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脱炭素時代へ大競争 米・欧・中が先行

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 バイデン米新大統領は、就任直後の今年1月、「4月に気候サミットを開いて“脱炭素元年”とし、35年までに電力の脱炭素化、電気自動車やエコ住宅の普及などに4年間で2兆ドル(約209兆円)を投ずる」と表明した。EUは30年の削減目標を55%に引き上げ約76兆円をグリーン復興に投入、日本は50年に実質ゼロとすることを約束した。いまや世界は「気候変動は地球存亡の脅威だ」として各国は脱炭素化の具体化に走り出している。

 国際エネルギー機関(IEA)は、20年10月の報告書で2050年に世界のCO2排出を実質ゼロにするための30年までの必要な道筋を示した。それによると
(1)CO2は10年比で45%減
(2)電力部門からの排出を19年から60%減
(3)電力供給に占める再生エネの割合を19年の27%から60%%に上げる
(4)30年の乗用車販売の半分以上を電気自動車(EV)に変える──などを打ち出すととも個人の行動についても言及している。
 その内容は(1)労働者の2割が週3回以上在宅勤務、(2)運転速度を時速7キロ遅くする、(3)冷暖房の設定を3℃弱める、(4)3キロ以内の移動は自転車または徒歩に変更する──などだ。
 
 また30年までは再生エネや省エネの普及が主となるが、30年以降は新技術を開発し、その中心は「水素」とする。EUは50年の世界エネルギー需要の24%を水素が担うように仕向け、7月に「欧州クリーン水素連合」を創設し官民で研究開発やインフラ整備を進めるとしている。

 一方、中国は、60年までにCO2排出量を実質ゼロにすると習近平国家主席は表明した。中国のCO2排出量は世界の3割弱を占める世界最大の排出国だが、再生エネの導入にも力を入れてきた。中国はEVの世界最大の市場で19年の販売台数は世界全体の54%に達し、中国の太陽光発電力量は32%で、日本のシェアの約3倍。さらに水素エネルギーのインフラ、技術力の高度化にも熱心だ。

 このほか脱炭素社会で競争力の源になるのは再生可能エネルギーと蓄電池技術である。特に無尽蔵の太陽光を電力に変える太陽電池と再生エネの復旧を支える蓄電池が注目されている。次世代電池では1回の充電で2倍以上の走行距離1千キロを走行できるようになる。

 こうした技術開発による脱炭素社会への転換で、いまや世界の大競争時代に入ってきた。脱炭素の競争で先行しているのは、EUと中国といわれている。再生可能エネルギー、省エネの拡充などこれまでの延長線上にある技術の向上と水素社会の実現、CO2の回収技術、蓄電池の次世代技術開発などが脱炭素社会実現へのカギとなってくるようだ。
【財界 2021年4月7日号 第539回】

■参考情報
・EU、グリーン水素推進し排出ゼロ実現へ 欧州委が戦略発表 
2020年7月9日 ロイター
 欧州連合EU欧州委員会は8日、再生可能エネルギーを使って水を電気分解して作る「グリーン水素」を推進する戦略を発表した。2050年までに最大4700億ユーロ(5307億20000万ドル)の投資を呼び込むと見込んでおり、温室効果ガス排出量を50年までに実質ゼロにする計画の柱となる。
https://jp.reuters.com/article/climate-change-eu-hydrogen-idJPKBN24A0BE

・脱炭素へ 地熱発電で製造した水素 工場などで活用へ トヨタ 2021年8月1日 NHK
 脱炭素社会の実現に向け、トヨタ自動車地熱発電を活用して九州で製造された水素を、地元の工場などで使用する取り組みを始める。
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210801/k10013173551000.html

・中東、輸出視野にグリーン水素 脱炭素・資源温存狙う 2021年8月1日 日経
 中東の産油国再生可能エネルギーの電気で水を分解してつくる「グリーン水素」の投資を本格化する。オマーンが世界最大の製造拠点を整備するほか、サウジアラビアも欧米企業を誘致する。脱炭素時代の「輸出産業」に育てるほか、豊富な化石燃料資源を温存して残存者利益を総取りする思惑もありそうだ。
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB224BN0S1A720C2000000/

 

画像:環境省 脱炭素ポータル

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