時代を読む

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この夏は妖怪ブーム世紀末現象の反映か

 いま日本は妖怪ブームだという。そこで先日、三井記念美術館で開かれていた「大妖怪展─鬼と妖怪そしてゲゲゲ─」展を見に行った。

 

 夏休みでもあり、小・中学生などがつめかけていると思いきや、何と来ている人の大半は中年以上の人たちばかり。展覧会場は静かで妖怪の絵画、能面などを見る大人の男女が解説のイヤホーンを耳につけたり、絵画の時代背景を記したパネルを熱心に読んでおり、静かに様々な妖怪図を楽しんでいる姿にびっくりした。

 

 実は首都圏ではこの夏に横須賀美術館で「日本の妖怪を追え!」、そごう美術館で「幽霊・妖怪画大全集」展などが開かれているほか、全国の美術館でも数多く開催されているという。ラジオ番組に出演して頂いた国際日本文化研究センター(京都)の小松和彦所長によると「世の中が行き詰まっているときや暗い時代には妖怪がブームになり、幕末期や戦国・室町時代、古くは日本書紀に登場。平安時代から妖怪ブームがあった」という。妖怪はいってみれば、人間の裏返しのような存在で、人間の限界、世の中の行き詰まりを乗り越えたい思いを妖怪に託したのではないかと指摘していた。

 

 妖怪展で驚いたのは葛飾北斎喜多川歌麿、歌川國芳、広重などの有名な浮世絵師が妖怪を描いていたり、百鬼夜行の図や鳥獣戯画などかつて教科書などで見た絵や鬼の能面なども妖怪世界と関係していたことだった。幽霊は人間の死者の霊鬼で「動くことができ怨念をもって追いかける」のが特色だとか。天狗や山姥は異界の魔物、動物や器物の妖怪は自然の霊魂、アニミズムから発想されたものらしい。

 

 日本には妖怪の図は数百種類、妖怪に関する言葉は数千にのぼり、国文研では動画も含めて収集している。妖怪の絵がある事が日本の特色で、中国や韓国は物語りが中心で絵は少ないらしい。西欧にもドラキュラやバンパイヤの変形はあるものの、日本のようにろくろ首、カベ人間、動物や植物の妖怪はほとんどみられないので、最近は外国の研究者が多勢日本に来ているという。日本の過去の学者としては平田篤胤、東洋大学を創始した井上円了、民俗学で有名な柳田国男などがいる。

 

 現代の妖怪物語として人気となったのは、水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」だろう。鳥取県境港は街おこしの起爆剤ともなった。また宮崎駿の映画にも「となりのトトロ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」など妖怪的なキャラクターが出てくるアニメが非常に多い。

 

 日本の妖怪ブームは国際的な広がりもみせている。宮崎駿のアニメが世界で受け入れられているのはその証だろう。国文研では妖怪のデータベース、動画などを集め、ネット上に妖怪美術館を作る計画もある。国際社会ではユーロ危機、世界的不況、中東の動乱、そして日本では3.11の東北大震災と原子力発電所の爆発、長い酷暑──など、世紀末的な事件、事象が相次いでいる。それらも妖怪ブームの背景らしいが、アニメ、マンガなどクールジャパンの原動力ともなっている。妖怪ブームを逆に活用したらどうか。【財界 2013年9月24日号 第359回】

 

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