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時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

次はクルド人独立か

コラム(電気新聞)

 イラク北部に最大の油田・キルクークがある。私は1980年7月にイラクを訪問した際、有名なキルクーク油田も見学した。遠景ではあったが油田の火がチロチロと燃え上っているのが見えた。キルクーククルド人居住区にあったが、当時はフセイン元大統領の最盛期でクルド人が手出しをすることなどできなかった。

 そのクルド人が、フセイン後のイラク中央政府と帰属問題でもめていたキルクークとバイハッサの2つの油田を掌握し、治安部隊を配置したという。クルド人イスラム国との戦いで、フセイン元大統領の残党勢力などと共に地上軍として戦っている中で、最も戦果を上げているといわれる。

 このため、地上軍は出したくない欧米側はドイツまでが武器の供与を行なってきた。ドイツは人権弾圧国や紛争当事国への武器供与を禁じてきた。しかしドイツ連邦安全保障会議は「イラクが国家崩壊すれば戦火は中東全体に広がり、ドイツや欧州にも直接影響を及ぼす」として国益上の観点から必要だと結論づけたのである。

 イスラム国と有志連合の攻防は欧米やヨルダン、エジプトなどがイスラム国地域に空爆を行ない、すでに3千発以上のミサイルなどを打込んでいる。無論イスラム国軍だけでなく多数の民間人も死傷しているが、いかんせん空爆だけでは都市は破壊出来ても陣地を占領、支配し、拡大して崩壊させることは難しい。その欧米がやりたがらない地上戦の中心部隊がクルド人部隊で一部の地域奪回に成功しているのである。

 クルド人はイラン、イラク、トルコにまたがって暮らす民族でそれぞれの国では少数民族だが、3国合わせたクルド人は3千万人近くに上り、国を持たない世界最大の少数民族といわれてきた。無論彼らも独立を望んできたが、常にイラン、イラク、トルコの支配者に弾圧され辛酸をなめてきた歴史を持っている。特にここ20年以上のイラン・イラク戦争湾岸戦争イラク戦争などでは多くの場合に被害を受けてきたのである。

 それがイスラム国との戦いでは、にわかに注目を浴びてきた。果敢に戦いイスラム国の支配地域を奪回したりしているのだ。欧米諸国は地上軍を出して自国の兵が死傷することを嫌がっているのでもっぱら空爆や無人の戦車などを出しているだけなのだ。

 しかし過去の戦争を見てわかる通り戦争の最終場面は地上軍が敵の首都を陥落し、降伏させなければ終結しない。

 だがアメリカのオバマ大統領はじめ先進主要国はここ20、30年の戦争、特にアメリカは国民も含めて戦争疲れで世界の”警察官”の立場からも降りようとしているのが現実なのだ。そんな時、中東の大混乱要因になりそうなイスラム国に対し、地上軍を出して戦っている当事国のイラク(中心は元フセイン大統領派)とクルド人が地上戦を引き受けてくれていることは願ってもないことだろう。

 ただ中心のクルド人が活躍し、もしイスラム国が崩壊することになれば、次は間違いなくクルド人が独立国建設を主張するだろう。クルド人もまた第一次大戦後に引かれた国境線で居住区域が分割された歴史を持つからだ。最近はイラク北部の3県で自治を行ない、中心都市アルビルに民選議会や治安部隊を持ち、国家組織のような機能も持っている。

 イラン、イラク、トルコの3国にまたがるクルド人が連携し独立を主張したら3国や欧米の有志連合はどう対応するだろうか。今の段階では、イスラム国対策で手一杯だし、世界に散らばるイスラム国の潜在的戦士の対応にも追われているのが実情だ。今は連日、イスラム国問題で頭の中は一杯だが、歴史を振り返りながらクルド問題という次の火種も抱え始めていることを知っておくべきだろう。
【電気新聞 2015年3月12日】

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