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検察庁法改正案は撤回を

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 定年延長をした上で検事総長に抜擢しようとしていた黒川弘務東京高検検事長が、緊急事態宣言中の5月に新聞記者らと賭け麻雀をしていたことが判明し、一転して辞任することになった。黒川検事長の定年延長は安倍首相ら官邸の意向で推進していた問題だけに安倍首相の出処進退まで問われることに発展しそうだ。

 黒川検事長法務省勤務が長く、1983年検事任官。地方検察庁勤務などを経て、法務省に移り2011年から約7年半にわたり法務省の官房長、法務事務次官を務めてきた人物で捜査畑より主に法務官僚畑を歩いてきたいわゆる"赤れんが派"の能吏とみられてきた。20年2月に63歳で定年退官する予定だったが、そのためか政府は定年を8月まで半年間延長する閣議決定をした。検察官の定年延長は前例がなく「官邸に近い黒川氏を検事総長に据えるための布石ではないか」とみられていた。

 検察官は国家公務員ではあるが、権力犯罪をにらむ役割を期待されており、かつてロッキード事件田中角栄元首相を逮捕したことがあったように権力と一線を画し独立した機関として独特の存在感をもつ役所でもあった。ところが、安倍内閣の肝入りで定年延長を可能にする動きがあるなど権力に理解を示す検事総長の実現を目指しているのではないかと検事OBの間からも批判が出ていた。特に松尾邦弘検事総長らに続き、熊崎勝彦元特捜部長ら特捜OB38人が連名で反対の意見書まで出した。

 私は10年前に大阪地検が厚生省の村木厚子社会・援護局障害保健福祉部企画課長を5ヵ月も勾留しウソの調書を作り大阪高検検事ら3人が罷免された際、検察の在り方を反省する「検察の在り方検討会議」の委員になったことがある。この検討会議の時、法務省の事務方トップとして会議運営にあたっていたのが当時の黒川氏だった。かつては特捜検事として名をあげていたが、その時の印象は特捜部の鬼検事というよりは、むしろ人当たりの良い法務官僚で事務能力などに長けた人物だな、という印象をもった記憶がある。

 今回の意見書で歴代検事総長や特捜部長らは、「内閣の判断で検事総長の定年延長を決めることになれば検察の独立性・政治的中立確保のバランスを大きく変動させかねず、検察権の行使に政治的な影響が及ぶ。検察幹部の定年延長の必要性が明らかになった例は今までに一度もない」と指摘し、改正すれば将来に禍根を残しかねないと懸念していた。

 安倍首相は検察OBと世間の反発を受け検察庁法改正を今回は見送るとしているが、見送りではなく撤回するべきであろう。
【財界 2020年6月24日号 第520回】

■参考情報
・東京高検の黒川弘務前検事長(63)が新聞記者らと賭けマージャンをした問題で、東京地検は7月10日、常習賭博などの疑いで刑事告発された黒川前検事長産経新聞社の記者2人と朝日新聞社の社員の計4人について不起訴処分となりました。(7/10 日経新聞) 


・東京高検の堺徹検事長「検察の基盤は信頼」就任会見で(7/20 日経新聞
 17日付で就任した堺徹東京高検検事長(62)が20日記者会見し、黒川弘務・元東京高検検事長による賭けマージャン問題について「国民の信頼を揺るがす事態。いま一度、検察が国民の信頼に支えられていることを深く認識し、公正誠実に職務に取り組まないといけない」と話した。


・冤罪を防ぐための「検察憲章」私案(2011年06月20日 公開 PHP嶌信彦 

https://shuchi.php.co.jp/article/264

画像:東京地検サイトより

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