日本の40〜50歳代は、どうしてしまっているんだろうか。40〜50代といえば、家族、企業の中心にいる働き盛り。日本の社会、政治、地域などにおいても中核的存在を占めているはずだ。過去の歴史も知っているし、幅広く物事を見て判断する教養もあり、分厚いミドルの層が多いほど社会の安定、成熟も増すのである。都知事選では舛添要一氏(65)が、細川護熙氏(76)、宇都宮健児氏(67)らを破って当選した。選挙中によく耳にした話は「なぜ都知事候補にもう少し若いミドル層が出てこないのか。何か老人、シニアばかりが集まった戦いみたいだ」という声が圧倒的だった。60〜70代の人よりも40〜50代位の人に東京の未来、夢を語ってもらわないとワクワクしてこない。20年のオリンピックには最初の東京五輪や大阪万博のような興奮は、いくら力んで叫ばれても私達の気持ちに火はつかない。投票率が46%台と過去3番目の低さという数字は寒々しいくらいだ。
40〜50代の中核層は家庭や会社にあって責任ある世代である。そのため無茶なリスクはとれないし、与えられた仕事をそつなく淡々とこなしていた方が無事息災に人生がすごせると考えたくなるのだろう。ただ現代の大動乱時代にあっては、大企業や官庁組織にいても安定が約束されているわけではない。ソニーや電力会社、少し前のJALなどをみればすぐわかる。夕張市や大震災に襲われた市町村、国単位でいえばギリシャなどユーロ危機にほんろうされている国々などは、昨日の安定が今日に続いているわけではなく、今日と明日も断絶する不条理がいつやってくるかわからない時代になっているのだ。
そんな時代に、一見無謀に見えるが大企業や組織のぬるま湯に浸かっていることをヨシとせず、新しい分野に飛び出す30〜40代のベンチャー起業家もふえてきた。親や同僚に反対されながらも「自分の一生は生き甲斐のあることに挑戦してみよう。ここでやめたら二度とこういう気分、機会は巡ってこないだろう」と翔んだ人々だ。翔んでみると、同じ志をもった人々がたちまち参集し、2倍、4倍の速さで構想を練り、即決して動きまわるから3〜4年もすると、その新しい動き、アイデアに世間も注目してくるのだ。
私がこの欄や著作で紹介したオイシックスやユーグレナ、テラモーターズ、大平技研、サイバーダイン、大分県大山町、三重県のモクモクファーム──等々。その例は無数にある。考えてみれば、今日の大企業の多くも戦後の焼け跡からカネ儲けだけではない志や情熱をもって数人から立ち上がってきたところが何と多いことか。ソニーやホンダ、京セラ、YKK、ヤマト運輸、イトーヨーカ堂、ユニチャームなど、みんな若い時に志をもって〝他人がやらないことをやる〟といった精神で走ってきた企業だ。創業の頃の歴史を知り企業史を読むとこちらも熱くなってくる。政治に若者やミドル層が出てこなかったり、出てきても権力に対抗する気概が見えないのは、政治業界に真のベンチャー精神がなく世間から敬意をもたれていないからなのだろうか。【財界 2014年3月11日号 第370回】
日本人の覚悟―成熟経済を超える
(実業之日本社)
著者:嶌信彦
ISBN:978-4408333052
内容:「失われた20年」を経てもかつての輝かしい姿を取り戻すことのできない日本。そして、2011年3月11日の東日本大震災とそれに続く福島原子力発電所の事故。そんな状況の今こそ、幕末、太平洋戦争敗戦などの危機を乗り切ってきた当時の日本人の覚悟や、新たな事業に覚悟をもって取り組んできた企業。さらに、ただ利益を追求するだけでなく事業自体が社会貢献となっているベンチャー企業などを事例をあげ、嶌の鋭い視点からその企業を紐解いている。