菅政権は東南アジアに注力を
国内問題はしっかり把握しているが、外交経験の乏しいことが菅首相の弱点といわれていたせいか、就任直後から精力的に”電話外交”をこなしている。9月20日から29日までの対談相手は次の通りである。
20日 トランプ・米大統領
モリソン・豪首相
22日 メルケル・独首相
ミシェル・EU大統領
23日 バッハ・IOC会長
ジョンソン・英国首相
24日 文在寅・韓国大統領
25日 モディ・印度首相
習近平・中国家主席
26日 国連総会でビデオ一般演説
29日 プーチン・露大統領
最も時間を割いたのは中国で、コロナ対策で協力を深めたいと呼びかけた。米や欧、印度などで第二波が襲来し、日本国民も不安に思っている課題で、ワクチンの開発や供給に連携を深めていきたいと提案することは重要な第一声だったろう。あとは「自由で開かれたインド太平洋」や「積極的平和主義」など安倍前首相の路線を踏襲したもので・菅・色のある外交路線はまだ見えなかった。
電話会談の選択は、同盟国の米、準同盟国の豪、さらに先進七ヵ国を代表する欧州の独・英と続き、懸案を抱える韓、中と最近存在感を強めている印度を選んでいる。残念なのは、日本に最も近い東南アジア諸国が後回しになっていることだ。安倍前首相も地球儀を俯瞰する外交を唱え80の国と地域をまわり日本のアピールに力を入れたが、米や露など大国が中心で日本の足元の東南アジアへの配慮が少なかったように思う。
日本外交が寄って立つ基盤は、戦後一貫して地縁的にも歴史的にも東南アジアにあり、戦争で迷惑をかけた償いに歴代首相は、何度も東南アジアに足を運んだ。また日本は先進国首脳会議などの事前事後に東南アジア諸国をまわり、先進国に伝えるべき希望や会談の事後報告などを丁寧に行ってきたものだ。まさに日本はアジアを代表する意識を持ってアジア外交を大事にしてきた。
安倍外交では、世界における日本を意識してか、東南アジアとの親交を少し控えすぎてきたのではなかろうか。いま東南アジア諸国は成長を遂げ新興中進国になりつつある。一方で中国が東南アジア諸国に接近し、経済で恩恵を与えつつも、安全保障では警戒感をもたれ始めている。
政権交代を機に、改めて東南アジア諸国にしっかりと顔を向け、日本の基盤は東南アジアにあることを肝に銘ずるべきではないか。中国が東南アジアの代表としてふるまう前に足元を固め、外国訪問の中心を東南アジアから開始することを期待したい。
【財界 秋季特大号・2020年11月4日号】
※本コラムは10月上旬に入稿しております。
■参考情報
・菅首相が初の外遊先としてベトナムを訪問、首脳会談で連携強化に合意 10月22日 JETROビジネス短信
菅義偉首相は10月18日から20日にかけて、就任後初の外遊先となるベトナムを訪問した。19日午前にはハノイ市内の首相府で、グエン・スアン・フック首相と会談した。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/10/7fbd347a854ae9c8.html
・9月30日以降の外交日程は以下の外務省サイトを参照ください。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_suga/index.html
・世界の指導者がバイデン氏の勝利を歓迎、菅首相「日米同盟強固に」 11月8日 Bloomberg
世界の指導者は民主党のジョー・バイデン氏の米大統領選挙勝利に祝意を表した。バイデン氏が各国との関係を再構築し、気候変動や新型コロナウイルス対策での協力体制など世界的な問題に新たな焦点を当てることを期待している。菅義偉首相もツイッターに投稿した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-11-07/QJG4ZGT0G1KZ01
画像:首相官邸Facebook