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ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

トランプ登場

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 アメリカの新大統領にトランプ氏が就任した。政治、軍隊の経験がない不動産王あがりの人物である。ビジネスの駆け引きはうまいとされるが、世界をどう引っ張ろうとしているのか、未知の部分が多く不安定な時代に入りつつある。

 大統領選挙に当選した直後からこれほど世界を騒がせた人物は少ないだろう。なかでも12月に入ってからの1ヵ月間は、中国とのやり取りで世間を釘づけにした。

 まず12月2日に台湾の蔡英文総統と電話協議をして驚かせた。アメリカなどが台湾を含めた“一つの中国”を認めた1979年。以来、歴代大統領で台湾総統と話合った人物はいなかったからだ。揚げ句「なぜ一つの中国を認めなければいけないのか」と挑発、チベットと並んで中国が最も神経を使っているところにグサリとモリを打ち込んだのだ。12日には中国艦艇によって盗まれたアメリカの無人潜水機を巡りオバマ政権下で返還交渉をしていたが、トランプ氏は「前代未聞の盗人行為だ。ほしければ持っておけ!」と捨てぜりふを吐いた。結局、潜水機は20日に返還されたが、トランプ流のケンカ、取引の結果なのかどうか。

 大統領就任前までのトランプ発言や行動で物議をかもしたものは、まだまだ沢山ある。

 「不法なメキシコ移民や犯罪者は送り返すし、メキシコとの国境にカベをつくる」「中国は南シナ海での軍事施設建造について我々に尋ねてきていない」「日本は在日米軍経費をもっと負担すべきだ(現在75%負担し世界一)」「TPPからは離脱するし、環境の枠組を決めたパリ協定も考え直す」「海外に拠点を移すアメリカ企業には高い代償を払ってもらう」「これからはアメリカ第一だ。減税と雇用、インフラ整備に力を入れる」「プーチン氏とは仲良くできそうだ」そしてメキシコで安く製造しアメリカへ輸出するのは問題だ」とトヨタなどにかみついた。等々。

 ひと言でいえば内向きで保護主義、世界全体のことよりアメリカの利益を第一に考えて“取引”してゆく考えを語ってきたといえる。こうした方針を実施するため、閣僚や大国の大使に元軍人や脱オバマ志向、経済界と金融関係者、長いつきあいのある知人、友人を選んでいる。しかも、これらの重要方針をほとんどツイッターで発信するだけで本人の口から方針や人事の背景などを殆ど説明していないので、世界中がその短い片言句にふりまわされている。

 こうしたトランプの発言や行動についてイギリスのMI6(秘密情報部)の前長官だったジョン・サワーズ氏は「彼は内政中心の大統領になると思う。優れた交渉者であるという自負をもっているので貸し借りによって外国との関係を築いていこうとするだろう。このため、戦略的な視点を見失う危険がある」(1月8日付日本経済新聞)と述べ、今後の世界の安定のためには米・中・露のパワーの均衡とEU、日本、インドの経済大国の出方が重要な役割をもつと指摘している。

 そんな中で気になるのは、トランプ氏は“アメリカが世界の警察官”の役割を担うことに消極的な態度を示す一方で、中国が着々と新シルクロード構想や太平洋、インド洋への海洋進出に積極的で、存在感を増してきていることだ。まだEUが分裂化の傾向を強める中でロシアがアメリカや日本、中国に接近姿勢を見せ、国際情勢を一層複雑化させている。

 もはや20世紀型の自由や市場主義、人権思想と社会主義型の独裁思想、国家運営の対立軸では世界を分析しにくくなっている。さらに加えてグローバル主義への反動とアルゴリズム(コンピューターの大量情報処理能力)による高速計算やビッグデータの収集、人口知能の急速な発達などが、むしろ余計に世の中を読みにくくしているのではないか。
【電気新聞 2017年1月26日】

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