法相逮捕は只事ではない
法を守る番人役である法務省の最高責任者・法務大臣が東京地検に逮捕されるという前代未聞の事件が発生した。先日まで法相だった河井克行・前法相と妻で参院議員の案里夫妻だ。現職議員が夫婦揃って買収容疑で逮捕されたのも例がない。
克行議員は19年3月~8月にかけ19年の参院選挙を巡り広島選挙区の地方議員ら約百人に現金約2570万円を渡し票の取りまとめ依頼をしたという大掛かりなものだ。広島3区、7回当選の衆院議員で、安倍首相、菅官房長官が重用し首相補佐官にも起用されていた。自らのフェイスブックに「活動方針は安倍総理、菅官房長官を支えること。そのために毎月のように会合を開き、懇親を深め、結束を強くしてきた」と記し、17年のパーティーで「総理の、いわば目となり耳となり、口となり、手となり、足となって活動させていただく」と語り、外国要人との橋渡しをしていたと自認していた。
当時、広島選挙区の自民党参院議員としては溝手顕正・元国家公安委員長がいたが、案里容疑者が二人目の自民公認として安倍首相から推された。溝手氏と安倍首相の関係が疎遠だったためと囁かれ、しかも選挙交付金として自民党から溝手氏に渡されたのは1500万円だったが、河井氏には1億5千万円も提供されたという。広島の二議席独占が大義名分だったが溝手氏は落選した。
安倍首相は河井夫妻の逮捕に対し、「かつて法務大臣に任命した者として、その責任を痛感している。国民の皆さまに深くおわび申し上げる」と陳謝したが、法相の逮捕は前例がないだけにいつもの「任命責任は私にある」という通り一遍の口上で済むかどうか、野党や自民党議員も鼎の軽重を問われることになるだろう。
河井夫妻逮捕後のメディアの調査による内閣支持率は36%台と第二次政権以降の最低水準にまで落ち込んでいる。
さらに緊急事態宣言の遅れ、一律の現金支給問題、布製マスク配布(アベノマスク)で不評を買い、外出自粛を呼びかける狙いで犬と自宅でくつろぐ様子を公開し炎上するなど、人気取りのつもりが裏目裏目となっている。
安倍政権は7年を越え、戦後最長の内閣となっているが、結局何を"遺産"として残したのか全く見えてこない。憲法改正はむろんのこと横田めぐみさんの拉致問題解決も"一丁目一番地"の重要課題としていたが横田滋さんは亡くなってしまった。そして今回は法相の逮捕だ。
「責任は私にある」は、問題が起きた時の首相の口グゼだが、責任をどう取ったのか、その範は残念ながらみたことがない。そろそろ責任を取ってお引き取り願う時期だろう。
【財界 夏季第二特大号2020】
【参考情報】
・内閣支持32%、過去最低目前 コロナ対応「評価せず」6割―時事世論調査(時事通信 2020年08月14日)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020081400843&g=pol
・内閣支持34%、不支持47%(NHK世論調査)2020年8月(8月12日更新)
http://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/
・内閣支持37%、不支持は最高54%…読売世論調査(2020年8月9日)
https://www.yomiuri.co.jp/election/yoron-chosa/20200809-OYT1T50194/
・河井夫妻の初公判は25日 東京地裁 被告側は無罪訴える見通し(毎日新聞2020年8月17日)
2019年参院選の広島選挙区を巡る選挙違反事件で、東京地裁は17日、地方議員らを買収したとして公職選挙法違反で起訴された前法相の衆院議員、河井克行被告(57)と、妻で初当選した参院議員、案里被告(46)の初公判を25日に開くことを決めた。初公判を含め12月18日まで計55回の期日を指定した。判決期日は未定。
https://mainichi.jp/articles/20200817/k00/00m/040/092000c