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遅すぎた緊急事態宣言 事態を甘く見過ぎた?

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 緊急事態宣言の発令をめぐり、安倍首相や官邸のモタモタが目立った。欧米の宣言はロックダウン(都市封鎖)を意味し、生活の維持に必要な場合を除き自宅から外出しないという厳しい措置である。住民を住んでいる地域に閉じ込め、よほどの緊急要件が認められない限り都市の出入りは禁止するという一種の封じ込めなのだ。

 ところが日本の場合は、あくまでも市民や業者への“自粛要請”なのである。このため指示や命令ではないので、もし自粛を破っても罰則などはない。政権と密接な行儀のよい大企業やIT化の進んでいる地方の有力企業などは“自粛”協力するところが多い。大企業では「社員は出社に及ばず」と言い、自宅でテレワークやテレビ会議をするように準備したところも少なくなかった。IT時代になっていたからこそ、こうした対応が企業と社員の間でできたのだ。しかし、中小、零細企業はすぐに対応できるものではないし、町工場は現場でモノづくりをすることが命だったからテレビ会議といったシャレた対応ができるところは限られている。

 これまで、緊急事態宣言を発令した場合、公共交通機関の間引き運転はしても全面停止にはしない、零細企業には支援金を融資する、一家族または家族2人に現金給付を行なう、生活必需品の買い物や医療機関は通常通り利用できるようにする──といった案がさまざま取り沙汰されていたが、その具体策はさっぱり明らかにならなかった。

 小池都知事地方自治体の首長、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の委員、中小・零細企業者らは「早く具体的な規準を作り、詰めの作業を行なうべきだ」と口々に要請したが、安倍内閣は「まだその時期ではない」となかなか動かなかった。しかし安倍内閣が動き出さない間に、感染者は日毎に増大し、感染ルートの解明は半分も進まず国民に不安を与え続けた。見かねたのか、小池都知事が3月20日からの3連休の前に「不要不急の外出を控えて欲しい。そうでないと欧米のようにパンデミック(広範囲にわたる流行)が発生する」と緊急記者会見を開いたことから三連休中の外出者は激減し、国民の間に危機感が高まったのである。現に東京都は4月2日から100人近く及び100人以上の感染者が発生。4月6日現在、全国規模で4092人、死者は108人(クルーズ船除く)まで増え、医療機関も疲弊し医療崩壊の危険が叫ばれるようになった。

 当初は、65歳以上の年配者が抵抗力が弱く危険といわれたが、今や乳児から若者に至るまで感染し、ようやく全国民が危機感を共有するようになってきた。危機感が薄かったのは欧米に比べ感染者が少なかったことと、安倍内閣が緊急事態宣言をなかなか出さなかったためだろう。日本の緊急事態宣言には、元々厳しい規範や罰則がないのだから、宣言を出すことによって国民に危機感をもってもらうことのほうが重要だったのではないか。また世界的なパンデミックになると日本も巻き込まれてしまうので、国民に具体的な注意事項を徹底的に周知して罰則の検討なども準備した方がよかったように思う。安倍首相をはじめとする閣僚や官邸官僚たちが事態の推移を甘くみて対策に遅れをとった罪は大きいと思う。過去に何千万人も巻き込まれたり、亡くなった人がいる感染症の恐ろしさの歴史をもっと深刻に知らせるべきだっただろう。

【参考資料】
過去のパンデミックを可視化した統計「VISUAL CAPITALIST」の調査によると次のようになっている。(死者数順と年代)
 1位 ペスト・黒死病(1347~1351年) 2億人
 2位 天然痘(1520年) 5600万人
 3位 スペイン風邪(1918~1919年) 4000~5000万人
 4位 ペスト(東ローマ帝国での流行・541~542年) 3000~5000万人 
 5位 エイズ(1981年~現在) 2500~3500万人
 6位 ペスト(19世紀の中国とインドで流行・1855年) 1200万人
 7位 ペスト(ローマ帝国・165~180年) 500万人
 8位 ペスト(17世紀の大疫病・1600年) 300万人、
 9位 アジア風邪(1957~1958年) 110万人
 10位 ロシア風邪(1899~1890年)、香港風邪(1968~1970年)、コレラ(世界的大流行・1817~1923年)、日本の天然痘(735~737年) いずれも約100万人

 (※)詳細は以下リンクを参照ください。(英文) 

画像:テレワーク・fujiwaraさんによる写真ACからの写真

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