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ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

影響力は世界37位  安倍首相の存在感

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 安倍外交は、本当に成果をあげているのだろうか。たしかに歴代首相に比べ安倍首相は外交に熱心である。

 この4年間で訪問国は100カ国を超え、外国首脳との会談は200回に達するという。アメリカのトランプ次期大統領とは、世界で最初に会談し、ロシアのプーチン大統領との会談も15回に及ぶ。このほか中国、アジア各国、ヨーロッパ首脳、アフリカ、中東、中南米とまさに〝地球儀外交〟を実践してきた。そのこともあって内閣支持率はほぼ50%台で安定している。

 しかし支持率の上昇、首脳会談の回数は多いものの、日本の外交成果とは必ずしも一致していない。

 例えば米フォーブス誌による世界の人物の影響力ランキングによると、2016年の第1位はロシアのプーチン大統領で4年連続首位。2位がトランプ米国次期大統領、3位はメルケル独首相、4位が中国の習近平主席、などとなっている。日本の安倍首相は? というと何と37位。約200回も各国首脳と会談を行ない世界でもかなり知られているはずだし、何といっても日本の国民総生産(GDP)はアメリカ、中国に次いで第3位の経済大国である。

 しかし、国内では”一強”体制にあるとみられる安倍首相の37位はどうしたことなのだろう。ただ冷静に分析してみれば、実績らしい結果はほとんど残していないことにも気づく。外交分野では成長戦略の柱と位置づけたTPP(環太平洋貿易協定)は当初のもくろみが大きく外れたし、京都議定書の後継として環境問題の次の中長期の枠組を決めるパリ協定は突然失速した。いずれもトランプ氏が否定的なためで、安倍・トランプ会談で説得できなかったようだ。台湾問題もトランプ氏の”2つの中国”を認める発言で米中関係がにわかに緊張しているが、日本はダンマリだ。中国が存在感を増し東南アジア諸国が分断されつつあるが、修復に日本が動いた形跡はない。

 内政分野では株価だけは、黒田日銀の超金融緩和策の継続とトランプ効果による円安、オリンピックがらみの公共事業で上昇してきたが、肝心の成長戦略はまだほとんど芽が出ず、日本経済に明るい展望が見えない。逆に大企業を除くと実質賃金は依然上がらず、社会保障費などの負担は増えつつある。国民の将来不安が消えず、消費は縮こまったままだ。

 こうしてみると、この安倍政権の4年は外交のにぎやかしとパフォーマンスで鮮やかだが、実態は米中の間で翻弄されてきただけだったともいえる。天変地異と災害ばかりが目立っており、安倍政権の政策力は峠を越し、賞味期限も残り少ないとみるがどうだろう。
【財界 2017年2月7日 第440回】
画像:上記リンク先のサイトキャプチャー画像

トランプ登場

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 アメリカの新大統領にトランプ氏が就任した。政治、軍隊の経験がない不動産王あがりの人物である。ビジネスの駆け引きはうまいとされるが、世界をどう引っ張ろうとしているのか、未知の部分が多く不安定な時代に入りつつある。

 大統領選挙に当選した直後からこれほど世界を騒がせた人物は少ないだろう。なかでも12月に入ってからの1ヵ月間は、中国とのやり取りで世間を釘づけにした。

 まず12月2日に台湾の蔡英文総統と電話協議をして驚かせた。アメリカなどが台湾を含めた“一つの中国”を認めた1979年。以来、歴代大統領で台湾総統と話合った人物はいなかったからだ。揚げ句「なぜ一つの中国を認めなければいけないのか」と挑発、チベットと並んで中国が最も神経を使っているところにグサリとモリを打ち込んだのだ。12日には中国艦艇によって盗まれたアメリカの無人潜水機を巡りオバマ政権下で返還交渉をしていたが、トランプ氏は「前代未聞の盗人行為だ。ほしければ持っておけ!」と捨てぜりふを吐いた。結局、潜水機は20日に返還されたが、トランプ流のケンカ、取引の結果なのかどうか。

 大統領就任前までのトランプ発言や行動で物議をかもしたものは、まだまだ沢山ある。

 「不法なメキシコ移民や犯罪者は送り返すし、メキシコとの国境にカベをつくる」「中国は南シナ海での軍事施設建造について我々に尋ねてきていない」「日本は在日米軍経費をもっと負担すべきだ(現在75%負担し世界一)」「TPPからは離脱するし、環境の枠組を決めたパリ協定も考え直す」「海外に拠点を移すアメリカ企業には高い代償を払ってもらう」「これからはアメリカ第一だ。減税と雇用、インフラ整備に力を入れる」「プーチン氏とは仲良くできそうだ」そしてメキシコで安く製造しアメリカへ輸出するのは問題だ」とトヨタなどにかみついた。等々。

 ひと言でいえば内向きで保護主義、世界全体のことよりアメリカの利益を第一に考えて“取引”してゆく考えを語ってきたといえる。こうした方針を実施するため、閣僚や大国の大使に元軍人や脱オバマ志向、経済界と金融関係者、長いつきあいのある知人、友人を選んでいる。しかも、これらの重要方針をほとんどツイッターで発信するだけで本人の口から方針や人事の背景などを殆ど説明していないので、世界中がその短い片言句にふりまわされている。

 こうしたトランプの発言や行動についてイギリスのMI6(秘密情報部)の前長官だったジョン・サワーズ氏は「彼は内政中心の大統領になると思う。優れた交渉者であるという自負をもっているので貸し借りによって外国との関係を築いていこうとするだろう。このため、戦略的な視点を見失う危険がある」(1月8日付日本経済新聞)と述べ、今後の世界の安定のためには米・中・露のパワーの均衡とEU、日本、インドの経済大国の出方が重要な役割をもつと指摘している。

 そんな中で気になるのは、トランプ氏は“アメリカが世界の警察官”の役割を担うことに消極的な態度を示す一方で、中国が着々と新シルクロード構想や太平洋、インド洋への海洋進出に積極的で、存在感を増してきていることだ。まだEUが分裂化の傾向を強める中でロシアがアメリカや日本、中国に接近姿勢を見せ、国際情勢を一層複雑化させている。

 もはや20世紀型の自由や市場主義、人権思想と社会主義型の独裁思想、国家運営の対立軸では世界を分析しにくくなっている。さらに加えてグローバル主義への反動とアルゴリズム(コンピューターの大量情報処理能力)による高速計算やビッグデータの収集、人口知能の急速な発達などが、むしろ余計に世の中を読みにくくしているのではないか。
【電気新聞 2017年1月26日】

昨日TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:四国霊場栄福寺住職 白川密成様 二夜目音源掲載

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スタッフです。昨日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)は、ゲストに四国霊場栄福寺の住職・白川密成様をお迎えした2夜目の音源が番組サイトに掲載されました。白川様は実体験をつづった「ボクは坊さん。」を上梓され、2015年には本書が伊藤淳史様主演で実写映画化されています。

住職になってよく聴かれるようになったというお布施などのお寺に関する素朴な疑問や、若くして住職になってのご苦労や心がけていること、永福寺が発信するブログ、今のお遍路ブームの背景、四国お遍路などにつきお伺いいたしました。

前回の24歳で住職に転身した経緯、およそ100日間の修行後「阿闍梨」の資格を得た時の話しや、尼僧でもある奥様との意外な出会いなどにつきお伺いした音源は今週水曜日の正午までお聞きいただけます。お聴き逃しの方は合わせてご利用ください。
 
「ボクは坊さん。」に続いて「坊さん、父になる」も上梓されております。

次週は、元陸上自衛隊東部方面総監でハーバード大学シニアフェローの渡部悦和様をお迎えする予定です。

2月10日 長野県上田市商工会様主催の新春特別講演会にて講演

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スタッフです。

2月10日(金)に長野県上田市商工会主催の「新春特別講演会」にて嶌が講演いたします。世界は大動乱の時代に突入し右傾化も心配される中、経済のみならず外交、安全保障面など今後の行方が注目されています。地方創生という点も踏まえた今後の生き方などをお話しする予定です。

日時:2月10日(金)18時~19時30分
演題:これからの10年 ~大動乱時代の地方~
場所:丸子ふれいあいステーション3階

定員:80名
参加費:無料(申込不要)
主催:上田市商工会
共催:丸子工業振興会

長野ではSBC(信越放送)「モーニングワイド・ラジオJ」の放送時間内にて放送されている「日本全国8時です」(平日8時)に毎週火曜日出演しており、お聴きいただいている方もいらっしゃるかと思います。

お近くの方はぜひ足を運んでいただけると幸いです。

10日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~地球儀を俯瞰する外交 成果は如何に~

10日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

テーマ:ぐらつく安倍外交。今年の荒波を乗り越えられるか?

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昨年末の放送で安倍外交の総括を行なうと予告した。安倍政権の最大の売りは外交といわれ、題目は”地球儀を俯瞰する外交”として世界中を飛び回っている。いったい安倍外交の成果は何かということを本日は考えてみたい。

【地球儀を俯瞰する外交を点検】
歴代総理に比べ安倍首相は実に外交に熱心で、この4年間での訪問国は100ヵ国を超え、 外国首脳との会談は200回に達し、電話会談も含めると300回ともいわれる。アメリカのトランプ次期大統領とはいち早く会談し、 ロシアのプーチン大統領との会談も15回に及ぶ。さらに、中国、アジア各国、ヨーロッパ、アフリカ、中東、 中南米とまさに地球を俯瞰する「地球儀外交」は間違いなく、歴代の首相と比べても特筆されるほどだ。

そのこともあってか、内閣支持率はほぼ50%台で安定。去年暮れの真珠湾慰霊の旅を終えると60%台後半まで上がった。支持率の上昇、首脳会談の回数が多い中で「本当の成果はどうなのか?」ということを点検してみたい。

【米ソ両国との外交成果は・・・】
確かに「訪問回数」こそ多いが、行っていない所を順番に周っているだけという感もある中で訪問国が増えきた。  

成果を考えてみると、去年の暮れ期待をふくらませた「日露首脳会談」では、日露平和条約、北方四島の話も経済協力の話だけで政治分野はしぼんでしまった。過去15回もあって、進むどころか、巻き戻ったようにもみえる以前この番組でお伝えしたようにエリツィン時代は実現一歩手前まで進んでいたが、安倍政権になり巻き戻った感も否めない。今後、トランプ氏が「親ロシア外交」を行なうと表明しており、トランプ氏とプーチン大統領が仲良くなると、 日本がはじき飛ばされる恐れがないとはいえない。そういう意味でいうと、ロシア外交は成功したとはいえないだろう。

さらに、安倍首相は日本時間の12月28日にオバマ大統領と最後の首脳会談を実施。日本の真珠湾攻撃の犠牲者を慰霊するアリゾナ記念館を訪れた。そこで、安倍首相は「歴史に残る激しい戦争を戦った日本とアメリカは、 歴史にまれな、深く、強く結ばれた同盟国」と日米同盟強化を誓った。確かに言葉は美しいが、オバマ大統領との間で日本の奇襲攻撃やアメリカによる原爆投下についてきちんと話し合いをしている気配はない。 

【外交全体はちぐはぐな印象も】
そんな安倍首相の真珠湾訪問の翌日、稲田防衛大臣靖国を参拝。稲田大臣は安倍首相に同行して真珠湾を訪問し、 日本の真珠湾攻撃による戦没者を慰霊したばかりにも関わらず、A級戦犯を合祀した靖国防衛大臣として参拝した。このことは、中国や韓国などとの問題にも影響がでるとみえ、なんだか全体として「ちぐはぐ」なようにみえる。

この影響により、稲田大臣が靖国に参拝した翌日に今度は韓国の日本総領事館前に慰安婦像が再び市民団体によって設置された。今回、韓国政府は前回のように強制撤去をしなかった。日本政府はそこで対抗措置として駐韓国日本大使や総領事を一時帰国させたほか、日韓通貨交換(スワップ)の取り決め協議の中断や日韓ハイレベル経済協議の延期などの方針を発表した。そういう意味からも全体がちぐはぐで、成果はいまひとつ上がっていないといえる。

韓国側は政治的に不安定な状況であり、日本への反発も日々増加している。現在、韓国政府には統治者能力が皆無であり、韓国政府はこの少女像の設置に関しては各地方に判断を一任している。こうなってくると対日関係も危うくなる。さらに日中韓の首脳会談がずっと延期されたままで、日本の韓国に対するあり様が非常に難しい状況となってきた。

【先が見えない日米関係】
アメリカに対しては、トランプ政権になってからもどうなるかわからない状況・・・

トランプ氏は在日米軍の負担をもっと増やせと語り、現状日本の75%負担に更なる増加を要求。メキシコなどに工場を作ろうとするトヨタに対し、メキシコでの工場建設計画を撤回しなければ アメリカで高い関税をかけるとツイッターで警告。その影響か、トヨタは本日1.1兆円投資すると表明。トヨタはアメリカでの雇用は減らさないなどの主張があるにもかかわらず、このようなトランプ氏の一企業に口先介入するという動きは気になる。

【日本の役割を果たしているのか・・・】
さらにトランプ氏はTPPに消極的(※)で、日本の当初の目論見ははずれつつある。そして、京都議定書の後継の枠組である環境問題の「パリ協定」(※2)に対しても非常に消極的で失速している。世界で最初に行った安倍、トランプ会談でもこのことについて話された形跡はない。

トランプ氏の「二つの中国」発言で米中関係は緊張状態にあるが、これに関しては日本はなんとなくだんまりを決め込んでいる。さらに、中国による南沙問題によって東南アジアが分断されつつあり、その中でこの問題に関しても日本が動いた形跡はない。これらのことからも確かに世界を周ってはいるが、「本当に実のある外交を行なっているのか?」という感じがする。

【汗をかく外交の重要性】
過去の日本の外交と比較して考えると、日本の国益に関して本気で動くということが大事だと思うのだが・・・

例えば、田中角栄氏は資源外交として欧米の石油資本を敵にまわし、中東産油国と直接取引する道を開いた。この結果、アメリカの逆鱗にふれ田中氏は退陣を余儀なくされたが、 日本の「中東外交」「油外交」の基礎を築いたといえる。また、中曽根氏はレーガン氏と「ロン・ヤス」関係をうんと深め、その結果日米摩擦を鎮静化させている。

現在、先に述べたように中国によって東南アジア諸国が分断されつつある。さらに中東ではそれぞれ日本と親しいイランとサウジアラビア両国が断交状態となっている。これらに対して日本が仲介したり、動いているという形跡はなく、この件に関しても汗をかくことがもう少し大事なのではないかと思う。

【数字が示す首相の影響力・・・】
数字から今の安倍政権を見てみるといまいちなところがある。先月発表されたフォーブス誌の「世界の人物影響力ランキング」で1位は「プーチン大統領」2位が「トランプ氏」、3位が「メルケル首相」、4位が「習近平主席」などが続き・・・ 「安倍総理」は37位。日本は世界第3位のGDP大国であり、安倍首相は100ヵ国も周っているのに影響力では評価されていない。これまで各国を周っていたのは単なるにぎやかしとパフォーマンスだけだったととられかねないので、もう少し頑張ってほしいという気がする。 

今年は世界各国でトップが変わるタイミングで、世界がさらに右傾化が進む危険性もある。その中で安倍首相の動きは注目されるはずであるが・・・

今年は、オランダ(3月)、フランス(4~5月)、ドイツ(9月)、イタリアも総選挙が前倒されて今年になる可能性もある。イギリスのEU離脱の話もどう動くのか・・・

こういった中で、ただ周るだけでなく日本は何を考えているのかをもっとぶつけ、仲介できるところは仲介し、日本の存在感を示してほしい。

(注)上記は放送日当日の内容であるため、現状と相違がある部分もございます。
(※)トランプ米大統領は就任直後の23日に選挙公約通りTPPからの正式離脱に関する大統領令に署名している。
(※2)米デュポンやナイキなど630以上の企業・団体が10日、トランプ次期米大統領(当時)や米議会に対し、地球温暖化対策を強化するよう求める要望書を提出している。

目指せ!第二の創業時代

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中小・零細企業群の中で「2017年問題」が大きな注目点となっている。団塊世代(1947~1950年生まれ)の経営者が70歳を迎え始め廃業が急増するとみられているからだ。日本の企業数は約382万社(2014年現在、中小企業庁発表)。そのうち99.7%が中小・零細企業で成り立っている。

いま中小企業の経営者年齢で最も多いのは2015年時点で66歳、20年前は47歳の働き盛りの世代が社長として最も多かった。数字的にみると、結局20年前の社長がそのまま経営してきたものの、ここへ来て高齢化となり後継者不在で悩める状況にあるというのが2017年問題の核心といえる。

しかも後継者不在は売り上げ規模が小さいほど高い。帝国データバンクの調べだと7割にのぼり、1~10億円未満で約7割、10~100億円未満で約6割となっている。また2015年の企業の休廃業、解散件数は2万6700件で、2009年以降は毎年2万5000件を超す高水準(東京商工リサーチ調べ)で推移しているのだ。後継者がいなければ廃業に追い込まれるしかないわけである。

■後継者不足を乗り越えよう

後継者難の解決で最も望まれているのは、①自分の身内・家族か親類が継ぐ、②企業ごと第三者に売却――で、これがうまくいかないと従業員の中から選ぶか、廃業ということになる。日本の中小・零細企業は戦後の焼け跡から起業したところが多く、従業員数が数人からせいぜい数十人といった規模で、従業員10人未満が4割以上とされる。

多くは大企業の下請けとして生き残ってきたが、自ら技術開発を行ない独自の製品、部品を作って競争力をつけてきた企業もある。幸い日本経済は1950年代後半から成長軌道に乗り、60~90年は高度成長を謳歌した。その間の70年代に2回の石油危機に見舞われてマイナス成長のいっときもあったが、日本人の勤勉さや忍耐強さなどで乗り越えてきた。

■バブル時代以降の構想力を

本当に苦しかったのは、バブルが崩壊した90年代以降だろう。金融の大再編をはじめとして鉄鋼、家電、流通などのあらゆる業界で倒産や統廃合が行なわれ、特に東京への一極集中で地方の衰退が目立った。産業界で大きな倒産や合併などがほとんどなかったのは自動車業界ぐらいだったのではないか。

その他の産業で生き残ってきた企業はリストラをしたり、海外に市場と安い労働力を求めて何とか息をついてきたというのが実情だろう。中小・零細企業は、大企業とともにリスクを賭けて海外に進出し、何とか生き延びてきたのだ。

ただ、世界を見渡すと日本は安定した部類に入るとみられ、差し迫った危機感はない。たぶん、高度成長時代に蓄積したストックを取り崩したり、約20年にわたって実質賃金が上昇せず社員がガマンしてきたことによって何とか持ち応えてきたといえる。その結果、消費はちっとも拡大せず大きな設備投資もないまま今日に至っている。

そのためかつてのような大家族は見当たらず少子化が進む一方で、このことが人口減少となって表面化している。今の出生率で進むと2050年には日本の人口は1億人を割ってしまう。対策を打たないと2100年には4959万人まで減少する(内閣府調べ)という見通しもあるほどだ。

■戦後の創業、起業家精神を取り戻そう

この流れを打開するには、やはり経済、とくに中小・零細企業が活性化するしかないだろう。戦後の日本は敗戦の廃墟の中から企業が立ち上がって今日の礎を築いたのだ。ソニーパナソニック松下電器)、シャープといった家電メーカーやトヨタ、ホンダ、日産などの自動車産業も僅かの人数でソケットや電球、オートバイなどの製作からスタートしてきたのだ。その家電や自動車、機械業界などが輸出で日本経済を引っ張り、60年代後半から一億総中流時代となって家電製品や車、住宅などの消費ブームを起こし高度成長に繋げてきたといえる。

その間、日本企業はアメリカ、ヨーロッパなどの企業を次々と追いつめ、日米経済摩擦、日欧摩擦などを引き起こし、金融や産業のルールを変えられてきた。当時はまだ新興国が育っていなかったから日本の一人舞台といってもよく、“働き方”ならぬ日本人の働き過ぎも摩擦問題のテーマになったほどだ。

戦争直後の日本が、多くの企業の創業時代だとすれば、いま日本に求められているのは第二の創業だろう。アメリカは古い産業に代わってITやバイオ、宇宙、医薬などの産業が次々と立ち上がり、アップル、グーグル等々の世界企業を生んできている。日本の技術水準、人材、感性、工夫と発想などを起業化に結び付け、売り方を工夫すれば日本の第二の創業時代を呼び込むことも夢ではないはずだ。

リストラやM&A(買収)などで企業規模を大きくすることより、中堅でもピカリと光る企業群を数多く輩出すれば、若い人々の夢にもつながろう。実は日本にもそうした企業は数多くあるのに、なぜかあまり注目されていないのは残念なことだ。

経済産業省では、日本のはばたく中小・零細企業の名前や実例を特集することがあるが、2016年5月に「はばたく中小企業・小規模事業者300社」と「はばたく商店街30選」を選定しているのでこちらも参考になるだろう。

【Japan In-depth 2017年1月21日】

昨日TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:四国霊場栄福寺住職 白川密成様 音源掲載

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スタッフです。昨日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)は、ゲストに四国霊場栄福寺の住職・白川密成様をお迎えした音源が番組サイトに掲載されました。白川様は実体験をつづった「ボクは坊さん。」を上梓され、2015年には本書が伊藤淳史様主演で実写映画化されています。

四国お遍路ついて、24歳で住職に転身した経緯、およそ100日間の修行後「阿闍梨」の資格を得た時の話しや、尼僧でもある奥様との意外な出会いなどにつきお伺いいたしました。

次週も白川様をゲストにお迎えし、住職になってよく聴かれるようになったというお布施などのお寺に関する素朴な疑問や、若くして住職になってのご苦労や心がけていること、永福寺が発信するブログ、今のお遍路ブームの背景などにつきお伺いする予定です。 
 
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