17日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~第二創業で2017年問題を乗り切ろう 手本はリアル「下町ロケット」~
17日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。
テーマ:中小・零細企業の「2017年問題」はじまる。
今日は日本の中小企業の2017年問題についてお話したい。これは2017年に日本の中小企業の廃業・休業が急増すると言われているものだ。日本の中小企業は企業の98~99%を占め、多くは従業員数が数人から数十人という規模の会社である。
【進む経営者の高年齢化】
東京商工リサーチの調査(※1)によると、 中小企業の経営者の平均年齢は2015年時点で60.8歳、20年前は47歳と言われていたので明らかに高齢化が進んでいる。今、後継者の問題をきちんと考えておかないと廃業・休業、売却に追い込まれる恐れが出てきた。
「後継者不在」や「将来的な経営不安」などで継続も難しくなっている。後継者の不在率はどのくらいかというと、帝国データバンクの調査(※2)では以下の通り。
・1億円未満: 78.2%
・1億~10億円未満の企業: 68.5%
・10億~100億円未満の企業: 57.5%
規模が小さいほど後継者が不在と言える。小規模の経営者は自分の子供に苦労をかけたくないという思いもあり、自分の企業を継ぐのではなく他の企業への就職を勧めているケースも多い。
【休廃業・解散件数も過去最高に】
また、東京商工リサーチの調査(※3)によると企業の2016年の休業廃業・解散件数は2万9583件と過去最高を記録。2009年以降は年間2万5000件を超す高水準で推移している。倒産件数は90年以来の低水準と、休廃業が増加している状況。倒産すると何も残らないが、休廃業だと会社は存続するため、誰かに譲渡するか、自分の代でお金をもらって終えてしまうケースが増加している。
そういう意味からもこの問題をこの2、3年の間にどうやって解決するのか。これを「2017年問題」といっている。本当は実の子供がやる気になって引き継いでくれるのが一番よいが、なかなか困難である。最近「第二創業」という言葉が流行っているので紹介したい。
【第二創業で新たなステージへ】
戦後、自分の父や先代が会社を起業し、荒波を乗り越えてきた。ところが高度成長も終わり、苦しい状況になっている会社も少なくない。その中で、もう一度新たな会社を作る精神で事業承継し、それをきっかけに後進がビジネスを一変させていくのが「第二創業」である。新たなビジネスモデルの考え方で、 イメージとしては「まるで起業するかのように会社を引き継ぐ」ことである。
【成功事例はリアル「下町ロケット」】
成功事例として神奈川県茅ケ崎市にある「由紀(ゆき)精密」という会社を紹介したい。茅ヶ崎の本社工場と新横浜にある研究開発センターと合わせて、 従業員30人ほどの小さな会社。1950年に創業し、公衆電話を製造する大手企業の下請けとして、右肩上がりで成長してきた。しかしながら、公衆電話の需要減少により売上が激減。
その後、倒産の危機をむかえたが、初代社長の孫にあたる3代目が入社し会社を激変させた。3代目は、ものづくりのベンチャーで「技術」を学び、その後技術コンサルタントとして買収した企業に入社し事業の立て直しの経験があった。この経験から祖父の会社について「この会社の本当の強みは何か」 「チャンスのある事業領域は何か」などを自分なりに分析した。
すると、これまで培ってきた素晴らしい需要のある技術があることが判明し、祖父の会社を変えられることを確信。その技術を使い、それまで主流としていた公衆電話を作る大量生産型のビジネスから、品質の高い製品をつくるものづくりをしてはどうかと考えた。それは、時代のニーズと合い、成功できる可能性のある航空宇宙分野に新たに進出することであった。その後、会社の事業を地道に変えることによって、JAXAや航空メーカーとの取引に成功。いってみればリアル「下町ロケット」だ。
画像は由紀精密社の公式Facebook より日本のQulead、フランスのDyshow Industrie・AS-MECA BERNARDの4社と共に日仏精密加工中小企業のアライアンス『ACT』を立上げ、参加することを表明された際の模様。右から二番目が大坪正人社長。
現在はシンガポールの企業の企業提携や世界的なプロジェクトに参加するまでに成長。2012年2月に経済産業省主催の中小企業IT経営力大賞 優秀賞を受賞している。これはお孫さんが新たな分野に進出した第二創業の成功事例だ。
【国や自治体も支援】
こういった第二創業的な支援をしようという動きが自治体にも出始めている。例えば、墨田区などでは「企業健康診断」を始めている。まず、地元の信用金庫など金融機関の担当者が「経営バトンタッチの準備の進捗状況」を日頃から取引し、訪問している社長を訪ね、探っていく。その後、申し込みをした企業に中小企業診断士や税理士などの専門家が直接訪問。事業内容や財務状況を詳細に見たうえで会社の強みを分析し、 事業の引き継ぎを無料でサポートしている。
その他にも、経済産業省が「事業引継ぎ支援センター」を全国に設置し、中小企業の能力とその能力を活かしたい人をマッチングさせる仲介を実現している。双方合意の場合はM&Aなどにより事業の引継ぎを実施。導入から約5年が経過したが、全国で1万4千社の相談を受け550件以上の事業引継ぎを実現している。確率は低いが、こういった事例もある。
【洗練したデザインで伝統工芸を支える世界屈指のデザイナー】
もう一つ紹介したい方法として少し大きな話になるが、世界の消費者ニーズと感性を十分理解したデザイン、製造を行ない、世界への売り方までを考えるということが中小企業の生き残る道として重要である。
以前お話したことがあると思うが、有名デザイナーの協力によって世界で成功した例がある。それは、創業55周年記念したプレミアフェラーリをデザインした世界屈指のカーデザイナーである奥山清行氏の取り組み。
奥山氏は、山形出身で東北地方には優れたよい企業がたくさんあるとして、山形鋳物のコーヒーポットをデザインしたり、山形の木工で椅子や衣文掛けなどをデザインしたりすることで 山形などの文化・伝統の技術を世界に発信。ミラノなどの「国際見本市」に出品したところ、大評判となり200社近くから商品の引き合いがあった。鋳物ポットは、世界17ヵ国で3万個以上売れている。こういた方法によって新たな第二創業が起こっているのだ。
奥山氏が手がけた菊地保寿堂の「鉄瓶 コーヒー&ティーポット “ふく-S”」
奥山氏のオフィシャルサイト でも購入できる。
【これからは新たな創業へ】
この2017年問題を乗り切るには、各企業がどういったアイディアを出してくるかが勝負となってくる。従来の親の事業をほぼそのまま継承することは高度成長期ではよかったかもしれないが、これからは容易ではない。世界で売れることや、新たなデザイン、取り組みといった新たな創業が求められている。
(※1)東京商工リサーチ「2015年 全国社長の年齢調査」
(※2)帝国データバンク「2016年 後継者問題に関する企業の実態調査」
(※3)東京商工リサーチ「2016年 休廃業・解散企業 動向調査」