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東南アジアを大事に!

クアラルンプール・ペトロナスツインタワー

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 先日、マレーシアから来日している40歳前の知人と会食した。子供2人を伴なって家族と4、5年前から日本で暮らし、もう少し資金が貯まったら起業してシンガポールで上場したいと意気込んでいる。日本語も上手でエネルギッシュな語り口は周囲の人を引き込む力を持っている。

 マレーシアの人口は3000万人強。韓国、台湾、香港、シンガポールなど日本を追いかけて中所得国入りした国々の後に続く成長著しい途上にある。そのせいか、最近マレーシアに進出する日本企業や余生をマレーシアで過ごしたいという中高年層以上の日本人も増えていると聞く。アジアの金融センターであるシンガポールの隣国にあり、シンガポールとの往来が簡単にできる点も人気の要素らしい。

 しかし、そのマレーシア人が言うには、「日本の企業や中高年層の間ではマレーシアの評価が高まっているのに、政治家の関心が薄いのが残念だ。安倍首相は2017年1月に東南アジア3カ国を訪問した際も、マレーシアは含まれておらず、2015年以来、マレーシアを訪れていない」と言い、さらに「マハティール首相が『LOOK EAST』のスローガンで日本を見習う方策を打ち出し日本の存在感が高まったのに、安倍首相の目はアメリカやロシア、中国、韓国などばかりにしか向いていないのではないか」と言うのだ。

 確かに安倍首相は「外交の安倍」を売り物にしているが、東南アジア10カ国にはほとんど足を向けていないのが実情だ。トランプ大統領とは約4年間で首脳会談と電話協議を合わせると44回。プーチン大統領とも26回の会談数に及んでおり、中国の習近平首席や幹部と日本の首相、閣僚らの往来も頻繁に行なわれているが、東南アジア首脳との膝を交えた光景を見ることは極めて少ない。

 かつて日本の首相らは東南アジア首脳との往来を大事にしていた。先進国7カ国首脳会議(サミット)がある時は、必ず事前に東南アジアと情報交換を行ないアジアの要望をサミットで伝えていた。さらに、サミットが終了すると内容を報告したりしていた。そこには日本は「アジアを代表してサミットに参加している」という意識があったのである。

 いまアジアからみると、”日本はアメリカにすり寄るばかりでアジアの代表という意識がないから、その隙間に中国が入り込んできている”と感じているのだ。日本の依って立つ基盤はアジアにあるのだということを改めて自覚し、外交を立て直さないと、日本はアメリカと中国にはさまれて根無し草になってしまう時代が来ないとも限らないのではないか。
【財界 2019年12月10日号 第508回】

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