菅政権の真骨頂は挑戦?
約8年の安倍長期政権が終わり、菅義偉新政権が発足した。それにしては新政権へのワクワク感やウキウキ感がほとんど感じられないのは何故なのだろうか。普通、政権が変わると、新しいことが起こりそうな期待感があるはずなのだが、菅政権は極めて地味な滑り出しの印象しかない。
安倍政権の下で同期間にわたり官房長官を務め、菅新首相自身も“安倍路線”の継続を強調しているから、すっかり“安倍色”に染まってしまっているということなのか。
菅氏は派閥に属していないし、世襲議員でもないが、自民党の7割超の票を集め圧勝した。結果だけをみれば、誰に遠慮することもなく、菅政権の新機軸を打ち出してもらいたい、と思った国民が多かったのではなかろうか。しかし、第一声を聞いた印象は、安倍首相や各派閥に遠慮し、極めて無難でむしろシャイともとれるような語り口だった。
各派閥が雪崩を打って菅氏の支持にまわったのは、各派閥は数をそろえていたものの、自ら打って出て国政を担うという知恵も胆力もなかったからだろう。そんな派閥状況をみた老練な二階幹事長が「安倍一強」を継ぐ候補として菅氏に絞り、“勝ち馬”に仕立てあげた図式がみえてくる。旧い体質の自民党そのものだ。菅氏はそんな旧体質に乗って圧勝したように思えるが、政治経歴を振り返るとチャレンジを続けてきたところにこそ真骨頂があったのではないか。
98年の総裁選では、当選一回生だったが小渕派を飛び出し、師と仰ぐ梶山静六氏を支持した。梶山氏は敗れたが「これからは派閥の時代ではない。同じ考えと志を持つ同志が結集して政治を動かす時代になる」との遺訓を残し、その言葉が菅氏の政治行動の軸になったといわれる。
実際、2006年の総裁選では“脱派閥”を掲げて「再チャレンジ支援議員連盟」を立ち上げ、安倍首相勝利の原動力となったし、政権奪還を賭けた12年の総選挙でも安倍首相復帰の縁の下の役割を果たしている。今回は二階戦術にあえて乗ったとみられるが必ずしも菅氏の本意の勝ち方ではなかったのではなかろうか。
今後の課題は、安倍・二階の振り付けから離れてどんな菅・新機軸を打ち出すかどうかだ。当面は国民の関心と不安でもあるコロナ対策で、素早くPCR検査体制や新ワクチンを全国民に接種し、安心感をもたらすことだ。そして一年後の総裁選でそれこそ菅流自前の戦略で勝ち取ることを期待したい。
それにしても数十人の議員を抱える大派閥の何と情けないことか。それぞれが首相候補を立て争ってこそ自民党と日本の政治に活気が出て、議員も鍛えられたのではないか。
【財界 2020年10月21日号 第528回】
■参考情報
・菅首相、ベトナム首相と会談…「自由で開かれたインド太平洋」で連携確認へ
2020/10/19 読売新聞
菅首相は19日午前、ベトナム・ハノイの首相府でグエン・スアン・フック首相と会談した。東シナ海や南シナ海などで進出を強める中国を念頭に、「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現に向けた連携を確認する見通しだ。
菅首相にとっては就任後初の外遊で、外国首脳との対面での会談は初めて。
・菅内閣支持51.2% 携帯引き下げなど一定評価―時事世論調査
2020年10月16日 時事通信
時事通信が9~12日に実施した菅内閣発足後初めての10月の世論調査によると、内閣支持率は51.2%だった。不支持率は15.6%。単純比較はできないが、発足時支持率としては第2次安倍内閣発足時の54.0%を下回り、池田内閣以降で歴代7番目。最高は小泉内閣の72.8%。以下、細川内閣62.9%、鳩山内閣60.6%の順。
画像:首相官邸ホームページ