8050問題の闇 増える中高年のひきこもり
“ひきこもり”問題が、徐々に大きな日本の社会的課題になっている。それも不登校やいじめなどによる子供だけでなく、40~50代の大人のひきこもりが目立ち始めているという。
内閣府が昨年3月に行なった調査によると、40~64歳のひきこもり人数は全国で61万3000人に及び、半数以上が5年以上の長期にわたっている。15~39歳の若年者は推計54万人というから中高年者のひきこもり数の方が多いのだ。全国に75ヵ所ある「ひきこもり地域支援センター」への相談件数は2017年度に約10万2000件に上り、この5年間で約3倍に増えているともいう。
実は80歳代の親が40~50代のひきこもりの人達を支えているケースは「8050問題」と呼ばれている。中高年がひきこもりになるきっかけは様々だ。会社が倒産したり、社内での付き合いが上手くゆかず孤立し会社へ行かなくなる、病気で会社を辞めそのままひきこもってしまった、友人がおらず趣味もなく生き甲斐を見出せないまま働くことが嫌になって会社を休みがちになって退社してしまう場合も多いようだ。自立して立ち直る気概が沸かず、つい親元に頼りズルズルと社会との縁を切りひきこもってしまうらしい。また、親の方も周囲の目や偏見を気にして実態を明らかにせず外部に相談しないので、内にこもり社会的解決がしにくいともみられる。
しかし、ひきこもり問題を放置しておくと、家庭の問題を越え社会的事件になるケースが増えつつある。最近では、家庭内暴力から殺人事件に発展した事例もあった。農水省の元高級官僚(76)が長男(44)を刺殺した事件は記憶に新しい。長男は中学に入ってからいじめにあい、そのトラウマからか帰宅すると母親を殴るようになる。その度に元高官は仕事を抜け出して長男をいさめていた。しかし家庭内暴力は大学入学後も続き、家族を「殺す」と言い出すようになったため“長男を殺すしかない。その後は自分も死のう”と考え、包丁で刺殺した。エリート家族の窺い知れない家庭の事情などを想像すると極めて衝撃的な事件だった。
内閣府では、ひきこもりについて「家や自室からほとんど出ない状態に加え、趣味の用事など以外に外出しない状態が6ヵ月以上続く場合」と白書で定義している。
日本はいま人間だけでなく企業なども内向き志向が目立ち、高度成長期に次々と世界から注目された新商品やアイデアがさっぱりと少なくなった。日本の国際競争力もいまや世界では20位台といわれ久しい。社会の中心世代をひきこもり状態から抜け出せる構想と政策が緊急に必要とされているのではないか。
【財界 2020年4月8日号 第515回】
画像:時計 不安・サンサンさんによる写真ACからの写真