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五輪中止の決断を早めに 無観客では悪評残るだけ

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 今年夏の東京五輪パラリンピックは、勇断をもって中止にすべきではないか。すでに日本政府と東京都、大会組織委員会は、この3月20日国際オリンピック委員会IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)を交えた五者協議で海外からの一般観客の受入れ中止を正式に決めた。新型コロナウイルスの世界的拡大がいまなお続き、大規模に海外観客を受け入れれば大会の安全確保が難しいと判断したためだ。


 しかし、海外客を受け入れず、観客を国内に限定すれば安全な開催が可能とも思えない。コロナ感染拡大のリスクは減少できるが、“密”な状況を取り除けるわけではないとわかっているからだ。だから観客数の上限を検討中で、今のところ観客収容数を50%以内にする方向で調整していると聞く。ただ、どの程度リスクを減らせるか、といった議論を行なっているフシは全く聞こえてこない。


 結局、議論の根底にあるのは、チケット収入の減収やオリンピック期間前後の外国人観客数の減り具合の懸念なのだ。五輪組織委では国内外から制限なく観客を受け入れた場合、チケット収入を900億円と見込んでいたが、海外客が来なくなれば150億円規模の減収となり、何よりも気にしているのは、観光収入の落ち込みだ。過去の統計などからみるとインバウンド(訪日外国人)の消費額は少なく見積もっても1500億円程度は見込めるとしていたし、再び世界に日本の観光、文化、和食などを売り込み、日本ブームの再来を期待していた。五輪中止となり、経済効果も見込めなくなったら菅内閣の存在意義が問われることになろう。GoToキャンペーンに最後までこだわったのもコロナ対策より経済への悪影響を恐れたからだった。


 ただ国内観客に絞ったとしても、五輪・パラの参加選手は約1万5千人、大会関係者は数万人規模となる。だが選手や関係者にワクチン接種を義務付けておらず、厳格な検査で感染を抑制する対策なのだという。しかも現在、出場が確定したのは自転車、馬術、ホッケー、バレーボール、ソフトボールなどで1月末時点ではなお4割が未確定なのだ。選考の延期や中止が続いており、候補選手や五輪を盛り上げる国内の聖火リレー候補者の辞退も出ている。また新聞通信調査会の海外5ヵ国の世論調査では「中止または延期すべきだ」との回答が全ての国で70%を越えた。


 五輪のスローガンは世界中から集まった人々が相互理解を深めて平和な社会を目指すというものだが、インバウンドだけでなく感染が広がれば無観客の想定もあり得る。海外客を入れない真夏の東京五輪の開催は歴史に悪評を残す結果になるのではないか。

【財界 2021年5月12日号 第541号】

画像:flickr Dick Thomas Johnson氏(Tokyo 2020 Olympic Games: Monument of Olympic Rings

 

嶌が過去に記した東京で開催されるオリンピックに関するコラムは以下を参照ください。

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