爆買いが変える通貨や規制
中国の存在感がまた一段と高まりそうだ。中国の通貨である「元」が、国際主要通貨として認められるためだ。国際通貨基金(IMF)が、加盟国に配る「特別引出し権(SDR)」の構成通貨に人民元を採用、その構成比率は日・英を抜いて第三位となる。
2015年の主要国際通貨とその使用シェアは米ドルが43・3%、ユーロが28・6%。英ポンド9%、日本円2・9%、人民元2・5%、その他が13・8%だった。中国はいま30カ国以上の中央銀行と通貨を融通しあう通貨スワップ協定を締結しており、世界最大の金属取引所であるロンドン金属取引所(LME)も、15年7月から銅などの取引でドル、ユーロ、英ポンド、日本円に加えて人民元を担保に使うことを認めた。世界第2位の経済力で、今後も人民元ニーズが拡大するとみて欧州各国は、一斉に人民元を使った取引拡大に走っているのが実情だ。
IMFが人民元をSDRに取り入れたということは、IMF加盟国188カ国の中で貿易の支払いに使う外貨が不足した国は、ドルやユーロなどと同様に人民元も自国に割当てられているSDRとの交換対象にすることができるということだ。SDRは通貨ではなく、外貨を引き出せる権利を指し、SDRの価値は5年に1度、主要通貨から総合的に算出されることになっているが、元はいきなり主要通貨の第3位にランクされたのだ。
ただ主要構成通貨として認められるには、貿易額が多いことや「自由に取引できる」といった条件が満たされないとお墨付きをもらえない。たとえば人民元が政府から独立した通貨でなく、中国共産党の意向に左右されたり、中国の政治が不安定だったり、政策が信用されなければ人民元を国際通貨として使わないことになる。
そう考えると、中国は通貨の分野でも一段と存在感を増したようにみえるが、中国は今後国際ルールを順守し、自由に取引できる開かれた国にならなければいけない義務も負う。
20世紀の世界では、元が取引通貨として使える国は限られていた。日本でも、企業取引や百貨店などで元を出されても受け取りを拒否していただろう。元をもらっても中国国内でしか使えなかったからだ。しかし、今や中国観光客などは〝爆買い〟をしてくれるので、デパートなどでは、元の決済を認めるようになった。というより元決済を認めないデパートなどには中国人買物客が来ない。
つまり元の国際化は、否応なく中国の自由化にもつながっていくことになろう。〝爆買い〟が中国の通貨の規制緩和につながっているわけで、それはいずれ通貨だけでなく移動やライフスタイルの自由化、社会主義の弱体化、変質にもつながってゆくだろう。
【財界 新春特別号(2016年1月12日)】