科学が政治に負け疫病が世界へ拡大
新型コロナウイルスの感染拡大で東京オリンピックの開催延期が濃厚となってきた。新型コロナウイルスの検出が報じられたのは1月9日。以来、入国や国民の行動を制限する国は、いまなお増え続けており、5月までに終息に向かわない限り開催の見通しが立たないからだ。
EUは3月17日から全土で域外からの渡航を禁止し、アメリカも指定した国に滞在した永住者以外の外国人の入国を禁止、NYの公立学校、レストラン、劇場などを閉鎖した。インドは4月15日まで(※1)全ての外国人の入国を禁止したほか、中国、イギリスも各種イベントを中止、その他の国でも次々と旅行や外出、イベント、レストランなどの閉鎖を呼びかけている。これから南半球が冬に向かうため、南の国々の移動禁止措置が相次ぐ可能性も強く、世界中で人々は身動きがとれない状況になりつつあるのだ。
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が今回の新型コロナウイルスの感染拡大を「パンデミック(世界的な大流行)の状態だ」と宣言したのは3月11日。その時点で感染者数は118ヵ国・地域に上り、3月下旬では35万人を超え2週間で20倍以上に増加した。WHOはそれまで過度な不安を広げウイルスの封じ込めが不可能になったと誤解されることを懸念し、パンデミックと表現することを避けていた。しかし、もはや世界的連携で新型コロナウイルス阻止に立ち上がらざるを得ないと判断した。
過去にも世界は疫病の大流行を経験しており、紀元前に発症し何度か世界各地で大流行した後1980年に根絶した「天然痘」、中世には「ペスト(黒死病)」の大流行で欧州の3分の1が亡くなっている。最も被害が大きかったのは1918年のスペイン風邪で死者は2千万~5千万人に上ったといわれている。
現代は米ソの冷戦が終わり、物とお金、経済が世界を行き交うグローバル化の時代で、人々もまた自由に世界を往来している。それだけに人々の接触も多く新型コロナウイルスにかかった小集団(クラスター)が次々と接触感染を広げているのだ。
このため各国は出入国を制限したり、人々の集まり、イベントなどを制限し始めているが、これらの制限は経済活動の縮小を招き、NY株式市場は史上最大の下げ幅を記録、東京株式市場や、世界通貨の大乱高下なども招いている。
安倍首相は新型コロナウイルスの感染拡大の対策として全国一斉の休校などを独断で発令したが、感染症の専門家の間からは「科学的根拠のない政策は後に検証もできなくなる」と批判が多く「科学が政治に負けた」と憤る声も多い。
【財界 2020年4月22日号 第516回】
※なお、本コラムは3月下旬に入稿しております。3月30日にTOKYO 2020(東京オリンピック・パラリンピック)組織委員会の理事会が行われ、同委員会、国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、政府の4者により、東京オリンピックの日程を来年2021年7月23日から8月8日とすることで正式に合意に至りました。
※1:インドは4月15日に5月3日まで国内・国際航空路線・鉄道による旅客の移動禁止を延長しました。