アベノミクスは正しいか 総選挙で野党は対案を
「いま消費増税を決めると不況になる懸念がある。不況になると増税しても税収はふえない。よって増税予定を延期するが、賛成ですか」と聞かれれば、大半の人は賛成、と答えるだろう。今度の衆院解散・総選挙の大義名分は「増税延期」だという。増税を喜ぶ人はほとんどいないから、この大義設定は実に巧妙で、自公政権は〝選挙は勝ち〟と思っているだろう。
今回予定の消費税増税は、民主党・野田政権末期に「税と社会保障改革を一体で行う」ことを民主と自民・公明党が合意したものだ。その後、解散・総選挙を実施、その選挙で自民党が大勝して今の自・公政権が実現した。その直後の自民党総裁選で安倍晋三氏は第1回投票で2位ながら、決選投票で1位となり、石破茂氏を破って一昨年11月に首相になった。いわば消費増税を約束した前回の総選挙が首相の座に返り咲く結果をもたらしたのだ。
消費税8%のうち、3%上げは14年4月に実施、残る2%は15年10月に実施することになっており、法律も可決されている。ところが3%増税したところ、4─6月のGDP成長率はマイナス7.1%と予想以上に落ち込んだ。当初は7─9月に持ち直すと強気だったが、GDPは2期連続マイナスとなり、安倍首相は増税の決断をできなくなり、解散して国民に判断を聞こうという挙に出たわけである。
「国民に判断を聞く」のは、一見民主的にみえるが、国民は判断材料をもっているわけではない。昔の好況時とは違うなとか、増税はイヤだなという感覚的なものでしかない。そんな時に増税延期というエサを投げて選挙の争点にするやり方は、何か卑しさがみえ、志の高さが感じられない。
もし、本当に増税延期をしなければならないなら、まずその説得材料を提示すべきだろう。今後の経済見通し、延期した場合のメリットとデメリット(金利情勢や国際的反応など)では、次の17年4月の増税はどんな状況下でも行うのか、税と社会保障の一体改革の結末はどうなるか──などだ。国民が消費を手控え、景気回復が遅れているのは本当に4月の増税のせいなのか。将来への不安があり、すでにある程度のモノは所有し、どうしても欲しい商品が見当たらないから節約して暮らすという3.11以降のライフスタイルが定着してきたからとは、考えられないだろうか。円安、株高になっても消費や輸出がふえない詳細な説明もすべきだろう。
最近の政府・自治体、大学や企業などの悪いクセは、判断に迷うとすぐ有権者、第三者委員会などにゆだねてしまうことだ。市民、第三者の意見を聞くことは良いことだが、まずその前に調査したことを全て公開し、自らの判断を示したうえで意見を聞くのが筋だろう。当事者以外ではメディアが事実を検証し、判断材料を提供、選択肢をいくつか提案することも重要だ。メディア自体が第三者委員会に判断をゆだねるとは何とも解せない。組織のトップ、幹部は自分たちの身にふりかかったことは、まず自らが解明、説明責任をはたし、責任をとるべきだ。安易な第三者委設置や有権者に問題を投げることは、組織の衰弱を示すものではないか。【財界 2015新年特大号】