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なぜいま経済とコロナの両立なのか ~経済再生担当大臣がコロナ対策を発信する不思議~

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 コロナ対策で政府の顔となってきた西村康稔・経済再生担当大臣が、「Go To トラベルキャンペーン」で立ち往生気味だ。経済活動再開の切り札として推進するつもりだったが、この1~2週間で感染者が急増し、医療関係者や地方の知事から「地方に感染を振り撒くことにならないか」と時期ややり方に再考を求める声が強まっているからだ。地方から一斉に政府の方針に批判が出るのは珍しいことだ。

 西村経済再生担当相(57)は、衆院当選6期で安倍首相の覚えもよく最近は次世代の総理候補とも目されている。特にコロナ問題で連日テレビに出て状況説明や対策を述べているため、一躍カオが売れコロナ問題に関する政府の主役といった様相だ。灘高、東大法学部、メリーランド大大学院、通産省と絵にかいたようなエリートコースを歩み、イケメンでダンディだから目立って当然の成り行きだった。

 ところが新型コロナウイルス感染が再拡大し始めている中で、コロナ対策と同時に経済活動も活性化させる方針を実施すると宣言しているため、地方への感染拡大につながるのではないかと懸念が上がってきたのだ。特に東京都内の新規感染者が9日から4日連続200人を超え、17日には293人となった。このため「なぜ今Go Toなのか」という声が高まっている。

■キャンペーンの思惑
 Go To トラベルキャンペーンを利用すると国内旅行代金の35%を国が補助するほか、9月以降は土産物店や交通機関などで使用できる15%のクーポン券を配布し使用回数の制限もない。都道府県をまたぐ移動自粛要請は6月19日に解除されており、事業開始を8月上旬から7月22日に前倒した。政府としてはコロナの影響で落ち込んだ経済を「Go To キャンペーン」でV字回復させたい思惑があるのだろう。

 こうした方針について小池百合子都知事は「現在の感染状況を考えると都民が都外に不要不急の外出をすることは控えて頂きたい」と述べ、政府に実施時期と方法について改めて再考して欲しいと注文をつけた。大阪府の吉村洋文知事も「今この状況で全国に広げて、いきなり全国から開始するということについては反対だ。感染症の状況をみながらエリアを広げていけばよい」と言い、吉村美栄子山形県知事、山口祥義佐賀県知事、宮下宗一郎・青森県むつ市長らも「この時期のスタートはいかがなものか」「各府県の状況が違う中で国が一律にやるのは無茶じゃないか」「リスクの高いところから人が来れば、今まで我慢してきたことが水泡に帰す。天災だといっていたことが人災だ。ということになってしまう」などと警告している。

 最近は年配者だけでなく子供や若者、中年層にも感染者が広がっている。また街の声を聞いても若い人までもが「今旅行に行く気分になれない。これだけコロナ感染者が増えてくると毎日が不安だ」「今は電車に乗る気分になれない。特に満員電車は怖い気がする」といった感想をもらしている。こうした声を聞いたのか、西村経済再生担当相は「専門家の意見を聞いて国土交通省に判断してもらう」とゲタを国交省に預けてしまった。これを受けて直ちに赤羽一嘉国交相は「Go To トラベルキャンペーンから東京を除外する」と決断し、東京都発着と東京在住者は補助の対象から除外することを発表した。真っ当な判断だと思うし、東京を除外したらGo To キャンペーンの意味や思惑は経済を活性化させるという西村経済再生担当相の意図とは違ったものになろう。

■経済再生担当相の「なぜ」
 私は以前から、なぜコロナ対策を経済再生担当相が担当し、毎日テレビに出てきて喋るのか、疑問に思っていた。コロナは世界中が不安に思っているウイルス問題なのだ。もし国民に向かって発信するなら厚生大臣か首相ではないのか。経済再生担当相が中心になって出てきているところに、国としてコロナ対策を軽視しているか、まともに取組もうとしていない姿勢が透けてみえてきてしまう。始めからコロナ対策より経済活動活性化に重きを置いていたということなのだろう。

 西村経済再生担当相も感染者が増えている中で、経済重視を発信する意図をきちんと国民に説明すべきだろう。現状に対する不安から業界団体の強い要望により政府は経済活性化に力を入れているが、多くの国民は当面の経済より命を重視しているのだ。
TSR情報 2020年7月22日】


【参考情報】
・上場企業「新型コロナウイルス影響」調査(東京商工リサーチ
  新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、業績を下方修正した上場企業が7月28日までに1,000社に達した。上場企業3,789社の26.3%で、4社に1社が新型コロナで業績を下方修正した。
 業績の下方修正分の合計は、売上高が7兆6,628億円、最終利益が4兆2,853億円に達した。
 また、下方修正した1,000社のうち、286社が赤字を計上した。
 詳細は以下URLをご確認下さい。 


画像:内閣府ホームページより

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