、日本は自由競争社会で公正貿易を主張しながら競争力を高めていく以外に生きる道はない。日本の産業界、国民は覚悟を決めて競争に勝つ方法を見つけるしかないだろう。
【財界 2015秋季特大号 第410回】