今年もトランプ主義で混迷へ?
トランプ政権で内外から信頼を集めていたマティス国防長官が1月で退任(※)することになった。"アメリカ第一"を標榜し、国際協調主義を否定するトランプ主義に対し、最も強力な歯止め役を担っていたマティス長官の退任でトランプ政権はますます内向きとなり、世界経済にも混乱を与えそうだ。
トランプ政権では2017年の発足直後から次々と重要な高官が辞任したり、交代させられてきた。発足間もない2月にフリン大統領補佐官(国家安全保障担当)、5月にコミーFBI長官、7月にプリーバス首席補佐官、8月にはバノン首席戦略官・上級顧問、さらにプライス厚生長官、パウエル大統領副補佐官も辞任した。
この辞任連鎖は2018年になっても続き、マクマスター大統領補佐官、ティラーソン国務長官、コーン国家経済会議委員長、プルイット環境保護局長官、ヘイリー国連大使、セッションズ司法長官、ジンキ内務長官、ケリー首席補佐官など政権発足からほぼ2年で高級官僚も含めた高官の離職率は65%に上っているのだ。
辞任の原因はほとんどがトランプ大統領との意見衝突や内紛といわれる。トランプ大統領は自由貿易、同盟重視などで歴代のアメリカの政策や伝統的な外交価値基軸をことごとく否定。"ディール(取引)"を重視したアメリカ第一主義の方針を貫いてきた。解任した閣僚の後任にはトランプ主義に近い人物を登用している。
このため近隣諸国やかつての同盟国とも対立が増大し、メキシコとの間では移民流入防止の壁を建設する方針を打ち出したほか、中国の貿易政策に対し高率関税をかけるなど米中"新冷戦"の兆候も招来させた。この米中対立で世界の株価、為替も乱高下を繰り返し、世界経済全体を不安定化させている。またドイツを口汚く批判し、"もはやEUの安全保障はアメリカを頼りにできない(メルケル独首相)"と米欧同盟にまでヒビを入れているのだ。
自由主義世界を引っ張ってきたアメリカが、一人の大統領の交代でこれほど変貌するケースは過去に例がなかったように思う。政権は後半戦に入るが恐らく今の姿勢は変わらないだろう。中間選挙で下院では議席を減らしたものの上院では逆に増やした。トランプ主義はアメリカそのものの変化を表しているのだろうか。
安倍首相はトランプ大統領と20回以上の首脳会談を行なっており相性は決して悪くない。しかし具体的政策の話合いになるとTPP(環太平洋経済連携協定)への加入を呼びかけても応じないし、日本の対米貿易黒字などに対し不満を申し立てている。安倍対米外交も正念場を迎えそうだ。
【財界 2019年2月12日号 第488回】
(※)マティス国防長官は今年の1月1日付けで辞任しました。12月中の入稿のため、このような記載になっておりますことをご了承下さい。