サミットは死んだ
20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)は6月29日に閉幕したが、結局2年続けて首脳宣言への〝反保護主義〟の記載を見送り閉幕した。日本が議長国を務め、今や世界はバラバラで貿易や気候問題など世界の主要課題について意見がまとまらず、G20の限界を露呈したままだった。
会議は議長の安倍首相の両隣にトランプ大統領、習近平国家主席が座って始まったが、デジタル覇権を巡って米・中が対立しただけでなく、北朝鮮やイランの核開発、気候変動への取組みなどについても意見がまとまらなかった。トランプ大統領の”アメリカ第一”の一国主義が世界に蔓延してしまったようで、各国とも自国の主張を強調するばかりで世界が協力してゆこうとする精神が無くなってしまったかのようだった。もはや20カ国の首脳が集まっても意見の対立が目立つばかりで国際社会は危険な岐路に立っているといえる。
かつてのサミットには、「自由」「公正」「正義」「人権」「気候変動の抑制」など各国がそれなりに一致する価値観でまとまりがあり、それらを世界運営の軸に据えてきた。しかしトランプ大統領が〝アメリカ第一〟を掲げ、話し合いによる協調よりも”ディール(取引)”で物事を決める手法を取るようになったことから世界の交渉風景は一変してしまったのだ。
アメリカに対抗する中国は自由貿易の重要性を唱えるが、アメリカが関税などで制裁をかけると同様の制裁で対抗するのが実情で、特に安全保障に関係したファーウェイ(華為技術)の輸出入に関係した関税制裁合戦では両国とも互いに約二兆円の貿易額の減少に至ったとされ、この結果、中小企業や消費者にまでトバッチリを与えているのだ。
仲介に立とうとした日本にもアメリカは自動車や武器、農産品などの輸入増によりアメリカの対日赤字を減らすよう要求しているし、独・仏の主導力が低落している欧州にもアメリカ第一主義をいさめる力がない。
フランスで45.9度を記録した世界の異常気象現象に対しても、アメリカは気候変動枠組条約から脱退し、先進国と途上国の意見も食い違って有効な対策を打ち出せていない。異常気象は欧州だけでなく中国、南米、インド、イラン、日本などにも広がって観光や経済で2030年には2兆4000億ドルの損失が予想されている。
今回のG20では個別首脳会議を開く用意もされていたが大きな成果はなかったようだ。私は第1回G7から約30年サミットの現場取材を行い、友人から”サミットオタク”と呼ばれていたが、洞爺湖サミット以来やめている。サミットは死んだのだ。
【財界 2019年8月27日 第501回】
※本コラムは8月下旬のフランスG7サミット前に入稿しております。
フランスサミットでも反保護主義の記載はなく、フランスが重視した地球温暖化に関しても一言も触れられませんでした。
嶌がこれまでのサミット取材を記した拙著「首脳外交」(文春新書)にはサミットが隆盛の時代の外交について描かれております。興味をお持ちの方は合わせてご覧下さい。