安倍政権の7年間は? 緩みと国力低下に自覚なし
戦後最長7年半の政権を保持してきた安倍首相は、結局、これまでに何を残してきたのだろうか。時々行なうスピーチも、左右に設置されているプロンプターに流れる原稿を棒読みしていることを国民から見透かされているからさっぱり胸に響いてこない。コロナ騒ぎでもリーダーシップを発揮して陣頭に立っているわけでもなく、アベノマスクを配布したぐらいで存在感は見えてこない。
就任当初に金融・財政で経済の落ち込みを下支えしたことと、賛否両論のあった安保法制を可決・成立させたことぐらいが印象に残る実績といえようか。本当なら東京オリンピックで弾みをつけたかったと思われるが延期となってしまいすっかり当てが外れてしまった。
歴代内閣をみると、安保の岸信介、所得倍増論の池田勇人、高度成長と日中国交回復の田中角栄、物価高騰を抑え込み安定成長路線を敷いた福田赳夫、アジア・太平洋外交に力を入れた大平正芳、郵政民営化を実現した小泉純一郎、ロン・ヤス関係を築き日米同盟を強化した中曽根康弘、日中・東南アジア外交に熱心だった福田康夫など、それぞれが戦後史に足跡を残している。
安倍首相は、就任した時に拉致問題の解決と北方領土の返還を内閣の第一の課題としてあげ、他方で経済の再生復活にも意欲を示した。しかし拉致問題は展望が見えておらず、北方領土問題もプーチン大統領との会談は何度も行ないロシアへの経済協力まで実施してきたが、一向に進まない。大統領選挙を前に厳しい方向に逆戻りしているようにさえ見える。
安倍首相が親交を深めているのはアメリカのトランプ大統領ぐらいだろう。しかし基本思想は"アメリカ第一主義"であり、ユネスコはじめ、WHOからも脱退を宣言するなど、かつてアメリカが世界を引っ張ってきた基本的価値観から背を向けて国際社会を混乱させている。
この7年半で日本の国力は明らかに弱まってきている。高度成長期の日本企業は電気製品や自動車などで次々と新しい商品を作り世界を席巻した。日本人は働き過ぎでクタクタになりながらも、中所得国以上の生活を実現し、海外旅行に行く人達も珍しく無くなった。しかし家はウサギ小屋のような住居環境が多く、道路、橋、公園など社会インフラも決して豊かとはいえない。また最近は新製品を生み出す力も衰えてきた。
一体、安倍政権時代の7年半はどんな時代だったのか。きちんと総括しておかないと"ポスト安倍"時代の日本の展望は開けてこないだろう。コロナのせいにしているといつまでも動きだすまい。
【財界 2020年8月26日号 第524回】
※本コラムは7月下旬に入稿しております。
8月28日に安倍首相は辞任を発表し、9月14日の自民党総裁選にて菅義偉氏が総裁となりました。
■参考情報
・安倍内閣が総辞職 連続在任最長、2822日で幕 日経 2020/9/16 9:23
安倍内閣は16日午前の臨時閣議で総辞職した。2012年12月26日の第2次内閣発足以降、安倍晋三首相の連続在任日数は2822日で幕を閉じた。第1次政権を含む通算在任日数は3188日でいずれも憲政史上最長となった。
・第99代首相に菅義偉氏 衆参両院の指名選挙で選出 NHK 2020年9月16日 14:22
自民党の菅義偉総裁は、衆参両院の本会議で行われた総理大臣指名選挙の結果、第99代の総理大臣に選出されました。菅氏は、本日夜、菅内閣を発足させることにしています。
画像:首相官邸サイトより