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ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

18日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:日本初の女性報道写真家 笹本恒子様 音源掲載

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スタッフです。18日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)のゲストに日本初の報道写真家で先日写真界のアカデミー賞ともいわれる米国「ルーシー賞」を受賞された笹本恒子様をゲストにお迎えした音源が番組サイトに掲載されました。

今回は笹本様のお住まいにお邪魔して収録いたしました。マッカーサー元帥夫妻に直接声をかけて、夫妻の撮影に成功したときのエピソードや、はじめは家族に内緒でカメラマンになったエピソードなどをお伺いいたしました。

次週も引き続き笹本様をゲストにお迎えし、三笠宮崇仁さまのご家族の写真を、戦後間もなく撮影したときのエピソードや、女性が冷遇されていた当時、明治生まれの女性たちを撮影したときの思いなどについてお伺いいたします。次回もご期待ください。

笹本様の著書「好奇心ガール、いま101歳: しあわせな長生きのヒント」 (小学館文庫)はただいまアマゾンの写真家カテゴリーにてベストセラー1位となっていらっしゃいます。合わせてごらんください。

18日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 日本初の女性報道写真家 笹本恒子様をゲストにお迎え

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スタッフです。次回18日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)は、ゲストに日本初の報道写真家で先日写真界のアカデミー賞ともいわれる米国「ルーシー賞」を受賞された笹本恒子様をゲストにお迎えいたします。

マッカーサー元帥夫妻に直接声をかけて、夫妻の撮影に成功したときのエピソードや、はじめは家族に内緒でカメラマンになったエピソードなどをお伺いする予定です。どうぞご期待ください。

アメリカ理念の没落か

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「トランプはポピュリズムで権力を握ったが、その後の統治手法はポピュリズムではない。今後、上院も下院も最高裁判所も保守一色で染まるだろう。しかしアメリカ社会の分断にも深い傷跡を残した。新大統領選後1週間以上も反トランプの大衆行動が各地でおこっていることは、分断の深刻さを残している」

「アメリカは世界一の軍事力を世界安定の国際公共財として使うケースが多かった。また、自由貿易の旗頭であり、パリ協定(環境)、核不拡散、反テロなど優れた課題設定能力で世界を引っ張ってきた。それがアメリカファースト、メキシコ国境に壁建設、TPP反対、NAFTA北米自由貿易協定)反対、日本の軍事負担をさらに増大──など一人よがりの主張が目立つ」

「良しとされたグローバル化のスピード違反が世界各地で起こっている。自動車の街・デトロイトはいまやデストロイ(破壊)状況だ」

「チャイナマネーがデトロイトの街を復活させつつあり、米国各州のトップが中国に資金協力を求めている。世界全体の衰弱の動きの中で、中国からみていると個別的には世界が必死に動いているようにみえる。中国はまだ覇権国にはなれないし、その気もないと思う」

「世界はプーチン習近平、トルコのエルドアン、比のドゥテルテ、北朝鮮金正恩、それにトランプと安倍政権など一強支配の国が目立ちはじめた。一方でEUはイギリスの離脱、難民問題でガタガタだし、中国・ロシア経済も悪化し、日本も依然消費がふえない。健全な自由主義市場経済、国際協力が崩れ始め21世紀型の世界理念がみえない点が気になる」

「中東も、アメリカとシリア、ロシア、ISなどの合従連衡が複雑で変化しつつあるが、ISがこれ以上力をもつことはありえないのではないか。アメリカ国内のテロが気になるが、今のところ国内のイスラムテロ対策は案外しっかりしている」

「ロシアはEUと対抗するため中国に顔を向けたが、しっくりいっておらず最近は日本に接近している」

 ──これらは11月14日、日本ウズベキスタン協会主催の「アメリカ大統領選後の世界と日本」と題するシンポジウムの中で各パネリスト(岸井成格氏、高橋和夫氏、田中均氏、富坂聡氏、司会嶌信彦)が語った骨子だ。大統領選直後の一流論客の討論会だったので雨の降る悪天候の中、200人の定員に対し187人の人が参加された。質問も多く討論会終了後は、「いい討論会だった」「来た甲斐があった」などの感想も多かった。皆さんの出されたキーワードは「大変動時代の始まり」「世界の軸はどこへ向かうか」「アメリカ一強時代の終焉」などだった。
【財界 新年特大号2017 第437回】

※画像:今年3月のトランプ氏への抗議デモの様子(Wikimedia Commons)

 昨日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 坂茂様(プリツカー賞受賞・建築家)をお迎えする二夜目音源掲載

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スタッフです。昨日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)の建築家の坂茂様をゲストにお迎えした二夜目の音源が番組サイトに掲載されました。

紛争地帯や災害現場を飛び回り「行動する建築家」の異名を持つ坂様の国際的な支援活動と、素材を生かした優美な表現を両立させ「建築の世界で稀な存在 」として建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を受賞したときの思い、ブラッド・ピット氏との親交などについてお伺いいたしました。

昨晩の放送内でお話しされていた坂様が手がけられた建築の画像をご紹介します。
ポンピドゥ・センター

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画像は上記リンクのフランス観光開発機構(アトゥー・フランス Atout France)サイトより

大分県立美術館

 坂茂建築設計様のサイトより

 坂茂建築設計様のサイトには様々な取り組みが掲載されておりますので合わせて参照ください。 

坂様の著書が好評発売中です。ぜひご覧ください。

前回の、紙、木、布、輸送用コンテナなど、弱いと云われる素材を災害現場の仮設住宅に活用されたり、ダイナミックな美術館の空間を形作られております。本来、主役にならないような材料に目を向け、制約があるからこそ広がる独自のスタイルにこだわる理由をお伺いした放送は今週水曜日正午まで番組サイトにて音源が限定公開中です。お聴き逃しの方は合わせてご利用ください。

次週は、日本初の女性フォトグラファーで写真界の世界的な賞である米国の第14回「ルーシー賞」を受賞された笹本恒子様をお迎えする予定です。

29日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~実は過去に返還のチャンスがあった!? 北方領土の歴史を振り返る~

スタッフです。
29日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

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テーマ:近いようで遠い、日露の領土問題。安倍政権で巻き戻り?

【遠くなった冷戦の日々】
キューバカストロ氏が11月25日に亡くなられた。カストロ氏はソ連の基地をキューバに作るとして、非常に問題となりアメリカと一触即発の状態に陥った。キューバはアメリカの目と鼻の先にあるためである。このキューバ危機など、冷戦の象徴的な人物であるカストロ氏が亡くなったというのは、冷戦も本当に遠くなった感じがする。

本日はその冷戦時代から大きく変遷しているロシアに注目したい。今日本とロシアの間では改めて北方領土問題が大きくクローズアップされている。この北方領土問題について少し歴史をひも解いていきたい。


【日露食い違う領土の主張】
12月15日にロシアのプーチン大統領が来日し、北方領土問題、平和条約の問題、日本の経済協力の問題について話し、進展があるのではないかと期待されている。しかしながら、歴史をひも解いてみると戦後からなぜこの北方領土問題の係争が続いているのかという点において、双方に認識の違いがあるというのが大きな要因であるように思う。

日本は1951年の9月にサンフランシスコ平和条約締結において、「千島列島と南樺太の放棄を宣言」している。しかしながらこの条約では千島列島の範囲を明確にしていなかった。千島列島はカムチャッカ半島から根室まで続く群島を指すのだが、ここで日露の食い違いがある。

まず、日本の言い分は、「千島列島は放棄するが北方4島(択捉、国後、歯舞、色丹)は日本固有のもので昔から権利を放棄していない。」それに対して、旧ソ連は「千島列島全ての島がそこには含まれ、北方4島の問題はない」という認識の違いから始まっているものである。

北方領土問題が解決しかけた時期があった・・・】
その後北方領土問題はこう着状態が続いたが、一転する時期が実はあった。それは、ゴルバチョフ氏、エリツィン氏が大統領を務めていた頃。ソ連が弱体化し、ペレストロイカ改革運動をやっていて、軍事的な問題よりおカネが欲しいというように変わってきた時期だったのだ。

オホーツク海ソ連太平洋艦隊の集結地で軍事的に聖域だったため、その出口をふさいでいる千島列島は非常に重要な位置であり、軍事戦略上の価値があった。この地域が日本のものになると太平洋に出られなくなってしまうという理由から、ソ連はそれまで北方領土に非常にこだわってきた。ところが、ソ連が崩壊寸前となりそんなことをいってられなくなり、むしろカネと技術の方が大事だと傾倒していった。この時期の日本はバブル時代で日本からおカネを引き出そうと、91年4月にゴルバチョフ大統領が来日。当時は海部政権で、日ソ共同声明を発表し、領土問題の存在を初めて文書で確認した。

日本も「4島の日本への帰属が確認されれば、返還時期や態様、条件は柔軟に対応する」と方針を転換させ、少しこの問題が進みはじめた。しかし、この前に少し「領土返還」を示した人物がいたのだ。

f:id:Nobuhiko_Shima:20161209182406j:plainWikimedia Commonsより エリツィン氏画像

エリツィン氏との懇談で驚きの発言を聞く】
それは、ゴルバチョフ大統領の後に大統領に就任するエリツィン氏。私は、実は90年の1月に当時まだソ連の最高会議議員(国会議員)で、次期大統領候補と言われていたエリツィン氏と日本で会っている。私と2名の学者とで2回会い、6時間ほど懇談した。

その際、エリツィン氏から「ソ連の経済をよくするにはどうしたらよいか?日本の本を十数冊読んできた。日本は元々官僚国家といわれ、ソ連と似ている。そうだとすると、どうやって経済成長していったのか?」ということを知りたいとのことだった。

エリツィン氏はその際、「日本は民営化や規制緩和を行なったが、何%くらいの規制緩和を行なえば日本のようになるのか。」といった質問をし、非常に硬直化した考えで、当初私は何をいっているか理解ができなかったが、徐々に質問の意図がわかったので「経済成長はそういうことではない」ということを説明した。

エリツィン氏の北方領土返還論】
その時に我々の関心事である北方領土に関してどう思っているのかを訪ねると、5段階の返還論があり、これを海部首相にも話すと以下のことを述べた。
・第1段階:北方領土の問題の存在を認める
・第2段階:北方領土を「自由貿易産業地帯」とする
・第3段階:北方領土を「非軍事地域」とする
 当時この地域はソ連に属しているというより軍に属していたため非軍事化し、両国の経済発展の地区とする
・第4段階:「日ソ平和条約」の締結
・第5段階:最後に「北方領土返還」について話し合う

これを聞いた当時、大統領ではなかったエリツィン氏は返還などの権力はなかったが、翌91年にソ連が崩壊し、ロシア連邦初代大統領となった。このことにより、現実味を帯びてきたことに私は非常に驚いた。そして、この5段階返還論は、本当に現実のものとなるのではないかという期待論も出てきた。

【日本となぜ合意に至らなかったのか】
しかしながらなぜ、日本がこの話にのっていかなかったのかというと、93年にエリツィン氏は来日し細川総理との「東京宣言」にて、双方が署名。「法と正義を原則として解決すると宣言。そして、97年には橋本総理と「2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くす」という期限を明示した「クラスノヤルスク合意」に進み、エリツィン氏が言う「第4段階」も目前まで進んだ。しかしながら日本は一貫して北方四島の一括返還にこだわり、「2段階返還ではだめだ、これが日本の国是だ」といっていっているうちに、ずるずると話が進まなくなった。

エリツィン氏は91~99年までの8年間大統領を務めていたので、多くのチャンスがあったにも関わらず、締結できなかった。しかし、この間にどういうことが起こったかというと、西ドイツとロシアとの間でたったの1年間で東西ドイツの統合を果たしてしまった・・・

【政治決断できなかった日本】
この当時東西ドイツの問題の方が、よほど難しいといわれていた。それはアメリカ、ヨーロッパ諸国、特に東欧などさまざまな国が関係していたからだ。コール首相が皆にいい条件を出し、かなりの金銭的な負担と、ドイツは今後軍事的な強化をしないという約束を表明し、NATOの支配下に入るといった条件も出すことによってドイツ統合を短期間で成し遂げてしまったのだ。

こういったことが達成された時期だったので、日本も思い切ったことをいっていれば北方領土が戻ってきた可能性はあったと思う。あの時期が一番のチャンスであった。それを政治決断できなかったということは、大きかったようにも思う。

【日本の利益は如何に】
今回プーチン大統領が来日するが、来日前から厳しい話が出てきている。安倍総理プーチン大統領はこれまで15回会談し、ウマが合うというようにいわれていて、お互いになんとなく期待があった。最近、プーチン大統領はトランプ氏と仲良くなってきており、そういう意味でも本当にうまくいくかどうかわからない状況。

北方領土については、話合いを続けよう」という形で先延ばしされる可能性が強いようにも思われる。ここにきて急にプーチン氏の本音が透けてみえてきたが、結局日本はいい時に利用されたというようになるのは避けたい。

現在、世耕経済産業大臣兼ロシア経済分野協力担当大臣は一生懸命、経済問題をロシア側とつめている最中である。ロシアにとっての喜ばしい方面だけに行くのではなく、日本側の主張をし、きちんと決めるべきことは決めて欲しい。

日本にとってどういう利益があるのか。プーチン大統領はしたたかな人であるから、心配な側面もある。

11日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 坂茂様(プリツカー賞受賞・建築家)をお迎えする二夜目

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スタッフです。次回11日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)は先週に続き、建築家の坂茂様をゲストにお迎えいたします。

紛争地帯や災害現場を飛び回り「行動する建築家」の異名を持つ坂様の国際的な支援活動と、素材を生かした優美な表現を両立させ「建築の世界で稀な存在 」として建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を受賞したときの思いなどについてお伺いする予定です。どうぞご期待ください。

坂様はご自分のゼミの生徒や現地の大学生とともに震災にあわれた方々が使用される避難所にPPS(Paper Partition System / 紙の間仕切り)を設置される活動を積極的に取り組まれています。先月、イタリアのカメリーノの被災地でもこのPPSを設置されました。以下がイタリアの避難所に設置された様子です。

 坂茂建築設計様のサイトには様々な取り組みが掲載されておりますので合わせて参照ください。 

坂様の著書が好評発売中です。ぜひご覧ください。

前回の、紙、木、布、輸送用コンテナなど、弱いと云われる素材を災害現場の仮設住宅に活用されたり、ダイナミックな美術館の空間を形作られております。本来、主役にならないような材料に目を向け、制約があるからこそ広がる独自のスタイルにこだわる理由をお伺いした放送は来週水曜日正午まで番組サイトにて音源が限定公開中です。

お聴き逃しの方は合わせてご利用ください。

アメリカのTPP離脱の衝撃 ~中国寄り協定で妥協するのか~

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 ゴール直前でTPP環太平洋戦略的経済連携協定)が座礁した。アメリカの新大統領ドナルド・トランプ氏が当選直後にTPP離脱方針を明言したからだ。トランプ氏の大統領就任は来年の1月20日。オバマ大統領としては残る2ヶ月余の任期中に議会から承認を得たいとして努力していた。だが、トランプ氏の所属する共和党の指導部も「TPP承認法案を年内に審議することはない」と応じたため、議会で可決する道が閉ざされたのだ。

――アメリカの太平洋貿易戦略だった――
 アメリカはこれまでTPP推進派だった。元々TPPはチリ、シンガポールニュージーランド自由貿易協定を結び互いの関税障壁を取り除こうという動機から2002年にスタートした交渉だった。その後、ブルネイが加わり、これに目を付けたのがアメリカで、アジア・太平洋全域に広げる貿易協定にしようと途中(2008年)から入り込んで主導権を握った。アメリカとしてはこれから発展するアジア、中南米の貿易で主導権を握る好機とみて、そのルールづくりに力を入れてきたのである。TPPにはアメリカのほか日本、マレーシア、オーストラリア、カナダ、メキシコなど12カ国が参加する予定で、世界経済の4割、人口の1割を占める大きな協定構想だった。当初日本ではこの協定に参加することは農業分野などの反対が強く消極的だったが、アメリカの強い圧力もあって参加表明するという経緯があった。9割を超える高い関税撤廃率や知的財産保護や国有企業の制限などをルール化するなどの内容となっており21世紀型の貿易ルールのモデルにする機運もあった。

 

――中国はRCEP構想で対抗――

 このTPPに対抗して構想されているのがRCEP(東アジア地域包括的経済連携)だ。これは国有企業の参入や知的財産保護に厳しい制限をつけるTPPだと中国が入りにくいため、中国主導でRCEP計画を打ち出していたのである。RCEPとTPP両方に参加表明している国もある。日本などはTPPに重点を置きながらも両方に参加しており、RCEPにはインドも加わり16カ国。世界経済の3割、人口の5割を占め関税撤廃率は8割を目標としているが大幅なルール改正は見送る方向のようだ。
 TPPにアメリカが入らないと主役が抜けてしまうので、俄然注目を浴びてきたのがRCEPなのである。マレーシアなどは「アメリカがTPPから離脱するならRCEPに焦点をあててゆく」と言明している。当初は、日米がTPPを主導して先行し、公平・公正な経済ルールを促していく戦略だったが、RCEP協定だと中国の制度を温存するゆるやかなルールになってしまう可能性が強い。

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――トランプ氏の離脱表明の背景――
 オバマ政権はTPPが発効せず、中国や日本が参加するRCEPが実現したら、アメリカにとっても中国企業との競争が不利になるため、アメリカの雇用の470万人が危機にさらされるとして、残り任期の中で批准しようとしていたのである。一方のトランプ氏は、大統領選の中で米東部や中西部の工業地帯が次々と衰退、フォードがメキシコに工場を移したり、日本車がアメリカの安い関税で次々と進入してくるのをみて、「アメリカの雇用を守るためにはTPPはいらない」と手のヒラを返した。「日本は農産物などに高い関税をかけ保護しているではないか。日本車を輸出したかったら、日本の農産物の関税をアメリカの自動車並みに引き下げるべきだ」と妥協しない構えを見せているのが実情だ。

――安倍政権はどちらに転ぶ――

 安倍首相は、トランプ氏の大統領就任前の11月18日に海外首脳として最初にトランプ氏と首脳会談を行った。安倍首相はトランプ氏に対し、TPP離脱を思い留まるよう説得したとみられるが、今のところアメリカの良い反応は聞こえてこない。このため、安倍政権は日本独自でもTPP法案をできるだけ早く承認し、アメリカをさらに説得する材料とするほか、他のアジア太平洋諸国の批准の支援になるよう努力すると述べている。また、当初は日本もTPPに消極的だったが、農業を成長戦略の柱に取り込んでから大きく方針が変わったともいえる。

 TPPは当初、アメリカのアジア・太平洋貿易の重要な戦略的柱だったのに、突然の変更で、アジア・太平洋の自由貿易秩序にも大きな打撃を与えることになる。さらに、日本としてはアメリカに無理矢理TPPに引っ張り込まれ、日本国内でも農業団体などの反対勢力に批判されながら、ようやくTPP批准にこぎつけるところまで来たのにもかかわらず、アメリカにハシゴをはずされた格好だ。パリ協定(気候変動枠組条約)でも同じ目にあっているが、日本は今こそ本気でアメリカを説得しTPP参加を表明させないと、政府の見通しの甘さや外交力の弱さを世界に露呈してしまうだろう。TPPがちっぽけなものになり、中国主導のRCEPに日本が参加するとなれば、日本のアジア、太平洋戦略は安全保障だけでなく経済分野でもアメリカから中国へ取り込まれていく印象を、アジア各国に与えることになるのではないか。TPPは最初から農業分野の強化と成長戦略には必要な協定だと腹を固めてオバマ政権中に臨んでいれば、また違った結果を得られたのではないか。
TSR情報 2016年12月2日】

トップ画像はWikimedia Commons:2016年11月19日にリマで開催されたTPP首脳会合

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