時代を読む

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どちらにころぶ中国?

 中国の周永康・元常務委員が4月に入って起訴された。収賄、職権乱用、国家機密漏えい罪などの疑いで、政治局常務委員(旧トップ9)が起訴されるのは建国以来初めてのことだ。周は国営石油会社の実質的トップ、公安大臣などの権力を握っていた人物だけに驚きだ。すでに江沢民元主席を後ろ楯にもち周と結託していた薄熙来・元重慶市書記(トップ)や人民解放軍トップの徐才厚大将、政治局の人事を支配する令計画元党中央弁公庁主任(官房長官)、劉志軍元鉄道相など政権トップクラスも無期懲役などの刑が確定。これらのトップを支えていた幹部、中堅クラスも捕まり、その数は500~600人以上ともいわれる。
 今は胡錦濤前主席の側近といわれ、周や薄は江沢民派とされていた。こうした権力闘争は党中央幹部だけでなく、系列下にある地方幹部の汚職・腐敗、権力乱用に対する拘束にまで及んでいるし、その妻、子供も巻き込まれている。いまや中国のトップの間ではすさまじい権力闘争が展開中なのだ。この闘争を進めているのは、いうまでもなく習近平主席である。このため逆に習近平主席の身辺、命まで狙う動きさえあるようだ。
 権力闘争とは別に、社会の不安定化も深まっている。汚職・腐敗摘発に対する国民の受けは良いのだが、食い止められない環境の悪化、食物への不安、貧困層の増大などには不満が渦巻いているし、人権や自由抑圧への反発も根強い。チベットウイグル族など少数民族への抑圧も強く、最近は中国からイスラム国へ参加する人数もふえているという。
 しかし、一方で中国の国際社会における存在感はますます強まっている。東シナ海における海洋権益拡張の動きは一向に止まらないし、中国の世界経済戦略も一段とハデになってきた。
 その典型はアジアインフラ投資銀行創設の提案で、すでに英、仏、独など欧州先進国やアジア諸国など約50カ国が参加を表明している。世界から資金を集め、今後新興国などが求めているインフラ投資の主導権を握ろうとしているわけだ。中国の出資比率は40~50%といわれ、投資基準も明らかにされていないだけに、不透明極まりない。
 さらに物流、海洋でも〝一路一帯〟を掲げ、欧州から中国までの陸路とアフリカ・中東から中国に至る海洋航路、いわゆる〝二つのシルクロード〟の創設に邁進している。またインドシナ半島の鉄道網を援助し、中国との物流経路に着々と道筋をつけているのだ。
 こうしてみると、内政面では汚職・腐敗追及で人気をあげているものの、激しい権力闘争や社会不安を抱え、経済も安定成長へと軌道修正を迫られ緊張をはらんでいることがうかがえる。他方、外交では外貨にモノを言わせ経済戦略を行動に移し、日米などを孤立化に追い込んでいる。はたして習近平政権はこれらをどう案配してゆくのか。中国もそろそろ高齢化社会に入る。イスラム国とは距離をおいている。中国の前途もこの10~20年が勝負所だろう。

【財界 春季特大号2015 398号】

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