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トランプ大統領はアメリカの変化の象徴か?

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 トランプ大統領は、歴代の大統領と比べると明らかに特異な人物だ。ただ、これまでのアメリカの価値観を平気で否定するトランプ氏の登場は、アメリカの国自体の有り様、変化を表しているとすれば話は違ってくる。その意味で上下両院の議員、州知事、地方議員などを一斉に選ぶ11月6日のアメリ中間選挙はトランプ氏の就任から2年間の政権運営に対するアメリカ国民の評価だが、同時にアメリカそのものの変化でもあるのかどうか、を知る上で選挙の結果は興味津々である。

 自由貿易と民主主義、人権尊重などを旗印にした国際主義は、アメリカが世界を仕切ってきた"錦の御旗"だった。ところがトランプ氏はそうしたアメリカの価値観の多くを否定し、世界を困惑させている。

 例えば9月25日の国連総会の一般演説でトランプ氏は「グローバリズムを拒絶する」と演説し、今後は"米国第一"を推進することを改めて強調した。この方針に従い通商分野では各国との貿易協定を見直し、再交渉を進めるとしてTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を表明したし、地球の温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からも脱退した。またイラン核合意を批判して対イラン経済制裁を再開し、中国の巨額の対米黒字についても「中国との貿易不均衡は全く許容できない」として中国からの輸入製品に高関税をかけると主張。遂に米中貿易戦争にまで発展させてしまった。この影響で世界の株価や新興国の通貨価値を大きく揺るがす結果を招いている。

 また同盟国との間でもドイツに対して「ロシアの捕虜になった」と口汚く批判したり、移民政策や人権問題などでフランスと対立。マクロン仏大統領は「自国の利益を追求する最もすさまじい無法状態が蔓延している。パリ協定に従わない国とは貿易協定を結ぶのはやめよう」と各国に呼びかけ、トランプ政権と距離をおく方針を明確にしている。さらに米国内においてもトランプ氏の不倫疑惑とそのもみ消し工作、2016年の大統領選でロシアにサイバー攻撃などで協力を依頼し、その見返りに制裁緩和を約束したとされるロシア疑惑や元側近らの相次ぐ離反。特にヘイリー国連大使の辞任など、中間選挙の悪材料となっている。

 ただ中間選挙を有利にするため鉄鋼や自動車の輸入関税を引き上げて接戦州の白人労働者階層を引き込む政策を矢継ぎ早に打ち出したり、減税などでアメリカの景気が上向いている点はトランプ氏と共和党の有利に働いているようだ。

 もしトランプ・共和党が敗北すればトランプ政権は"死に体"となり、アメリカ自体が機能不全に陥り、一層世界が混乱する結果となる恐れもあろう。
【財界 2016年11月20日号 第483回】

※本コラムは11月6日発売された号に掲載されたものです。
まぐまぐメールマガジン「虫の目、鳥の目、歴史の目」の11月9日号に米中間選挙のことをテーマに配信しましたとおり、11月6日に行なわれた注目のアメリ中間選挙の結果は、ほぼ事前の予想通り上院は共和党が51議席以上を確保し過半数(51議席)を維持しました。一方下院では民主党が223議席以上を獲得し8年ぶりに過半数218議席)を取り勝利しています。

トップ画像:Wikimedia Commons (Gage Skidmore)

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