時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

12月30日・1月1日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:カラオケ業界トップの第一興商 林三郎社長 音源掲載

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スタッフです。日本シリーズの振り替え分として特別編成となった12月30日(金)と1月1日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(18:00-19:00)の音源が番組サイトとradikoに掲載されました。ゲストにカラオケ業界トップの第一興商 林三郎社長をお迎えいたしました。

第一興商様の最近のニュースとしては、ユニークな取り組みとして14日にNTTコミュニケーションズ様と共同で「ビッグエコー」のカラオケルームを、企業向けのワークスペースとしてトライアル提供する実証実験を開始される旨を発表されております。 

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30日放送の第1夜目は、カラオケ機器、ボックス店共に、業界トップの座を誇るまでになった第一興商が、カラオケ産業でここまで発展してきた経緯や、カラオケに対する熱い思いなどをお伺いいたしました。

引き続き1月1日に林社長をお迎えした第2夜目では、「うたと音楽」を活用した介護予防・健康増進への取り組み、高齢者同士の交流・健康づくりに役立てるなど健康産業でも活躍されているお話などをお伺いいたしました。

今回の音源は、番組サイトならびにradikoのタイムフリーよりお聞きいただけます。
上記リンクより放送から1週間以内、radikoのタイムフリーを最初に聞き始めた時間より3時間以内はお聞きいただくことが可能です。

次週は作家の池澤夏樹様をお迎えする予定です。ご期待ください。

13日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~大動乱の世界 日本の立ち位置は?~

スタッフです。
13日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

テーマ:ドゥテルテ、トランプ、次は欧州。右傾化する世界に警鐘を!

最近世界を俯瞰してみるとイギリスのEU離脱がきっかけといってもいいと思うが、トランプ氏の登場にも象徴されるように世界のトップリーダーの印象が一変してきたように思う。非常にナショナリズムが強くなってきたというのが大きな特色だ。特にヨーロッパで顕著に表れ、ヨーロッパは分断するのではないかという危機感も出てきている。

【分断危機のヨーロッパ】
どのような状況かを紐解いてみると、イギリスのEU離脱を筆頭に先日行われたオーストリアの大統領選では右派が強いと言われていたが、リベラル派候補緑の党)のファン・デア・ベレン氏が勝利。かろうじて右への流れを押しとどめたが、大接戦でどちらかというと奇跡に近い。そして、イタリアでは上院の権限を大幅に緩める憲法改正国民投票でレンツィ首相が大敗し、辞任に追い込まれた。

さらに来年は3月にオランダで総選挙、4~5月にフランス大統領選挙、秋にはドイツで総選挙と選挙が続く。フランスではオランド大統領が率いる社会党から退陣を表明したオランド大統領の後に続く有力候補の排出がまだ明確になっておらず、ルペン氏の台頭に対抗できるのかどうかに注目が集まっている。また、オランダでは反EUを掲げる自由党ウィルダース党首に勢いがあり、ドイツでは難民受け入れに反対する勢力が勢いを増しメルケル氏の力が弱まっているという。

【過去の歴史から今の右傾化を考える】
いずれも不穏な空気で、世界全体を見回してもナショナリズムが高まり、転機が来ているように感じる。自国の利益や独立というところにだんだん集約し始めている。よく考えてみると、過去のヨーロッパの歴史の繰り返しが起こるのではないかという不安も出てきている。

ここで、今の右傾化の流れについて過去の歴史と比較し、考えてみたい。ヨーロッパには過去にヨーロッパを分断させた苦い経験がある。それは1929年のアメリカ大恐慌から世界恐慌が起こった際にファシズムを到来させたことだ。ドイツではナチスヒットラーが出現し、東欧や中欧を侵略していった。中でもフランスはナチスにパリなどが侵略され、シャルル・ド・ゴール大統領はロンドンに亡命しロンドンからフランス国民にレジスタンスを呼びかけるといった状況に陥った。

また、イタリアでもムッソリーニが出現し、エチオピやアルバニアに侵略。日本も中国や東南アジアに侵略した。この日本、ドイツ、イタリアの3国同盟、枢軸国同盟を締結し、米欧の連合軍と対決することになった。

【持てる国vs持たざる国】
これはどういうことかというと、世界恐慌後広い国土を持つアメリカや各地に植民地を持っていたイギリス、フランスなどの豊かな国が連合軍を結成。それに対して、日本、ドイツ、イタリアのような資源を持っていない国は経済的に追い込まれ、軍事活動に拡散し、最終的に戦争に発展した。このことにより結局世界は分断し、ナショナリズムファシズム双方が侵略戦争に突き進んでいった。国対国の戦いというのが、第二次大戦の流れ。

その後、連合国軍は敗戦前に勝ちを確信し、1944年にブレトン・ウッズ会議にてアメリカとイギリスが主導して自由貿易体制を打ち立て、ナショナリズムが高揚したことを省みて平和に進むことを終戦に先駆けて決定。第二次大戦後もその体制に流れた。それとともに、二度と戦争をしてはいけないと賛否はいまだにあるが日本に平和憲法が作られた。また、数百年にわたって戦争を繰り返してきたフランスとドイツが、 大戦後に重要なパートナーになり、その二国が中心となってEUを作り上げていった。

こうやってEUが作り上げられていったが、ここにきてまた分断の危機に直面しているのが問題。一旦はナショナリズムに対する反省があったものの、最初にお話しした通りそれぞれの国が自国の利益を優先する流れを作り出す人たちが出現し始めた。このことは歴史が繰り返されているようにも見える。

【自国優先主義への変貌】
冷戦終結後の1990年代には、グローバル化のもとで 「ヒト」「モノ」「カネ」の自由移動が加速し、経済成長を促していった。しかしながら、2000年代からの対テロ戦争と連動して、 欧米諸国では徐々にヒトの自由移動の結果である移民や難民に対する偏見や差別が噴出し始めたということがある。さらに、リーマンショックを皮切りに発生した世界金融危機が、 各国を海外との付き合いを制限して自分たちの利益を確保することに 向かわせる転機となっていったように思う。

不況が始まり世界的な就職難や企業成長の停滞 によって、各国で失業や就職できない若者が増加。その結果、裕福な国で職を探すための移民の急激な増加や、中東での難民増加に表れ、ヨーロッパにおける自由な 「ヒト」「モノ」「カネ」の移動に対する疑問が噴出し始めた。その結果、2014年のEU議会選挙では、反EUを掲げる政党が躍進。フランスでは移民排斥を叫ぶ国民戦線が第一党に躍進。さらに、シリア難民の急増も、この動きに拍車をかけていった。

【ヨーロッパの二極化は世界へ!?】
歴史は繰り返されるというが、かつてのナショナリズム高騰の時と今とでは類似点もあれば相違点もある。かつては先に述べた通り、持たざる国と持てる国の戦いとなり、持たざる国が他国に資源や食料を求め侵略していた。現在は一国の中で「ヒト」「モノ」「カネ」の移動やIT革命が起こり、中間層が二極化し、国同士よりも国内での二極化により状況が複雑になっているといえるのではないだろうか。

現在のヨーロッパではナショナリズムというか「自国第一主義」のような考えが進行している。それに輪をかけたのがトランプ氏である。ヨーロッパ各地ではかなり暴動が起こり、ヨーロッパ内での二極化が暴動を引き起こしているのだが、これが世界に波及するのではないかという不安もある。

【外交における日本の存在感の薄らぎ】
もう一つ気になるのは、ロシアと中国の動き。アメリカはこの2国を本当に抑えることができるのかどうか。ロシアはヨーロッパでの経済活動は厳しいため、極東地域に流れてきている。また、トランプ氏は中国と台湾の問題に対し「2つの中国を認める」と発言。これらのことからもナショナリズムや自国第一主義ということが徐々に強まっており、国際関係が複雑になってきているように思う。

アメリカとロシアの接近、その一方でアメリカと中国の関係において緊張が高まる可能性もある中で、日本の存在感が徐々に薄らいでいることが気になる。日本は活発な外交を行なっているようにみえるが、実は肝心なポイントにおける存在感が薄い。日本の外交の山場を越したようにも思う。直近ではトランプ氏との関係構築、プーチン氏がまもなく来日するがどのような対応をするのか、ただ単に会っているだけでは親しいことにはならない。一番最初に面談した、10数回会っているということだけでは実がある会談を行なっているとはいえない。このままで日本が本当にやっていけるのかという点が心配だ。

画像:Flicker(Royal Opera House Covent Garden)

いつも嶌信彦のブログ「時代を読む」をお読みいただき誠にありがとうございます。本年最後の掲載となりました。皆様にとって良い年をお迎えされますことを祈念しております。 今後ともよろしくお願いいたします。

6日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~カジノ問題から観光立国の本来の意味を考える~

スタッフです。
6日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

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 テーマ:カジノで観光立国は大丈夫か?

本日はカジノ法案(IR法案)を取り上げたい。衆議院本会議で法案を可決して、 参議院に送られる方針ですが、急いで決めた感が強い・・・

【ルール無用の国会審議!?】
本国会は 強行採決が多く、TPP、年金制度の改革法案に続く3回目。通常委員会審議は30時間位要するものだが、本法案はたったの6時間で、数の力で押し切ったような強行採決となった。審議時間が余ったといって、般若心経を唱えたり、長崎の郷土愛を延々と述べる議員もいた。本来なら法案の中味を議論してから採決するものだが、今回は通過してからルールを考えるとのことで順番が逆になっており、今回のIR法案は採決のやり方がおかしいように思う。

マスコミ各社が社説等で心配や反対を表明しているが、どこ吹く風である。大島衆院議長もやり方がおかしいと内心不満を持っているとの記述が新聞にあったが、自民党内部にも相当不満があるという話も出てきている。

【美濃部都政で東京は公営ギャンブル廃止】
ここで思い出されるのは、1967年に美濃部都政は公営ギャンブル廃止を掲げ、1972年に後楽園競輪場、1973年に大井オートレース場を閉鎖した。1970年に起きた大井オートレース場でのプロ野球選手を巻き込んだ八百長事件は、閉鎖に拍車をかけたともいえる。その後は、石原都政時代にカジノ導入が検討され、風向きが変わっていったという流れもある。ここでは、観光立国を目指し一つの目玉にしたいという思惑もあるようだ。そこでカジノは観光に利するかどうかを考えてみたい。

【世界的にカジノは斜陽産業】
世界的に見ると近年カジノは儲かっていない。世界のカジノ業界は、日本で導入論が本格化した2013年頃から徐々に停滞してきている。カジノがある世界の都市は、マカオ、シンガポール、ラスベガス、台湾、韓国、ハノイホーチミンなどだ。ラスベガスはカジノ単体だけでの経営は厳しく、ショーなど複合的なIR(統合型リゾート)で顧客を呼び込んでいる。カジノの売上を見ると2010年台の始めにマカオがラスベガスを抜いている。売り上げが最も多かったのは2013年がピークで、その後現在まで減少傾向が続いている。

この現象の主要要因は中国経済の成長の停滞と共に、中国で進行している反腐敗運動による富裕層の出足の減少である。この現象で、中国がこのマーケットを握っていたことがよくわかる。マカオの特別行政区政府では「カジノ依存はやめるべきだ」という意見も出ており、脱却方法を模索しているが前途多難な状況である。

【トランプ氏はカジノで3度も破産】
不調なのはマカオだけでなく、2010年からカジノが解禁されたシンガポールは日本のカジノのお手本とされてきたが、 旅行者の大幅な減少に伴い売上も減少。シンガポールカジノ運営会社2社の2015年度の売上高は、 前年同時期比で14%も減少している。

さらに、外国人専用カジノが16カ所ある韓国のカジノ業界も、「中国人客減少で存亡の危機に直面」と報道・指摘されており、同様に厳しい状況である。ここからもわかるようにアジアのカジノは中国が支えていたということが改めてよくわかる。

そして、アメリカでもカジノは厳しい状態。トランプ次期大統領は1980年代後半までにカジノを3つ経営していたが、トランプ氏のカジノは90年代および2014年に合計で3回破産申請している。そういう意味からもカジノは飽和状態で、もはや成長産業ではないという烙印を押されているのである。

ギャンブル依存症は5%にも達す】
ビジネスとしての成長性が無いという側面以外にも、ギャンブル依存症の懸念が高い。有名なのは大王製紙 井川意高(いかわ もとたか)元会長の事件。マカオとシンガポールのカジノで100億円以上も負けたと話題になった。

私はラスベガスのカジノを訪れたことがあるが、カジノは24時間オープンなのでご飯も食べずにやり続ける人も多く、大損するときは1日で数千万円、億単位という人もいる。ラスベガスはホテル代は非常に安いが、ホテルでくつろぐという人は少ないように思う。

今年もギャンブルに関するニュースとして、バドミントン選手による「闇カジノ事件」などに象徴されるよう「ギャンブル依存症」が広がっているということもいえる。日本において、ギャンブル依存症及び疑いのある人は536万人(成人人口の5%)に達するという推計が2014年に厚生労働省より発表されている。

【問題が山積みだが・・・】
カジノの問題は犯罪組織の介入、治安、マネーロンダリングなど。マネーロンダリングでは違法に取得したおカネをカジノで 普通のおカネに変えるという懸念もある。普通はこれらの問題を十分考慮した上で法案を通過させるべきなのだが、今回のカジノ法案に関してはこれらの議論が全くなされていない。

日本はこれまでカジノを運営したことはないため、運営を外資系カジノ企業に任せる可能性もある。外資系も競って進出を希望しており、カジノ建設に数千億円規模の投資を表明している会社もあり、ラスベガスのサンズは百億ドル(1兆円)を出す用意があると表明している。外資系企業による運営となった場合にうまくいくかもしれないが、その場合の日本の旨みは何か。場所を貸すだけで、建設時にゼネコン等にはおカネは落ちるかもしれないが、税収が逃げて行ってしまうということも考えられる。そう考えるとカジノはあまり意味がないのではないだろうかともいえる。

【観光立国の主軸はいかに】
私自身は、カジノに賛成ではない。日本にはすでにパチンコ等の遊技がある。実際にラスベガスでカジノをやっているが、あまり面白いと思わなかった。日本人は熱しやすいところもあるので、当初は殺到するがその後一気に冷え込むことも考えられる。経営の問題もある上に、国が管理するとなるとおカネの問題も出てくる。

日本の刑法では賭博を禁止している。日本の競馬や競輪は、公営ギャンブルとして営まれており、寄付する仕組みもできている。カジノを日本でやる場合は特区を作ってその中で行なうという議論になっており、大阪、東京、横浜が立候補している。かつて一番話題になった沖縄は、風光明媚な景色など多くの観光資源があり、カジノが来ることによってむしろその資源がだめになってしまう可能性があることからむしろやらないと表明している。観光立国と言っているが、カジノも含めた観光立国なのか、カジノを含めない観光立国なのか日本が試されている。ルールをきちんと作らないと大変なことになるような気がする。

画像:Wikimedia commons(ラスベガスのルクソールホテル)

金曜(30日)18時 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 カラオケ業界トップの第一興商 林三郎社長をゲストにお迎え

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スタッフです。次回30日(金)のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(18:00-19:00)は、ゲストにカラオケ業界トップの第一興商 林三郎社長をお迎えする予定です。今回は、日本シリーズ放送時にお休みとなった振替放送のため通常の時間と異なりますのでご注意ください。

カラオケ機器、ボックス店共に、業界トップの座を誇るまでになった第一興商が、カラオケ産業でここまで発展してきた経緯や、カラオケに対する熱い思いなどをお伺いいたします。

第一興商様の最近のニュースとしては、ユニークな取り組みとして14日にNTTコミュニケーションズ様と共同で「ビッグエコー」のカラオケルームを、企業向けのワークスペースとしてトライアル提供する実証実験を開始される旨を発表されております。 

30日の次の放送は通常の放送通常通り元旦(1月1日)21:30-22:00です。ゲストは30日に引き続き林社長をお迎えし、「うたと音楽」を活用した介護予防・健康増進への取り組み、高齢者同士の交流・健康づくりに役立てるなど健康産業でも活躍されているお話などをお伺いする予定です。

なお、radikoのタイムフリーを利用することによりTBSラジオの放送終了後にエリア以外の地域でも放送を聞くことが可能となっておりますので、関東地区以外の方はぜひradikoにてお聞きいただけると幸いです。

”安倍外交” 曲がり角か 正念場のプーチン会談

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 旧ソ連が崩壊直前の1990年1月、私は当時の急進改革派のリーダーだったエリツィン氏の来日時、日本の学者二人を交えて2回、約6時間にわたり懇談した。ソ連が経済発展するヒントを知りたいようだった。同氏は、その後の旧ソ連崩壊後の91年に初代大統領(91~99年)となり民主化市場経済への移行などを主導した人物だ。

 その時の対話の中で、私は北方領土問題など日本側の関心事についても質問した。それに対し同氏は、私案だと断わった上で(1)ソ連国内での世論形成(2)北方四島自由経済地区化(3)北方四島の非軍事地域化(4)日ソ平和条約の締結(5)次世代による解決(北方領土返還)──と5段階の手段を踏み15~20年かけて解決できるのではないかと指摘。この考えは海部首相にも伝えるつもりだと言っていた。

 同じ頃、ドイツは東西ドイツの統一について、コール首相がソ連だけでなく欧州各国や東欧、アメリカに対し交渉。ソ連への援助や軍事大国にならないなどの条件を素早く提示し、奇跡のようにまとめあげてしまった。日本はペレストロイカ(改革運動)を唱えていたゴルバチョフソ連書記長と安倍首相の父、晋太郎自民党幹事長(ともに90年1月当時、のちに外相)の会談から始まり、その後も熱心に日ソ関係の改善に努めたが晋太郎氏は病で倒れてしまう。しかもその後日本は、四島の一括返還にこだわったため交渉は遅々として進まなかった。

 12月にプーチン大統領と会談する安倍首相にとっては、そんな父親が切り開いた歴史的交渉を引き継いで成就したいという思いが強いのではないか。晋三首相はコワモテで付き合いにくそうなプーチン氏と14回も膝を突き合わせており、「二人は何となくウマが合っているようだ」と安倍側近は言う。そんな雰囲気もあって安倍首相は日ロ平和条約の締結と北方四島返還への道筋をつけるチャンスだと感じているのかもしれない。

 ただ気になるのは、これまで順調だった安倍外交に逆風が吹き始めていることだ。何といっても大きな誤算は、トランプ氏の登場だろう。アメリカのTPP環太平洋戦略的経済連携協定)からの離脱表明やパリ協定(今後の国際的環境対策)批判、日本の防衛費負担への苦情などと共に保護主義への回帰すら匂わせる。
 
 さらに韓国の政情不安で日韓中の連携がヒビ割れ、中国による東南アジア諸国の分断、イギリスのEU離脱表明によるEUの弱体化、世界の不況長期化など日本の行く手に一挙に大波が押し寄せているように見える。
 
 年末のプーチン会談。北方領土問題はお預けをくらい経済協力の約束だけを取り付けるようだと、"安倍外交"も曲がり角に来たと見られよう。
 【財界 新春特大号(2017年1月10日)第438回】

※本コラムは、先日の会談前に入稿しております。
画像:Wikimedia Commons

25日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:日本初の女性報道写真家 笹本恒子様 二夜目音源掲載

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スタッフです。昨日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)のゲストに日本初の報道写真家で先日写真界のアカデミー賞ともいわれる米国「ルーシー賞」を受賞された笹本恒子様をゲストにお迎えした二夜目の音源が番組サイトに掲載されました。

今回は笹本様のお住まいにお邪魔して収録いたしました。三笠宮崇仁さまのご家族の写真を、戦後間もなく撮影したときのエピソードや、女性が冷遇されていた当時、明治生まれの女性たちを撮影したときの思いなどについてお伺いいたしました。

前回放送のマッカーサー元帥夫妻に直接声をかけて、夫妻の撮影に成功したときのエピソードや、はじめは家族に内緒でカメラマンになったエピソードなどをお伺いした放送は今週水曜日正午までお聞きいただけます。

2012年に発売された「恒子の昭和」(小学館)には今回のインタビューで登場された方々が掲載されておりますので、一部ご紹介いたします。

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三笠宮家のお写真

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マッカーサー婦人のお写真

錚々たる方々が掲載されておりますので、ご興味をお持ちの方は合わせてご覧ください。

 

笹本様の著書「好奇心ガール、いま101歳: しあわせな長生きのヒント」 (小学館文庫)はただいまアマゾンの写真家カテゴリーにてベストセラー1位となっていらっしゃいます。こちらも合わせてごらんください。

次回の放送は、日本シリーズの振り替え分の放送として30日(金)18時からの放送です。次回は株式会社第一興商代表取締役社長 林三郎様をお迎えいたします。

どうぞご期待ください。

複雑化する石油価格 大丈夫か、日本の資源外交

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2016年の新年が明けてから株式市場、通貨、中国経済北朝鮮の水爆実験、等々――国際社会は相次ぐ大波乱に見舞われている。なかでも、メディアでは大体二番手扱いだったが、気になったのはイスラムスンニ派の大国・サウジアラビアイスラムシーア派の大国・イランの断交である。サウジアラビアに続いて同じスンニ派バーレーンスーダンなどもイランと断交を宣言しており、今後もスンニ派アラブ諸国が追随する可能性が高い。

【根底に宗派対立?】
そもそものきっかけは、サウジアラビアが王室に批判的だったシーア派の有力宗教指導者ニムル師など47人をテロに関与したとして処刑したことだった。これに反発したイランはイラン国内の首都テヘランで群衆がサウジアラビア大使館を襲撃し混乱は一層広がった。

イランとサウジアラビアは中東の大石油大国である。面積はサウジアラビアが2150万平方キロ(日本の約5.7倍)、イランが1648万平方キロを持ち、人口はサウジアラビア3089万人に対しイランは7910万人。しかも原油と天然ガスの確認埋蔵量は原油ではサウジアラビアが世界第2位、天然ガスでは世界第6位なのに対し、イランは原油が世界第4位、天然ガスは世界第1位で、共に世界の大資源大国なのである。

この両国が断交し争えばいずれ石油、天然ガス問題にはね返ることは必定なので、世界は息をひそめて見守っていたわけだ。過激派組織・イスラム国(IS)や国際テロ組織アルカイダスンニ派に属するが、イエメンのシーア派武装組織フーシにはイランが支援し、政権側にはサウジアラビアが後ろ盾になっていて、軍事衝突が繰り返されている。一応、現段階では原油価格を上昇させるため、両国がOPEC石油輸出国機構)の減産に合意(イランは増産を承認された)し、ひとまず落ち着いた。しかし、現在のサウジアラビア、イランの抗争は宗派対立だが、国際社会は再び抗争が再燃し、石油価格問題に飛び火することを恐れている。

両国を取り巻く国際社会も微妙だ。イランは核開発疑惑を受けて欧米と長い間協議を続け、ようやく昨年に妥協が成立したばかりで、欧米などによる対イラン制裁が解除されつつある最中なのだが、サウジアラビアは「イランが中東で混乱を引き起こせば、結果としってひどい合意だったということになる」と欧米のイラン制裁解除の政策を批判していた。国連も両国の対立問題を憂慮しており潘基文事務総長らが欧米主要国に仲介を呼びかけている。欧米主要国は「努力を惜しまない」と回答し、中東の混乱が広がるのを恐れているのが実情だ。

【70年代まではワシントン・リヤド・テヘラン枢軸だった】
サウジアラビアとイランは宗派が違うものの、いつも対立していたわけではない。1960年代までの石油利権を握っていたのは欧米の国際石油資本(メジャー)の大手石油資本でセブン・シスターズといわれていた。70年代までの当時の原油価格は1バーレル=1ドル前後で、メジャーがその配給権利と価格の実権を握っていたのだ。

このためメジャーは原油価格を抑えるためにはサウジアラビアとイランの2大国をコントロールする必要があり、アメリカなどが武器を与えたり、軍事訓練を教えたりして統治していたし、イランのパーレビ国王政権にも支援していた。当時の原油価格はワシントン(米国)、リヤド(サウジアラビア)、テヘラン(イラン)枢軸で決まるとさえいわれていたものだ。

【ホメイニ革命で一変】
その頃の実力者はサウジアラビアがファイサル国王、イランがパーレビ国王だったが、79年のイラン・ホメイニ革命でパーレビが追放されると情勢は一挙に変わった。中東産油国はメジャーを通じて石油を売ることをしなくなり、OPECや直接消費国と取引するDD原油に比重を移し変えていく。そこへ1973年に中東戦争が勃発し、もはやOPEC主体の石油価格決定も難しくなっていく。

そして現在はいまや石油に対抗するシェールオイルをアメリカが産出し始めたことから、ますます石油価格の安定が難しくなり、産油国の結束も弱体化していまや市場価格は投機に翻弄されている側面が強くなっている。さらに非OPECのロシアなどの産出量も多く、今やアメリカ、ロシアの産出量は中東を大きくしのいでいる。OPECが石油価格を支配できたのは昔の話なのである。

そんな時代に入った石油価格は、国際商品価格決定の大きな要素ではあるもののかつてのようなパワーはなく、むしろ中東内部の政治的対立が大きく影響し始めている。大国サウジアラビアとイランの国交断絶と最近の石油価格の低落、産油国パワーの弱体化は、中東産油国をまとめる国、人物がいなくなったことの証左だろう。

サウジアラビアとイランに友好的な日本の役割は?】
ただ、日本にとっては石油価格の下落は、輸入大国であるだけにプラスになろう。しかし石油は政治的製品でもあるだけに、やはり石油価格、中東情勢、政治などについて今後も注意を怠ってはなるまい。日本は中東石油の大輸入国としてサウジアラビアの脱石油依存=工業化に協力する一方、イランともイランが世界から孤立している時代から水面下で協力できるところは支援してきた。日本は両国にパイプを持つ国でもあるのだ。日本が外交で存在感を持ちたいなら、サウジアラビアとイランの対立を和らげる行動に出ることも考えてもよいのではなかろうか。

【Japan In-depth 2016年12月16日】

※画像:Googleマップ (C) 2016 Google

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