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中国経済の減速は止まるか

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 中国経済の減速が止まらない。2010年までは2ケタの高成長を続けていたが、11年には1ケタ成長に落ち込んだ。それでも18年半ばまでは7%増の中成長を維持していたものの、19年末には6.1%増まで沈み、90年の天安門事件以来の歴史的な低水準となった。米中貿易摩擦は一時的な修復が行われただけだし、財政の巨額債務の積み重ねで財政刺激も難しくなっている。ここ数年の成長の低落傾向が今後も続くようだと、中国経済は安定成長期を通り過ぎて低成長時代に突入する可能性もありそうだ。

 中国経済の落ち込みは、実質成長率だけでなく鉱工業生産や固定資産投資、輸出、輸入、個人消費(小売売上高)なども軒並み減少している。特に個人消費は1%、輸出は2.1%、輸入は10%以上も前年より伸び率が縮小、工業生産も5.7%増にとどまり97年以降で最低だった。

 落ち込みの最大の要因はアメリカとの貿易戦争だ。米中が互いに追加関税をかける貿易戦争が18年7月に始まり、当初は340億ドル(約3.7兆円)、818品目の中国製品が追加関税の対象だったが、19年9月までに3700億ドル、1万品目以上に拡大し、中国も対抗してアメリカ製品に追加関税をかけたので米中の輸出入は一挙に落ち込んだ。関税戦争で原材料価格も高騰した。さらに先行きの不透明感から企業は投資を減らし、民間投資は18年の8.7%増から4.7%増へと低下した。米中間では1月中旬に貿易協議の部分合意が成立し、貿易戦争は一時休戦となったが、中国はバラまき対策もできず景気の下支えが難しくなっている。

 08年当時は約4兆元(当時のレートで約57兆円)の財政を投入し、中小企業支援や公共事業対策などを実施したが、結果は倒産企業の延命に力を貸し、不動産バブルをもたらした上、巨額の財政債務を残して苦しむ結果となったため、今回は慎重なのだ。また米中貿易戦争も関税の部分合意はできたものの、中国が中小企業などに補助金を出し経済競争力を強めようとする構造改革問題については、依然対立したままで再び米中戦争が起きる可能性は強いのである。

 習近平政権は2020年のGDPと住民一人当たりの所得を10年比で2倍にし、国民の生活水準を底上げして〝いくらかゆとりのある小康社会〟を実現すると約束している。中国の一人当たりのGDPは19年に1万ドルを超え、ようやく現在日本の4分の1の水準に達してきた。そんな中で中国経済の減速が止まらず、一挙に低成長に突入すれば発展は見通せなくなる。そればかりか、いまや中国経済が世界経済に与える影響は、極めて大きくなっており世界不況につながる懸念も強いのだ。
【財界 2020年2月26日 第512回】

※なお、本コラムは新型コロナウイルス感染症の拡大による経済状況が表面化する前に入稿しております。


画像:Wikimedia commons(Allen Timothy Chang/張華倫)

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