Win・Winは本当か
「“Win・Win”の結果になったと思う」
アメリカなどとの貿易や政治交渉が終わると安倍首相、担当閣僚は最近必ず結果について“Win・Win”という言葉で総括する。日本も相手国も利益を得てメデタシ、メデタシの結末交渉になったと言うのだ。ただ、Win・Winの細かい内容についてはあまり説明がなく大雑把な評価だけを結論づけて言う場合が多い。
しかし交渉結果を細かく検討してみると、必ずしもWin・Winにはなっておらず、特に対米交渉の場合はアメリカが一方的に得をしていることが多いことに気づく。
最近の例で見ると9月25日にまとまった貿易交渉だ。今回の交渉で最大の焦点となったのは、アメリカ産牛肉や豚肉への関税だった。牛肉は日本の関税を38・5%から段階的に9%まで引き下げるほか豚肉や小麦、ワインなどもTPP(環太平洋経済連携協定)加盟国と同じ税率を適用することになった。アメリカはTPPを脱退したが、アメリカに有利な内容はTPPと同じ税率を要求しているわけだ。また、アメリカで余剰が出そうなトウモロコシを買ってほしいと持ちかけ、日本は275万トンを追加購入すると約束した。
一方でアメリカがかつてTPPで約束した自動車、同部品の関税撤廃は見送られ継続協議になった。アメリカは現在中国と貿易戦争の真っ最中だが、この間に日本車の輸入が急増すると安全保障上の脅威になるとみなし通商拡大法232条を適用し、日本車に最大25%の追加関税をかけて日本車の輸出攻勢を回避しようとしたとみられている。またアメリカが離脱したTPP協定では、アメリカが自動車や部品の関税を撤廃することが盛り込まれていたが、今回それに応じず、「更なる交渉による関税撤廃」との文章を入れることで実質的に先送りとなってしまった。この他にもアメリカ向け乳製品の低関税枠は設けないなど、自らは脱退しておきながらTPPの合意のうち日本の約束分は実現を迫られる部分が多かったのである。それでも今回の合意に不満だったアメリカ産業界からはサービスや知的財産などの包括的協定も必要、などといった要求が出ており、大統領選が近づくとまたトランプ氏から強引な要求が出てきそうだと警戒する日本企業が多い。
今回の日米貿易交渉は、大統領選挙を控え、アメリカ第一主義を唱えるトランプ氏の主張に押しまくられたというのが大方の見方だろう。果たして日本はどこでWinだったのか、国民にもっと詳細に説明すべきだろう。安倍・トランプの関係の良さで日本は大いに助かっているというのはどこまで本当なのだろうか。
【財界 2019年11月19日号 第507回】
補足情報:日米貿易協定と日米デジタル貿易協定の承認案が15日の衆院外務委員会で可決された。19日に衆院を通過し20日の参院本会議で審議入りする見通し。来年1月1日の協定発効に向け、政府・与党は12月9日の国会会期末までの承認を目指す。