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【再掲:全文掲載】日韓関係を築き直す好機 ―苦労を知り筋を通す文在寅新大統領―

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※本コラムはまぐまぐ有料 ジャーナリスト嶌信彦「虫の目、鳥の目、歴史の目」2018年1月12日配信したものです、本日掲載のコラム「トランプ、強気策で突破 金正恩の小細工効かず」内に関連事項がございますので、全文掲載いたします。

 二国間の政治関係を良好に保つには、経済や歴史、政治問題などもあるが、何より重要なのはトップ(首相、大統領)が互いに胸襟を開き、心おきなく率直に話合える関係をもてるかどうかだろう。たとえ一時的に言い争いになるかもしれなくとも、口ごもらず正直に自身の主張を言い、違いを認め合った上で、その溝を埋めてゆく熱意を示し合うことが友人関係を築く極意だ。人間同士なら本気で解決の道を探りながら情熱を込めて語っているとわかれば、互いに相手の人物像の印象が強く残り長く付き合っていこうとなるものである。口当たりの良い外交辞令を並べ、その場だけの雰囲気を納めようとしても決して真の解決にはつながるまい。知人から友人関係に発展する場合と国家関係も基本的には同じだろう。

 日韓関係は、トップ同士だけでなく長い歴史関係や民族的対立、過去の支配・被支配の差別感情などもあって近代以降の両国は、決して良好だったとは言えまい。

 そこへ今回新たに登場した韓国の大統領が文在寅(ムンジェイン)氏である。文氏は韓国南部(慶尚南道)の釜山に近い巨済(コジェ)生まれで65歳。両親は朝鮮戦争1950~53年)時に北朝鮮から逃れてきた難民だった。貧しさの中で育ち、奨学金を得ながら大学を卒業した。しかし軍事独裁の朴正煕大統領政権下で民主化デモの指導者として逮捕され、拘留中に司法試験に合格する。釈放後は20歳代前半に兵役につき、後に大統領となる盧武鉉ノムヒョン)氏と82年に共同で弁護士事務所を開設し、労働者支援の人権派弁護士となっている。2003年に盧武鉉氏が大統領に当選すると乞われて秘書室長に就任、政治の世界へ飛び込んだ。2009年盧氏が自殺した後、12年の大統領戦に立候補したが朴槿恵前大統領に4ポイント差で敗れている。

 その後2度目の大統領選の準備を続けてきたが、その間、朴前大統領への抗議デモに参加したり韓国の“政経癒着”体質を批判したりして若年層の指示を固めた。大統領に当選すると「正義と常識が通り国民だけをみて正義感あふれる誇らしい堂々たる大韓民国の大統領になる」と勝利宣言をした。

【筋を通す正義・法治の人物か】
 小さい頃から熱心なカトリック教徒として過ごしているが、高校時代には酒とたばこで3~4回の停学処分を受けたり、大学時代では朴正煕政権への抗議デモで催涙弾に当たり気を失ったこともある。なかなか面白味のある人物とみえる。その時介抱してくれた正淑氏が後の奥さんとなっている。若い頃から貧困ながら正義感の強い活動派だったという。ただ日本とのつながりはほとんどなかったようだ。テレビ、写真、似顔絵などでみる文氏は穏やかな顔つきで知的な佇まいをしており、庶民派大統領として70%前後の支持率を誇っている。

ポピュリズムには流されまい】
 この文氏と日本、北朝鮮、中国、ロシア、東南アジアなどがどう付き合っていくかによってアジア情勢の安定感も異なってこよう。

 私の印象では、革新系の庶民派であると同時に、映像やしゃべり方、似顔絵などをみた印象からすると正義感にあふれ、筋を通す紳士的な人物にみえる。慰安婦問題では、韓国外務省の調査に納得がゆかないと苦言を呈し、韓国における親日派清算が解放後に十分に行われていないとしているが、直ちに日韓合意を破棄するとも明言していない。慰安婦や韓国国民の感情をくみ取りながらも“日韓友好”“法治国家”としての振る舞いを大事にして未来志向の正常な外交関係を模索したいという意思が感じられる。ポピュリズムに流されることなく歴史問題を解決し本当の友好関係を築く姿勢で外交に挑むという言葉に真実味を感じたがどうだろうか。

【安倍首相の役割は100回余の首脳会談の経験を生かすこと】
 一方、安倍首相は文氏とは全く肌合いの違う政治家だ。三代にわたるエリート政治一家の三代目として5年を越える首相経験を持つ。本当の貧しさや痛みは殆んど知らずに育った“坊ちゃん”政治家のようにみえるが、首相の座をいったん捨てた挫折から這い上がってきた経歴を持つだけに決して凡庸な政治家ではあるまい。周囲の官僚やアドバイザーの話を聞き、彼らの言の取り入れるべき点はよく取り入れながら政治を進めてきたことが、ある種の安定を築いてきたのだろう。それと、外交を嫌わず、すでに100回以上の首脳会談を行ない、自然に世界をみる眼を養ってきたことも大きな財産になっているはずだ。

 その経験を生かし新しい韓国の文大統領とも腹を割った付き合いをし、これまでにない日韓関係を築けば安倍首相をみる国内の目ももっともっと違ってくるだろう。これまでと違い久しぶりに韓国に誠実な大統領が現れた印象を持つ。この機を逃さず、じっくりと良い関係を築くべきだ。
まぐまぐ有料 ジャーナリスト嶌信彦「虫の目、鳥の目、歴史の目」2018年1月12日配信】