時代を読む

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漢字文化圏を盛り立てる日本

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外国人にとって「日本語は難しい」という。日本語を学ぶには「読み」「書き」「話す」が必要になるが、外国人は「話す」ことはできるが「読む」「書く」となると、漢字をこなすことができないのでカベにぶつかるらしい。日本語がペラペラのあるヨーロッパ人も、漢字があるので読んだり、書いたりは難しく、やっと平仮名だけは読めると述べていた。

ローマ字は26文字、平仮名は46文字なので基礎を覚えれば後は簡単なのだが、日本語には無数の漢字が入ってくるのでお手上げになってしまうらしい。

漢字は一応“常用漢字”2136字を覚えれば、新聞などは大体読める。しかし、常用漢字以外の漢字が無数にあり、書物などにはそれが沢山出てくるので「読み」「書き」になると厄介なのだ。しかも常用漢字も増えていくので大変なのである。ちなみに昭和21年(1946年)の常用(当用)漢字は1850字だった。

漢和辞典には1万種以上の漢字が載っているといい、それ以外の漢字は5万字とも10万字ともいわれる。特に地名、人名などになると漢和辞典に載っていない字が無数に使われている。

私の姓は「シマ」だが、漢字で書くと「嶌」だ。1960~70年代初め頃までは「嶌」という漢字は新聞でも使われておらず、大体「島」か「嶋」になっていた。私が毎日新聞に入社して署名入り原稿を書いた時も「島」としか書いてくれないので、「せめて毎日新聞で署名入り原稿を書いた時は“嶌”にして欲しい」と言い続けた結果、ようやく“嶌”の活字を作ってくれたという経緯があった。今はどの新聞でも「嶌」の活字はあるようだし、最近は「嶌田」「小嶌」といった名前も見かけ、嶌は普通になってきた。それでも山カンムリでなく草カンムリの蔦と間違われることはまだまだ多い。蔦だと“シマ”ではなく“ツタ”と読まれ、名刺交換した時によく「蔦(ツタ)さんですね」といわれることが少なくない。

漢字の起源は古代中国の時代から始まったといわれ、それが朝鮮半島、日本、ベトナムなどに伝わった。国語学者笹原宏之早稲田大学教授によると、日本は6~7世紀の推古朝時代に入り、漢字から意味を取り除き表音的に用いる万葉仮名を発達させたといわれ、さらに万葉仮名の表音的体系として平仮名、片仮名が出来たようだ。また漢字も日本独自の「国字」(日本文化に関わる文字が多い)が発達し、漢字の発音も中国の四声ではなく日本的な平板なものに変わり漢字の意味も日本独自のものができたり、漢字を組み合わせて新たな表意性を求める和製漢字語(例えば名月、火事、大根、経済、労働など)も出てきたという。日本人は和製漢字語を作るのが得意で、「コンピューター」を「電算機」としたり、オリンピックを五つの輪から応用して「五輪」とするなど、日本では漢字の数がどんどん増えているのが実情だ。

しかし、中国から朝鮮半島ベトナム、日本へと渡った漢字文化圏は日本ではどんどん発展しているが、北朝鮮ベトナムではいまや漢字は使われておらず、韓国では失われつつある。本場の中国も元の漢字は面倒なのか「簡体字」にとって代わりつつある。韓国の街を歩くと看板はほぼハングル文字とローマ字、アラビア数字となっている。1960~70年代にはまだ漢字で書いた看板が至るとろで見られたが今はほとんどない。中国では簡体字が増え、日本の「専」は「」と簡潔に書かれるようになり、日本人には簡体字は読めなくなりつつある。

その点、日本はむしろ和製漢字がどんどん増えている状況なのだ。世界は国際化しつつあり、簡単になってきているが日本は日本文化を大事にする傾向があるのか、漢字文化も日本で引き継がれているといえる。国際化の波に合わせるなら平仮名の46文字に絞った方が外国人にもわかりやすくなるように思えるが、日本では漢字文化を大切にする方が重要とみなしているのだろう。

文化はその国の文化、個性と密接に関わってくるので朝鮮半島ベトナムのように漢字を捨てハングル(24字)、ベトナム語(29字)にした方が国際化時代に適しているとみるか、日本のようにますます漢字を増やしていく方が文化国家としての個性を発揮できるとみるか、今後の歴史と将来を考える上でも興味深い。

なお、日本の姓の種類は10万種に及びおそらく世界一で、日本姓で多いとみられている佐藤、鈴木であっても2%ぐらいだそうだ。中国は4千7百種とされるが、「王」「李」「張」で2割を占め、韓国では「金」「李」「朴」で4割、ベトナムでは「ウエン」「レ」「チャン」で過半数に達するという。
【Japan In-depth 2020年8月20日

画像:Wikimedia commons(韓国・ソウル江南)

 

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