サミットは実質崩壊へ 安倍訪欧も実らず
安倍首相は5月26~27日の伊勢志摩サミット根回しのためヨーロッパを駆け足でまわった。本当に海外首脳と会うのが好きになったようで、もう趣味といってよいほどだ。日本の首脳はこれまで引っ込み思案だったので足腰軽く1週間弱で数カ国をまわって顔をつきあわせるのはいいことだ。日本の首相としては珍しいタイプだろう。安倍首相に刺激されたのか岸田外相もこのところ頻繁に各国首脳と会い次の首相候補に大きな得点を稼いだことだろう。
ただ、今回の首相外遊の成果は必ずしも大きくなかった。デフレ脱却のため各国が金融と財政で協力し、テロや中国の動きをけん制するため”法と秩序”の回復、実現を呼びかけて今回のサミットの共同声明の目玉にしようというのが訪欧の狙いだった。しかしほぼ賛意を表したのはフランスとイタリアぐらいで他国は必ずしも態度を明確にしなかった。とくにドイツの支持を取り付けたかったが、一発で「うん」とはいわなかったのは気がかりだろう。
それもそのはずで、支持を表明したフランスでさえ、パナマ文書に抗議する大デモが起きている。もしかするとパナマ文書を巡る税金、国際税制の話は”お手やわらかに”という取引きなのかもしれない。ドイツは景気が悪化しつつあり、財政出動には諸手をあげて賛成とはいかないし、イギリスは統一地方選で右派強硬派が支持率1位で、スコットランド独立の火種も残っている。ヨーロッパは各国とも右派強硬派が力を伸ばしており、これに難民問題がからんで本音は世界経済のことをのんびり話している余裕はないということなのだ。
もっとも気になるのはアメリカだ。日本にも批判的なトランプ氏が共和党の大統領候補になることが確実になってきたため、各国ともアメリカの行方を気にし、トランプ氏の本音と建て前をじっくり知りたいところだろう。オバマ大統領がいくら前向きの約束をしても11月にはヒラリーかトランプに代わるわけだから、オバマに聞きたいのは、ヒラリーやトランプの人柄や本音と対日観だ。とくにトランプにはいい選挙参謀がついたといわれるから予断は許さない。
以前から私はこの欄で述べてきたが、G7サミットの役割は実質的にもう終わっている。中国や新興国との溝は埋まらないことがはっきりしたし、一時はロシアも入っていたG8も崩壊した。昔のG7サミットに戻ったとはいえ、もはや世界を救うカネも求心力もないのが実情だ。いっそのこと各国が5~10年後の世界情勢を率直に話し合った方がエキサイティングな会合になろう。実現できない共同声明づくりに時間を割くのは勿体ない。
【財界 2016年6月7日号 第424回】
※なお、本コラムは先週発売の財界に寄稿したものを掲載しておりますので、若干のタイムラグがあります旨ご了承下さい。
※画像は外務省 伊勢志摩サミットフォトサイトより