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時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

仰天? 英・中原子力協力

 イギリス(英)やフランス(仏)が、中国の提唱したアジアインフラ投資銀行(AIIB)の参加にあっという間もなく支持した時には、びっくりした。仏は、かつての共産党幹部の多くが留学していたからまだ中仏の絆は強く残っているのだな、と思ったがドイツ(独)、英まで、ほとんどもめることなく参加したことでAIIBは突然歴史を持つアジア開発銀行と並ぶ存在感をもってしまった。

 10月に入りさらに驚かせたのが、中国が自主開発したとされる原子炉技術を英東部の原発に導入し、南西部に新設する原発にも出資することで合意したことだ。先進国で中国の原発技術を採用したのは今回が初めてという。原発以外にも投資、貿易で総額400億ポンド(約7兆4千億円)の契約に合意したとされる。

 英と中国(清朝)は浅からぬ因縁がある。19世紀に英が阿片を中国に輸出、中国が禁止したにも関わらず英は戦争を仕掛けて勝利し中国を半植民地化したのだ。これを契機に欧米列強は20世紀にかけて中国を植民地化していった。

 その因縁の両国がこのところ急接近し習近平主席は「中英関係は黄金時代を迎えた」といい、キャメロン首相も「西側の格別のパートナーとして協力する」と最大限の賛辞を贈った。

 背景には両国の経済、政治事情があるのだろう。中国はバブル崩壊で成長率は7%を割り、実際は4~5%ではないかとさえ言われる。アジア・太平洋の貿易主導権もTPPの大筋合意で米が握り「アジアのルールづくりは中国にわたさない」と一歩先んじられた。他方、EU、ユーロ経済圏も低迷が続き、最近は中東からの大量の難民流入に頭を痛めている。

 そんな中、中国はEU接近をはかり日米を牽制、新シルクロード(一路一帯)構想やAIIBを創設して中国と欧州の海と陸の物流強化、インフラ整備に乗り出した。一方で英は人民元の取引拡大に協力し、世界の金融中心地としてのロンドンの地位を守るため人民元を米ドル、日本円に並ぶ主要通貨戦略を支援したりしている。欧州にとって中国はいまや最大の貿易相手国になってきたのだ。

 ただ英の対中国協力戦略には批判も多い。特に原子力技術を中国に依存し英の原発産業に参入することは、国の安全保障に直結してくるからだ。中国からの大量のサイバー攻撃などを考えると、中国を本当に信用して国の安全を委ねて大丈夫なのか、という懸念だ。現代では遠隔操作で原発を支配することもできる時代だけに、国民の間にも原発は英国家が自ら管理すべき安全保障の基準に関わる産業ではないかという心配の声が多いのである。それと中国の原発技術をどこまで信用できるのかという不安もあるようだ。かつて”7つの海”を支配した大英帝国も、いまや国内にスコットランドの独立問題をかかえ、EUの独仏との関係もいまひとつだ。

 中国の太平洋地域への進出には米が目を光らせ、近隣の東南アジア諸国、日本との関係もギクシャクが続いている。中国は経済分野では各国と友好関係を強めるものの、安全保障の死活的分野では妥協する姿勢をみせようとしない。

 今回の英の経済と原子力の協力は、互いに地理的に離れているため話が進んだのか。英中の接近に米の了解はあったのか。歴史的には二国間や同盟関係の結びつきと離散は、所詮国益に左右されるものだと考えるなら、今回の英中接近も歴史からみれば驚くにあたらないことかもしれない。

 顧みれば、明治維新以後の日本の同盟国の中心は第二次大戦までイギリスだった。現代は日米安保同盟が強化されたが、その歴史はまだ70年弱だ。大動乱の時代、同盟関係なども柔軟にみよ、ということか。
【電気新聞 2015年11月4日】