時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

日本企業も5Gへ加速

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 次世代の高速通信規格「5G」に本格的な取組みを始める企業が増えてきた。通信機器メーカーをはじめ交通、建設機器・建築、自動車、医療関連などの分野が先行し、日本にも“5Gビジネス時代”が到来しつつある。

 通信の世界は長く続いた人と人が通話する電話線による“黒電話”の時代から1980年代になると自動車電話やショルダーフォンなどの通信キャリアを主役とする1G(第一世代)が登場する。90年代に入るとメールやネット接続ができる2G(第二世代)となり、やがて2000年代には写真や音楽が手軽に利用できる3G時代を迎えアップル、サムスンなどの端末メーカーが台頭してきた。

 さらに2010年アップルのスマホが普及し動画配信、SNSによる交流が広がった。この結果、日本企業の端末は競争から撤退を余儀なくされる。現在の4G時代はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などアメリカIT(情報技術)大手と中国のBATH(百度バイドゥ、アリババ集団、テンセント、華為技術=ファーウェイ)がプラットフォーマーとしてシノギを削っている。

 4G時代の後にひたひたと迫っているのが次世代の5Gによる無線通信規格なのだ。この5Gの通信インフラは4G時代とは全く様相を異にする。これまでの道路、鉄道が高速道路、新幹線に変わった以上に変化の違いをもたらすとされる。現行の4Gに比べ一定時間に100倍のデータ量を送れる「高速・大容量」を基本ベースとしており、その関連技術の発展によって生活を一変させる可能性があるからだ。

 例えば通信速度は現在の携帯電話規格「4G」の100倍で通信の遅れはわずか千分の一秒、さらに多くの機器を同時に接続することもできる。その数は一平方km当たり100万台という。

 このため、5Gが実現するとスマートフォンに2時間の映画を3秒でダウンロードできるようになるほか、超高精細画像を離れた場所に瞬時に送ることもできる。この技術が日常的に使用できれば、救急車から搬送中の患者の症状を病院に伝えられるし、離れた場所の手術を専門医が指示し、遠隔医療にも応用できる。

 産業分野では自動車や建設機械に活用すれば、ほぼリアルタイムでハンドルやブレーキの遠隔操作が可能となる。遠隔地から高精細のカメラで撮った画像を見ながら、通信の遅れがないため無人で機械や自動車を運転、操作することも出来るわけだ。この他、将来は鉄道や警備、メディア、通信機器などにも応用できるとみて、それぞれの業界で研究中なのだ。特に地方では過疎化が進み、人手不足になって公共交通機関の維持が難しい所では、バスのルート沿いに基地局を設置してゆけば5Gによる自動運転の運行も夢ではない。

 5Gの技術開発をめぐって世界の競争も激しくなっている。アメリカや北欧が一歩リードしているが、中国が猛追しており、ハイテク分野の主導権争いにまで発展してきた。アメリカは5Gの導入は機密情報の流出につながったり、サイバー攻撃を行なう安全保障に関係してくるので中国のファーウェイ製品を採用しないよう同盟国に求めている。5Gの登場は生活、産業の大変革に及ぶだけでなく、安全保障の覇権争いにまで広がっているのだ。
【電気新聞 2019年11月18日】

画像:写真AC(RRiceさん) 

なんで「ウズベキスタンなの?」

サマルカンドのバザールで売られていたスイカやメロン

サマルカンドのバザールで売られていたスイカやメロン

スタッフからのお知らせです。既報の通り、嶌が会長を務める日本ウズベキスタン協会主催の20周年記念旅行が開催され、9月6日から13日までウズベキスタンに行ってきました。参加された方より続々と感想が寄せられています。今回の旅行の写真とともに紹介します。

今回は、会員の齋藤 郷士さんからの寄稿文を紹介します。齋藤さんは、これまで日本ウズベキスタン協会の活動に熱心に参加下さっており、中でも嶌の「出前講座」には欠かさず出席下さっています。いつも素敵な笑顔で、穏やかなお人柄です。今回、奥様の瓊子さんと高校時代のご友人の池田さんと片岡さんをお誘い下さり、参加いただきました。

以下、齋藤 郷士さんの文章をご紹介します。

齋藤 郷士さん

齋藤 郷士さん

友人に誘われ協会に入り十数年、2度ほど旅行のチャンスはあったものの、仕事の都合などで、機会を逃してきてしまいました。今回は「20周年記念旅行」、この期を逃したら・・・と考え、思いきって妻を誘い、参加を決めました。

誘ってみたら開口一番、海外旅行といえばフランス・イタリア・・・にも行った事が無いのに「なんでウズベキスタンなの?」確かに妻の言う通り。そこで、これまでの経緯を説明したものの、いぶかしがる妻といざウズベキスタンへ!

ナボイ劇場天井の壮麗な彫刻

ナボイ劇場天井の壮麗な彫刻

日本人墓地、日本人抑留者資料館、嶌会長がウズベキスタン協会設立のきっかけになったナヴォイ劇場。ヒヴァ、サマルカンド世界遺産、バザール等々全て感動・感激の連続でした。

日本人墓地にて

日本人墓地にて

かつて北海道の広さがあったというアラル海が大規模灌漑農業で湖面が1/4に。現地で旧アラル海の船の墓場を目の当たりにして愕然とし、少しでも元の姿に戻るように願いました。

もう一つ印象に残ったのは、日本センターでの交流です。日本に来た事の無い、学生さん達が流暢に日本語を話すのに驚きました。聞けば皆さんが日本に憧れて、是非来日したいと異口同音。もっと聞きたい、話したい気持ちのままタイムアップが少し心残りでした。

ヌクス空港到着時の楽団と美女による塩とナンの歓待

ヌクス空港到着時の楽団と美女による塩とナンの歓待

他のツアーではまず経験出来ない、様々なVIP待遇と観光と歓迎。車内での先生方のお話、ドストンさんの結婚話も楽しく聞かせていただきました。

ウルゲンチ副市長から民族衣装を贈呈される嶌、現地ガイドのドストンさん(右)と

ウルゲンチ副市長から民族衣装を贈呈される嶌、現地ガイドのドストンさん(右)と

また、車窓から見る牧歌的な風景と対象的に建築中の建物が並ぶ光景は、これからのウズベキスタンの繁栄を匂わせているかのようでした。素晴らしい方々とご一緒出来た8日間があっという間に過ぎました。とても楽しく印象に残る記念旅行でした。

バスの車窓から見えたウズベキスタンの牧歌的な風景

バスの車窓から見えたウズベキスタンの牧歌的な風景

帰国後の妻の一言「ウズベキスタンで本当に良かった!」

真夏五輪「暑さ指数」最悪に

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ラソンはオリンピックの花だ。オリンピックの最終日、42.195kmを走り抜いたマラソン選手がゴールの新国立競技場に姿を見せると、観衆は総立ちになって拍手で選手を迎える。特に日本人はマラソンに強く、思い入れが深い。過去にいくつも名勝負があり、忘れ難い選手達も多いからだ。

そのオリンピックを巡って、今回は最後までゴタゴタが続いている。11月に入って20年の東京オリンピックのコースが突然東京から札幌に変わった。東京のコースは新国立競技場をスタートし皇居、東京タワー、銀座、歌舞伎座前、浅草などの名所をまわって再び新国立競技場に戻るという情緒のある道のりだった。それが真夏のオリンピック(20年7月24日~8月9日までの17日間)となると、暑すぎて熱中症などで倒れる選手が出たり、沿道の観客も見物には酷だという声が強まったからだ。

その結果、IOC国際オリンピック委員会)と東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(会長・森喜朗元首相)とJOC日本オリンピック委員会)が「東京はダメ、東京より温度が低い札幌の方が適当」と方針を変えたのである。

むろん主催地である東京(小池百合子都知事)は猛反対した。オリンピックの目玉であるマラソンを別の都市で開くとなるとマラソンのコースの沿道になるはずだった東京の街や商店街は、いきなり目玉イベントを持ち去られることになるためだ。その結果、IOC組織委員会JOC、東京都で調整委員会を開くことになったものの、「調整委員会が決定できない場合はIOCが最終判断を下す」という原則があった。

東京都は暑さ対策として午前5時スタート、日陰の多いコースを選ぶ。走行中にミスト(霧)を多用する。道路の熱を下げる遮熱舗装を行なう――など300億円以上の費用をかけた提案をしたが、IOCの通告に近い形で一蹴されてしまった。結局、小池知事は「あまりにも唐突で、不誠実。あえて申し上げるなら、これは合意なき決定だ」と開催都市を見下しているようだと不満をもらした。特にIOCが最終判断してからすぐに東京都に伝えず、3-4日の間があり、発表前日になって東京都に伝達したことに憤りを感じたようだ。

地球の温暖化の進行で日本の夏はどんどん猛暑化している。例えば今年の7月23日の熊谷市の気温は41.1度で23日までに亡くなった人は少なくとも30都道府県で94人、救急搬送者は16日~22日の1週間で2万2647人に上っていた。そもそも夏のオリンピックは無理だったのだ。

また、環境省は五輪期間中の新国立競技場の熱中症は2019年の場合、「熱中症最悪25日超」と公表。同期間中の熱中症を示す国際指標の「暑さ指数」で最も高い危険性がある「暑さ指数31」に達した日が新国立競技場など4ヵ所で25日以上あったという。また日本体育協会では「指数25-28」を「警戒」、「28-31」を「厳重警戒」、「31以上」は「運動の原則中止」と定めているのだ。なぜそんなことをわかりながら真夏の五輪を選んだのか、五輪関係者の見識が疑われても仕方があるまい。

結局は、最も気候の良い秋はアメリカや欧州のテレビ局が自国開催のスポーツ「大リーグ、サッカーなど」のため放送枠を買い占めており、オリンピックが入る余地はなかったらしい。要するにカネに負けたのだ。

ちなみに私は東京オリンピックが決定した2014年秋から「なぜ真夏の五輪か」と題して何度も雑誌、新聞などにコラムを書き続け、疑問を呈してきた。以下はそのコラムのタイトルである。

・なぜ真夏の五輪か? (2014年10月)
・~真夏の東京五輪を変えよう~ (2014年11月)
東京五輪後の日本の進路 どんな国をめざすのか (2015年02月)
・寒々しい五輪風景 (2015年08月)
・アスリート・ファーストのいかがわしさ (2015年09月)
・地に落ちた東京五輪評判 (2015年10月)
・真夏の東京五輪、見直すべき (2018年02月)
・五輪の日程変更を! (2018年08月)
・本当に「真夏のオリンピック」でいいのか ―リタイア選手続出とならなければいいが・・・― (2019年04月)

以上の論評は以下のブログ及びブログ内のリンクより読めます。

【2019年11月20日 Japan In-depth】

画像:Wikimedia commons(新国立競技場) 

 

昨日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:皇室御用達 老舗美容室 美容師・与儀みどり氏 一夜目 音源掲載

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昨日のTBSラジオ 『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30~)は 与儀美容室 二代目 与儀みどり氏をお迎しました。

皇室の女性たちのヘアメイクを70年あまり手がけてこられた与儀美容室。美容のプロ「美の職人」になるために今日まで努力されてこられたことや、徹底した「美」への取り組みと「気品」を重んじる教育などにつきお伺いしました。

今回、即位の礼のお忙しい中、ちょうどお時間が空いた時にお越しいただきました。収録時に三代目で現社長を務める育子氏もお越しいただいた記念のお写真です。

次回も引き続き与儀みどり氏をお迎えし、天皇皇后両陛下のご成婚の際、雅子さまの着付けやヘアメイクを担当されたときの思い出や、ノーベル賞の晩さん会で、山中伸弥京都大学教授の奥さま方の着物の着付にストックホルムまで駆けつけたときのエピソード などを伺う予定です。

育子氏が上梓された与儀美容室の仕事の流儀をまとめられた本を合わせてご紹介いたします。ご興味をお持ちの方は合わせて参照下さい。

日曜(24日) TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:皇室御用達 老舗美容室 美容師・与儀みどり氏 一夜目

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日曜(24日)のTBSラジオ 『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30~)は 与儀美容室 二代目 与儀みどり氏をお迎えする予定です。

皇室の女性たちのヘアメイクを70年あまり手がけてこられた与儀美容室。美容のプロ「美の職人」になるために今日まで努力されてこられたことや、徹底した「美」への取り組みと「気品」を重んじる教育などにつきお伺いする予定です。

今回、即位の礼のお忙しい中、ちょうどお時間が空いた時にお越しいただきました。収録時に三代目で現社長を務める育子様もお越しいただいた記念のお写真です。

育子様が上梓された与儀美容室の仕事の流儀をまとめられた本を合わせてご紹介いたします。ご興味をお持ちの方は合わせて参照下さい。

念願のウズベキスタン・タシケントの『日本人抑留者資料館』

タシケント市『日本人抑留者資料館』にてスルタノフ氏の説明を熱心に耳を傾ける一行

タシケント市『日本人抑留者資料館』にてスルタノフ氏の説明を熱心に耳を傾ける一行

スタッフからのお知らせです。既報の通り、嶌が会長を務める日本ウズベキスタン協会主催の20周年記念旅行が開催され、9月6日から13日までウズベキスタンに行ってきました。参加された方より続々と感想が寄せられています。今回の旅行の写真とともに紹介します。

今回は、栗原 喜紀さんからの寄稿文を紹介します。栗原さんは、お父様がタシケントに抑留されており、前回ウズベキスタンに来た時に詳しいことがわからなかったため、今回『日本人抑留者資料館』でお父様の足跡が少しでも把握できればと参加くださいました。

旅行が好きで様々なところを訪問され、これまで訪れた国の中で一番良かったのはエジプトと教えて頂き、非常にうらやましく思いました。

以下、栗原 喜紀さんの文章をご紹介します。

栗原 喜紀さん

栗原 喜紀さん

私の父は、タシケントに抑留をされていたため、時々協会のホームページを見させていただいて今回の旅行を知り、参加させていただきました。

父は奉天電信54連隊で停戦、20年11月にタシケント第二収容所着、23年7月舞鶴に引揚げました。

念願であった日本人抑留者資料館では館長から展示品の第二収容所の電線工場の写真と関連書類を教えてもらいました。残念ながら詳しい場所は持参した地図の範囲外でわかりませんでした。母は父から建造物の仕事をしていたと聞いていました。タシケントの建造物といえば、ナボイ劇場しか知らなかったので、父も従事をしたとおぼろげに思っていました。嶌信彦氏の著書で第四収容所が担当とあったのと、舞鶴引揚記念館のウズベキスタン抑留展などで抑留者が建造した多くの建物があることを知りました。いつか確認したいと思います。

『日本人抑留者資料館』正面入口にて

『日本人抑留者資料館』正面入口にて

しかしながら、個人での情報収集は限界があります。日本ではどこの博物館でもホームページがありますが、抑留資料館のホームページが未だないのは非常に残念です。ぜひ、何らかの方法でホームページの立ち上げを希望します。

5年前の訪問時には、ナボイ劇場は工事中で塀に囲まれ全体の美しさが見られず、レギスタン広場の中庭も工事中で入れなかったのですが、今回は、劇場の中まで入れ、広場ではプロジェクションマッピングを満喫できてヒヴァにも行けて満足できました。

『ナボイ劇場』内部

『ナボイ劇場』内部

アラル海が干上がっている惨状は今回、初めて知りましたが、一般的にあまり周知されてないのではないでしょうか。自然は簡単に破壊されてしまい、環境問題を引き起こすものと実感できました。

アラル海の変遷や歴史が把握できる博物館

アラル海の変遷や歴史が把握できる博物館

ウズベキスタンの経済発展は、タシケントの美しい街でありながら整備がされており、実感しました。しかしながら在留日本人がわずか120名ということで、貢献すべきことはもっとあるのではないでしょうか。商社の駐在員が、フェラガナ地方はインフラがないので商売にならないと言っていましたが、最前線でこのような意見をもっているのでは多くの日本語を学んでいるウズベキスタンの青年の期待に応えられるか心配です。また、ノリコ学校に中国企業から出資の提案があるということですが、借金漬けと一帯一路に飲み込まれる危惧を感じました。

20周年記念パーティにてNORIKO(のりこ)学級のガニシエル校長(右から二番目)と

20周年記念パーティにてNORIKO(のりこ)学級のガニシエル校長(右から二番目)と

参加されたみなさまの知的レベルが高くご高齢でありながら第一線で活躍されており、旅行の楽しみだけでなくいろいろと勉強になり、参加させていただきありがとうございました。

Win・Winは本当か

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「“Win・Win”の結果になったと思う」

 アメリカなどとの貿易や政治交渉が終わると安倍首相、担当閣僚は最近必ず結果について“Win・Win”という言葉で総括する。日本も相手国も利益を得てメデタシ、メデタシの結末交渉になったと言うのだ。ただ、Win・Winの細かい内容についてはあまり説明がなく大雑把な評価だけを結論づけて言う場合が多い。

 しかし交渉結果を細かく検討してみると、必ずしもWin・Winにはなっておらず、特に対米交渉の場合はアメリカが一方的に得をしていることが多いことに気づく。

 最近の例で見ると9月25日にまとまった貿易交渉だ。今回の交渉で最大の焦点となったのは、アメリカ産牛肉や豚肉への関税だった。牛肉は日本の関税を38・5%から段階的に9%まで引き下げるほか豚肉や小麦、ワインなどもTPP(環太平洋経済連携協定)加盟国と同じ税率を適用することになった。アメリカはTPPを脱退したが、アメリカに有利な内容はTPPと同じ税率を要求しているわけだ。また、アメリカで余剰が出そうなトウモロコシを買ってほしいと持ちかけ、日本は275万トンを追加購入すると約束した。

 一方でアメリカがかつてTPPで約束した自動車、同部品の関税撤廃は見送られ継続協議になった。アメリカは現在中国と貿易戦争の真っ最中だが、この間に日本車の輸入が急増すると安全保障上の脅威になるとみなし通商拡大法232条を適用し、日本車に最大25%の追加関税をかけて日本車の輸出攻勢を回避しようとしたとみられている。またアメリカが離脱したTPP協定では、アメリカが自動車や部品の関税を撤廃することが盛り込まれていたが、今回それに応じず、「更なる交渉による関税撤廃」との文章を入れることで実質的に先送りとなってしまった。この他にもアメリカ向け乳製品の低関税枠は設けないなど、自らは脱退しておきながらTPPの合意のうち日本の約束分は実現を迫られる部分が多かったのである。それでも今回の合意に不満だったアメリカ産業界からはサービスや知的財産などの包括的協定も必要、などといった要求が出ており、大統領選が近づくとまたトランプ氏から強引な要求が出てきそうだと警戒する日本企業が多い。

 今回の日米貿易交渉は、大統領選挙を控え、アメリカ第一主義を唱えるトランプ氏の主張に押しまくられたというのが大方の見方だろう。果たして日本はどこでWinだったのか、国民にもっと詳細に説明すべきだろう。安倍・トランプの関係の良さで日本は大いに助かっているというのはどこまで本当なのだろうか。
【財界 2019年11月19日号 第507回】

補足情報:日米貿易協定と日米デジタル貿易協定の承認案が15日の衆院外務委員会で可決された。19日に衆院を通過し20日参院本会議で審議入りする見通し。来年1月1日の協定発効に向け、政府・与党は12月9日の国会会期末までの承認を目指す。

 

画像:Wikimedia commons (ドナルドトランプ夫妻と安倍首相 2019年5月28日 横須賀基地にて)

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