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昨日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~世界的に多大な影響を及ぼすEU離脱の是非を問う国民投票~

スタッフです。
昨日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

テーマ:経済だけではない、イギリスのEU離脱問題

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【イギリス世論は拮抗】
いよいよ今週イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票が明後日にせまってきた。両方とも拮抗しているので予測がつきにくい状況。

EU残留支持をしていた女性の下院議員が殺害され、この事件後残留支持が若干増加。イギリスの大衆紙「メール・オン・サンデー」の調査によると、殺害事件前、離脱派45%、残留派42%と離脱派が優勢だったが、殺害事件後は離脱派42%、残留派45%と形勢が逆転した。

メディアにおいてもローリング・ストーンズのボーカル、ミック・ジャガー氏、ボリス・ジョンソンロンドン市長離脱派、俳優のベネディクト・カンバーバッチ氏、科学者のスティーブン・ホーキング博士、サディク・カーン現ロンドン市長残留派とイギリス中が湧きに湧いている。


【歴史的な要素から考えると・・・】
離脱により相当経済的な影響は大きいという指摘もあるが、経済的な指摘のみならず歴史的にみてもさまざまな要素があることを見ておく必要があると思われる。ヨーロッパは戦争の歴史ということもある。これでEUがバラバラになると戦争の歴史を繰り返すといったようなことも言われ始めている。

もともとのEUの成り立ちはベネルクス3国の関税同盟が一番初めであったが、実際には1952年に設立された欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC / European Coal and Steel Community)がEU誕生のきっかけである。戦争のきっかけは資源の獲得競争であり、石炭と鉄鋼を共同体をつくることによってドイツ、フランスなど6カ国が共同管理する仕組みを始めた。

そして、1967年に原子力分野の協力組織を作り、石炭・鉄鋼・原子力分野の3つの共同体となったのが、EUの前身として発足した欧州共同体(EC / European Community)。結局、過去の資源獲得競争が戦争に結びつくという苦い経験もあるので、それを共同体で運営しようということであった。基本的には経済の協調で、戦争反対、平和をきちんとしていこうというヨーロッパの大きな理念の下で動き出した。


ジョン・ブル精神の表れ】
イギリスは当初から一線を画し、アメリカやイギリス連邦諸国を重視し、ドイツとフランスが主導のEUを嫌っていた。ECへイギリスが加盟したのは73年。60~70年代にイギリスは景気が低迷し「イギリス病」「ヨーロッパの病人」などと揶揄され、やむなくECへ加盟したという経緯がある。元々前向きでの加盟ということではなく、嫌々加盟したという感じだ。EUへ加盟すると援助を行なわなくてはならず、援助の先は東欧が中心となりイギリスからすると「なぜあんなに遠方の国におカネをつかわなくてはならないのか?」というところも不満であったように思う。

イギリスはEUへ加盟しているがユーロには参加しておらず、誇りが非常に高いということがあるのだろう。常にイギリスは政治的統合に対しては、微妙な距離を保ち自分の主権が弱まるようなことはやりたくないという感じである。イギリスは大航海時代以降世界を主導してきたという「栄光の歴史と誇り」を持っており、それを新参のドイツやフランスに主権を取られたくないというのがイギリスの基本的な考えだろう。


【深刻な職問題も絡み合う】
もう一つの特徴としては、イギリスは「シェンゲン協定」に参加していない。これはEU加盟国間同士で人の移動が自由にできるというもので、EU域内は自由に移動ができる。イギリスは「国境管理は非常に重要」として参加していない。これも主権の意識している表れといえる。しかしながら、EUに加盟している国では自由な往来が可能なので、これも建て前となって形骸化している。

その結果、イギリスにさまざまな人々が入り込みEU諸国からイギリスへの移民は270万人で、人口の4.3%を占めている。またその就業率は78.8%(国際労働財団サイト掲載、イギリス労働組合会議(TUC)グリン トラヴィス(Mr. Glyn Travis)刑務官労働組合 副事務局長調べ。)であり、イギリス人の職が奪われているという表れである。これはシェンゲン協定が崩れ、イギリスの就職問題とも直結しているといえる。そういう意味でも離脱・残留双方のメリットにより、意見が真っ二つに別れてしまうのはわからないでもない。まさにその問題が非常に大きいのだろうと思う。


【末路は、EU各国がバラバラに!?】
経済面でいうと対EU貿易比率は輸出47.4%。輸入52.8%(JETRO)と経済面から考えると明らかに離脱すると困難な状況に陥るように思う。そういう意味でもイギリスが経済のみならず、イギリス離脱によるEUの戦争を撲滅するという理念もバラバラになってしまうということが問題になってきている。

現実にイギリスでの離脱是非の国民投票実施は、周辺各国に影響を及ぼし始めている。イタリアローマでは初の女性市長が誕生したが、この人は「五つ星運動」の候補である。スペインでも昨年行なわれた総選挙で左派の新党(ポデモス)が「わたしたちでもできる」というキャッチフレーズを掲げ第三党に躍り出た。さらに、オーストリアでは反移民や自国第一主義を掲げる右翼の自由党候補者が、大統領の座にあと一歩と迫っている。

この自国第一主義は「イギリス・ファースト」と非常に似ており、フランスでもイギリス同様にジャンマリ・ルペン氏の娘であるマリーヌ・ルペン氏(極右政党「国民戦線」)が来年の大統領選の決戦投票に進む勢いも出てきた。ドイツも来年秋に総選挙があるがEUを引っ張るメルケル首相の支持に陰りが見える。そして新興政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」の勢力が徐々に拡大してきている。

 

【日本にも多大な影響が】
このように、今、EU各国でEU離脱論が噴出している状況である。イギリスがEUを離脱するとEU全体がバラバラになり、二度と戦争をしないという理念の下作られたEUが崩壊し、元の不安定な時代に逆戻りしてしまうという政治的な心配が出てきている。これは、大きな問題でもある。

これらの影響は日本にも非常に大きい。イギリスには日本の企業が1000社以上進出しているともいわれる。これから先、イギリスがEUを離脱した場合、金融の中心でもあるイギリスに進出している金融機関が撤退し、世界的に困難な状況となるという問題が出てくる。こういったことからも、日本は残留して欲しいという気持ちが大きい。全体として残留したほうがイギリスにとっても、世界にとっても得だと思う。当初、そこに落ち着くと思われていたが、実際蓋を開けてみないとわからないという状況。EU離脱の是非を問う国民投票は23日に迫っている。

※画像はFlicker(DAVID HOLT / London June 7 2016 021 ITV EU Referendum Debate Cameron v Farage)