時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

【世界覇権の交代期へ?】~中国AIIB構想、リーダーシップ失う米~

 最近、西側自由主義陣営の足並みの乱れが目立つ。最も大きく割れたのは、中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への対応だろう。IMF(国際通貨基金)・世界銀行を牛耳り、戦後の国際金融秩序の軸となっているIMF・ブレトンウッズ体制を作り上げてきたアメリカが、中国のAIIB構想でリーダーシップを失っているのだ。

 乱れのきっかけを作ったのはイギリスだ。AIIB構想は2013年秋に中国が発表したものだが、当初は世界を揺るがすものになるとは誰もみていなかった。それが2015年に入って突然イギリスが参加表明をした途端、フランス、ドイツ、イタリアも追随、あろうことかアメリカの弟分であるカナダ、オーストラリアまで参加すると言い出した。参加表明は4月現在で57ヵ国に上った。大国で様子見をしているのはアメリカと日本ぐらいである。

 2000年頃まで、世界を動かしていたのはアメリカを中心とする西側先進7か国のG7サミット(首脳会合)だった。サミットの決定こそが、1~2年から数年先までの政治、経済、安全保障、環境問題などの世界の流れを決めていた。サミットは首脳の個人代表(ジェルパ)が年に数回にわたり国際情勢、世界経済を分析し大まかな方針を決め、最終的決定を年に1回開くサミットで共同声明として発表していた。この共同声明の決定プロセスや声明の微妙な言葉使い、言い回しの中に各国の主張、思惑が調整されていたから、眼光紙背に徹して読むと1~2年の国際情勢の流れが読めたのである。私はこのサミットに30回位現場取材してきた。

 そのG7が求心力を失いはじめたのはブッシュ・ジュニアが大統領となり、2000年代に入って”強いアメリカ”を過信し中東の戦争にのめり込んでいった時からだろう。特にイラク進攻に当たってはフランスやドイツが反対したものの、大量破壊兵器を持つイラクを撃つべし、とアメリカが有志連合を募ってイラク戦争を仕掛けた時代からG7の結束はゆるみ始めた。イラクをたたき、フセイン大統領を捕えたものの、結局大量破壊兵器は見つからず、多くの兵を失ったブッシュ大統領の権威は低落。ブレア英首相も退陣に追い込まれた。仏・独とアメリカの関係もギクシャクしたものになっていった。

 さらにウクライナをめぐる対ロシア制裁でも、ロシアに天然ガスを依存するEUとアメリカでは温度差が大きく制裁内容を巡って方針がまとまりにくかった。オバマ大統領は中東やアフガニスタンに派遣していた米軍を縮小し始めると、ますますアメリカのG7への発言力は落ちていった。G7だけでなく、各国は「アメリカは世界の警察官の地位を降り始めた」と見始め、台頭してきた中国と天秤にかけ始めたのである。

 アメリカの衰退は、オバマ大統領の個人的指導力の弱さによるものなのだろうか。もちろんオバマのリーダーシップには世界首脳はウンザリしているが、元はといえばそのオバマを選んだアメリカの国力の衰退にあるとみた方がよいように思う。アメリカは明らかに”戦争疲れ”をしており、かつてのモンロー主義の世界に戻りつつあるように見える。

 イスラム国に対しても、無人の戦車、戦闘機で攻撃はするが、決定打となる地上戦には兵を送る決断ができないでいる。このままイスラム国が勢力を伸ばし、中国が見ぬふりを続ければ、世界はますます求心力を失おう。

 近世以降、15-16世紀はスペイン、ポルトガルが世界に乗り出し、17世紀に入るとオランダ、18世紀にはイギリス、フランスなどがアメリカ、アジア、アフリカに勢力を伸ばし、20世紀前半はイギリス、第二次世界大戦以後になってアメリカが世界のリーダーに君臨した。過去の歴史を振り返ってみても一国の覇権は、せいぜい100-200年程度だ。はたしてアメリカの衰退は一時的なものなのか、交代期への過渡期なのか?世界各国も冷静に間合いをはかり、大国とのつきあいの軸足を動かし始めたのではないか。
【Japan In-depth  2015年4月22日掲載】