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西武再上場に向けて発進!? 今後の焦点は上場後の再成長計画へ

 浮上してきた旧鉄道を母体とする西武ホールディングス(HD)と、沈んでしまった西武百貨店グループ。前者のオーナーだった堤義明氏は少数株主に転落、百貨店グループの総帥だった堤清二氏は昨年亡くなり、グループもほぼ解体。ともに堤家の手を離れたが、鉄道グループは苦節10年で再上場を申請し、再成長への手がかりをつかみ始めた。一世を風靡した西武の二大寵児の夢の後は10年を経て明暗を分けてきたようだ。

 

――西武と東急、両雄の競争――

 西武グループは、戦前から戦後にかけて一代で鉄道・レジャー産業などを築いた堤康次郎の遺産だ。康次郎は生前、政界にも進出し衆院議長を務めるなど、政財界に大きな力をもつ怪物と言われた。これに対抗したのが東京急行を創設した五島慶太で、二人は私鉄を拡大しながらレジャー、デパート、スポーツなどの分野に次々と進出、西武王国と東急王国を作りあげて、関東のみならず全国で競争し、対抗し巨大グループを築きあげていったのである。

 東急は慶太氏が亡くなった後、五島昇氏がグループの求心力を担って発展させ、日本商工会議所の会頭を務めるなどした。財界主流の有力メンバーとして活躍し、政界とも太いパイプをもって東急グループを鉄道から不動産・レジャー、都市・住宅建設、海外開発などにまで拡大していった。ただ昇氏の跡を継ぐとみられていた五島哲氏に昇氏のようなカリスマ性がなく、しかも若くして亡くなったため、グループは、一時は求心力を失くして沈滞していた。

しかしここ数年、野本社長の代になって渋谷の再開発や二子玉川の第二都心への変貌、海外への都市輸出、文化の振興などを掲げ、東急は新しい時代に存在感を示し始め、雑誌「財界」の恒例の財界・経営者賞(第58回)で、豊田章男トヨタ自動車社長、隅修三東京海上日動火災保険会長などとならんで経営者賞を受賞している。

 

――西武・堤義明氏と清二氏の波乱――

 一方の西武は、ここ10年余、あまり良い話題がなかった。堤清二氏は堤康次郎嫡男でありながら、池袋の西武百貨店を分け与えられただけで、本流の鉄道グループは義明氏に譲った。義明氏は鉄道を中心にホテルグループ、スキー場、各種レジャー施設などをつくるとともに日本の体育協会や政界ともつながりをもちワンマン経営で鳴らした。ただその経営内容は不明で持株会社がグループの過半数の株をもち、その持株会社の支配権は義明氏が絶対的株数を所有して、鉄道グループ全体の経営権、人事権などを握るという状況にあった。

 他方、清二氏は持ち前のすぐれた文化感覚の感性とブレーンを集めることで、西武百貨店を若者にアピールする店舗、品揃えに変えめきめきと伸びていった。パルコや無印良品ファミリーマートなどを展開する一方で、セゾン劇場、シネマ、ホテル西洋銀座などレジャー、ホテル分野にも進出し、遂に銀座マリオンに西武百貨店をオープンさせるまでに至る。また清二氏自身が詩人、作家として有名になり、日中文化交流や政界、文化人との交際も多く長い間にわたり“時の人”になり続けていた。

 しかし、バブル崩壊後、義明氏は会計処理などの疑惑から、清二氏はバブル時の不良債権問題でともに衰弱していく。結局、鉄道グループは主力銀行のみずほから副頭取だった後藤高志が社長(2005年)になって再建に取り組み、百貨店グループは次々と買収されたり、独立したり、経営破綻して雲散霧消する形となっていった。いわば、あの強大な西武グループは義明、清二兄弟によって一時の栄華は誇ったが現在は全く別の企業資本、経営者にとって代わられているのである。

 

――後藤社長の西武鉄道グループ改革――

 そのうち西武鉄道グループは、みずほがバックとなった後藤氏(第一勧銀出身)が社長となって再建をはかってきた。第一段階は、経営の座を追われたとはいえ、依然大株主のままだった旧経営者の義明氏に完全引退をしてもらうことだった。このため、後藤氏は義明氏と直談判するとともに、義明氏の持株比率を大きく下げるため大増資を行った。増資の大部分をアメリカの投資ファンドサーベラスに所有してもらい、その結果サーベラス32.4%所有の筆頭株主に踊り出た。他方に義明氏の持株比率は5%以下にまで低下した。

また、西武グループ西武ホールディングスの下に鉄道や西武ライオンズプリンスホテルグループをぶら下げる組織に変更し、関連会社の一体運営をはかることで収益力アップをはかってきたのである。

 

――サーベラスとの戦いに勝利――

 後藤・西武は一連の改革で、義明・西武のくびきから自由になったものの、次の焦点は、1,000億円もの投資で筆頭株主となったサーベラスとの関係だった。当初は友好関係を維持していたものの、サーベラス投資ファンドであるため、いずれ投資資金を回収したい思惑をもっていたのはわかっていた。それが表面化したのは、西武が再上場の動きを表明した2012年暮れだった。

 サーベラスは再上場にあたり、鉄道の不採算路線の切り捨てや西武のシンボルでもあるライオンズ球団の売却、さらにはサーベラス側が推薦する取締役8人の選任などを要求してきた。しかし西武側は、公益事業の鉄道廃止はできないし、ライオンズ球団の売却などすべてを拒否、サーベラスとの提携関係解消も申し入れた。これに対しサーベラスは西武の株44.7%まで買い増すTOB(公開買付け)を発表、両者の関係は一挙に敵対的状況になったのだ。



 

――再上場でサーベラスと合意へ――

 この結果、株と株主の取得合戦となったものの、結果は西武側が勝利し、サーベラスは目標とした株取得に失敗した。その後両者は水面下で接触を続けた模様で、20141月に再び西武の再上場で合意したとされる。このまま話合いがスムーズに行けば、20144月に再上場が実現することになるが、問題は再上場の株価をいくらに設定するかだろう。

 西武の株価は、アベノミクスの異次元金融緩和の影響で、同業他社の株価から推測すると1,100円台から1,700円台の間になるとみられる。サーベラスは西武株を1株約900円で取得したといわれているので、もし全株式35.5%を売却すれば300億円~1,000億円の利益が出る勘定だ。

ただサーベラス投資ファンドとして1円でも多く利益を得たいと考えているだろうから、再上場の売出し価格を巡ってまたひと悶着がないとは限らない。しかし、西武の再上場はようやく光が見え始めた。後藤社長は前オーナーの堤義明氏の有価証券報告書虚偽記載の発覚(2004年)による上場廃止以後、粘り強い再建、再生への指揮をとってきたが、最終局面を迎えつつあるといえる。

 

――真価問われる再上場後の成長プラン――

 ただ、今後再上場が実現した後に西武グループがどんな再生プランを打ち出せるか。再上場は当面の目標ではあったが、人口減少や国内の大きな成長が望みにくい現下の経済環境の中で、未来に夢をもてる再生・再成長プランをどう打ち出すか、むしろ今後に真価を再び問われることになろう。
TSR情報 2014129日号】

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