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ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

EVによる自動車革命 

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 電機メーカーのパナソニックが電機自動車(EV)分野に参入することになった。パナソニック(旧松下電器産業)といえば、戦前から家電製品を手掛け、電機業界の雄にのし上がってきた企業だ。戦前の二股ソケットの開発から始まり、戦後はラジオ、電気洗濯機、トースター、電気釜、掃除機、テレビなど家庭生活を便利で豊かにする商品群を次々と開発し、東芝日立製作所と並び電機業界をリードしてきた。

 電機業界と並んで戦後の産業を引っ張ってきたのは、自動車業界だった。日本の産業、家庭生活はまさに電機製品と自動車が中心にあった。その電機産業のリーダー役だったパナソニックが、自動車産業へ参入することになったわけだ。今後は他の電機メーカーも参入する可能性があるので、これからは自動車産業と電機産業が一体化する時代がやってくることになろう。

 自動車についていえば、日本はまだ圧倒的にガソリン自動車が主流で一気にEVに大転換する気配はない。しかし世界は着々とEVへと動いており自動車産業に革命的変化を起こすのではないかとみられている。ガソリン車からEVへの転換を表明しているのは欧州と中国だ。英国とフランスは2040年までにディーゼル車やガソリン車の新車販売を禁止すると公表している。もっと熱心なのが中国である。

 中国は大気汚染がひどく、国民の健康に大きな被害を与えているため、国内の環境対策から二酸化炭素(CO2)を排出するガソリン車の規制を打ち出し、昨年天津で開いた自動車産業フォーラムで、規制のロードマップ(行程表)を作ると発表している。当面は新エネルギー車に力を入れ、16年に50万台だった新エネルギー車を25年には700万台にしたいとしている。

 中国の自動車販売は16年で2800万台。アメリカの1.6倍、日本の5.6倍にあたり、いまや世界一の自動車王国なのだ。その中国が公害規制に本格的に乗り出しCO2を出すガソリン車、ディーゼル車を廃止の方向にもっていこうとしているのである。いわば世界の大市場が方向転換し、ルールを変えたようなもので、今後中国で車を売りたいメーカーは中国のルールに従わざるを得なくなってきたといえる。

 ガソリン車の部品は1台あたり3万~4万点といわれるほど膨大だが、EVになると部品点数は約半分に減るといわれ、車の形や構造も一変しそうだ。当然部品メーカーの集約やリストラも起こってくるから一大革命になる可能性がある。またEVに最重要な柱は車を動かす電池となる。ここに電機メーカーが自動車に参入する機会が出てきたのだ。従来のガソリンスタンドも電気を急速充電したり、取り換え用の電池を供給する場に変わってくるだろう。

 16年の世界の自動車販売台数は9311万台で、ガソリン車が76%、ディーゼル車が20%を占めており、EVがまだ0.5%しかない。しかし25年になると販売台数1億1034万台の予測の中でガソリン車は54%まで落ち込み、ガソリンと電気を使うハイブリッド車が23%(ただしハイブリッドはEVとみなされていない)、EVは3.4%に伸びるという。中国の自動車販売は世界一で、今後の車市場の動向は中国が握っているといえる。日本のメーカーも中国の動向を見ながら車づくりを行わなければならない時代にきたのだ。
【電気新聞 2018年6月27日】

画像はパナソニック車の電気自動車(EV・PHEV)充電設備「ELSEEV:エルシーヴ」サイトより。

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