時代を読む

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中国経済は大丈夫か 株価、住宅、消費――下支え効かず?

 中国経済が変調をきたしている。そのシンボリックな経済の動きが、まず株価の下落だ。上海総合指数は、7月上旬までに1カ月間で約30%安となり、日本を含むアジア周辺国まで株安に巻き込まれた。あわてた中国政府は、株価下落を支えるため昨年から4回の追加利下げを行ったほか、上場企業の大株主や経営幹部に自社株の買い戻しを要請した。さらに国有の金融企業に対し株価が乱高下している間は「株を手放さないように」と異例の指示を出すとともに、株価を下支えする証券会社には間接的支援を行うという緊急声明まで出した。まさに、なりふり構わない株価対策を行っているのだ。

 しかし、それでも株価の下落と乱高下が止まらないため、上海と深圳の両取引所は約200社を超える企業の売買を停止した。中国では企業に重大な影響が出ると判断した場合、取引所に対し売買停止を申請できるが、株価が下落し始めた6月中旬以降、中国全上場企業の約3分の1にあたる1,000社以上が株取引を停止しているという(7月8日毎日新聞)。こうした中国株の変調とギリシャの債務問題もからんで、東証株価は一時2万円台を割り込んだ。

 

――GDPも2025年は4.1%――

 中国経済変調の兆しは、中国の実質GDPにも表れている。中国在住の各国企業エコノミスト調査の予測によると4~6月期の平均値は6.9%で、2015年の通年も6.9%になるとしている。ちなみに同調査の予測によると16年は6.7%、17年は6.8%となっている。また、予測期間の2015~25年の中長期をみると、平均実質成長率は5.3%、2025年には4.1%まで低下すると予測している。

 中国は習近平政権になってから高度成長期は終わり、今後は“新常態(ニュー・ノーマル)”の時代に入ると指摘、安定成長期に向かうことを言明していた。それでもGDPは7%前後と述べていたが、実際は6%台に落ち込んできているのである。しかもこの6%台には人為的加工があり、実態は3~5%台ではないかとみる向きが多い。

 中国が成長率を落としているのは、一時はバブル的な勢いで上昇していた不動産・住宅市況が下落して内需が冷え込み、工業生産が低落して消費も停滞、地方財政が悪化しているためだろう。

 

――バブル崩壊の予兆?――

 中国経済は2006年11月に外貨準備高1兆ドルを突破し、北京オリンピック直前の上海株価総合指数は6,092ポイントと史上最高値をつけたが、2008年秋のリーマン・ショックで2,000ポイント台まで低落した。その後、2010年の上海万博やGDPで日本を抜いて世界2位になったことで3,000ポイント台まで回復したが、理財商品のデフォルト不安拡大などもあって3,000ポイント前後で推移。2013年に新車販売が2,000万台を超えたり、地方で理財商品による金融緩和などでマンション、団地、個人住宅などのブームもあったが、常にバブルへの不安があって、かつてのような2ケタ成長は実現せず2014年の成長率は7.4%と24年ぶりの低成長にとどまった。ただ、株価だけは政府の株価上昇政策の下支えもあって一時的には5,000ポイントまで上昇したが、あっという間に急落した。15年7月の上海総合指数は3,507ポイントにとどまっている。2007年の高値に比べると2,500ポイント以上も下落したままだ。

 

――“中国の夢”でつなぎ止める策か?-――

 中国はこうした国内経済の停滞を放置しておくと社会不安が高まるため、必死に成長への構想を打ち上げている。“一帯一路”の新シルクロードの流通と鉄道綱と海洋路の整備、東南アジアへの鉄道・輸送綱への支援、アメリカ主導のTPPに対抗したアジア15カ国の新経済圏構想、アジアのインフラに資金を提供するアジアインフラ銀行とBRICs銀行の新設、上海協力機構を軸にしたロシア、インド、中央アジア諸国との経済・安保協力体制の構築などだ。国内の停滞を海外投資とその受注で補おうという戦略なのだろう。

 だが、ギリシャ危機で世界の為替、株式市場が大変動し、EU経済の重石となっている。アメリカの景気も一進一退で、金融政策変更のめども先延ばしになっている。中国経済の変調は東南アジア諸国や日本にも大きな影響を及ぼそう。

 

――政治と経済の政策アンバランス――

 中国は1990年の冷戦終了、鄧小平氏が先頭に立って市場経済の導入に努めた。深圳特区をモデルでみせた後、次々特区を広げて外資導入を図った。生産基地、工場の基盤をつくるため外資の活用を図ったのだ。日・米・欧の外資は安い労働賃金を求めて続々と参入した。そこで中国は外国の技術、生産方式を身につけ、模倣して中国産工業製品を安く作り輸出し始めた。生産基地から輸出基地となり、2000年代に入り労働者の所得が増えてくると大消費基地として見られ始め、外資の消費製品が次々と輸入され始める。こうして中国は生産、輸出、消費基地として先進国の基盤を固めていった。

 消費が増えれば、当然国民の欲望は次々と火がつく、電器製品、車、洋服、装飾品などとくれば必然的に住宅に向かう。こうして住宅建設、住宅資金、安いローンが次々と準備されバブル状態と化した。それでも中国政府は14年11月から4回にわたり利下げを行い、株価を高めることで消費意欲を導こうと公的資金を市場に投入するなど、株価対策に力を入れた。

 こうした政策が息切れし、怪しげな理財商品が出回り、金融機関が経営破綻する状況に陥ってきたのが現状だ。習近平政権は、一帯一路、アジアインフラ銀行、BRICs銀行、東アジア経済圏形成などの“中国の夢”を語り、国民を刺激しているが、一方で腐敗撲滅、人権派弁護士や活動家の拘束、高級幹部、軍人トップなどの取り調べも続き、中国内には疲弊した気分が漂う。

 

――中所得層の夢が頼みの底力――

 日本は1950年代末から高度成長期に入り、90年代初めまで世界第2位の経済大国を謳歌した。その背後にあったのは、日本人の勤勉な精神と働き方、将来に対する楽観的な夢や生活観、人口の増大などだった。しかし、冷戦が崩壊し、中国、韓国、東欧、東南アジアなどの新興国が登場し、いつしか競争力で太刀打ちできなくなってきた。こうした新興国の登場に気づくのが遅く、バブルが崩壊し失われた20年を過ごしてきたのが日本だった。

 中国は貧困国から30年弱で中所得国の地位に登りつめてきた。しかし、周囲には公害社会、高齢化、自由化の抑制、二極化など様々な障害が横たわっている。ただ、中所得層の生活を手にしつつある人の欲望は、まだ衰えていない。そのエネルギーが国民の間にあるうちは、70年代に通貨切り上げ、二度の石油ショックなどを乗り越えた日本同様、まだまだ中国には欲望のエネルギーがあり、潰れないと見えるがどうだろうか。人々の欲望こそが国のエネルギーの素だと思うのである。

TSR情報 2015年7月30日】

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