時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

新創刊「角川ebook nf」より昨日から「日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた」の配信が開始されました

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スタッフからのお知らせです。嶌が2015年9月末に角川書店様より上梓した「日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた」が昨日(5日)に「角川ebook nf」として発売になりました。

本サービスは、4月5日に角川書店様が「角川ebookカドカワイーブック:一般文芸系作品)」「角川ebooknf(カドカワイーブック エヌエフ:ノンフィクション作品)」を創刊されたラインナップの一つとなります。

話題となっている単行本を文庫本になる前に、単行本よりも安価な価格で気軽に読みたい読者のニーズに応えるため開始されました。BOOK☆WALKERAmazon kindleストア他、 電子書店各店で発売されています。

本書が発売された2015年は戦後70年目の節目の年でした。本書は、ウズベキスタンタシケント市で1947年11月のロシア革命30周年までにビザンチン風造り、3階建て1400席の「ナボイ劇場」建設にあたった457名の日本兵捕虜の実話を描いています。

いま、その劇場はウズベキスタンの誇りや親日の象徴です。嶌は、敗戦で満州からウズベキスタンに移送された捕虜の皆さんが2年かけて建設した旧ソ連の三大オペラハウスのひとつ「ナボイ劇場」の秘話を世に知らせることと、厳しいシベリア抑留の別の側面を歴史に残しておきたいという思いを持ち、記したものです。

発売から3年近くなりますが、5月13日に放送された日本テレビ世界の果てまでイッテQ!」でタレントのイモトアヤコさんがウズベキスタンを訪問し、冒頭部分で「ナボイ劇場」を紹介されるなど、今なお本書を読んで感想を寄せて下さる方がおり感謝申し上げます。 

本書は、電子版として2015年12月25日に配信を開始した単行本「日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた」をレーベル変更した作品で、内容に変更はございません。既にお読みになられている方はご注意ください。 

なお、本書の元となるナボイ劇場建設のお話を聞かせてくださった抑留者の皆様と共に設立した「日本ウズベキスタン協会」は今年20周年を迎えました

20周年を記念した総会を16日(土)に日本プレスセンターにて開催いたします。

ゲストに、今年2月に新大使としてウズベキスタンから日本に赴任されたばかりながら、エネルギッシュに日本各地を回っておられるファジーロフ大使をお招きして日本の印象や大使の人柄がわかるエピソードなどをお聞きしたいと考えています。

また、この20年で日本でもウズベキスタンの名が広く知られるようになり、ウズベキスタン料理の人気も高まっています。今回はウズベキスタン料理のあれこれを東京学芸大学日本語教育を学ばれ、当協会のウズベク語講師を務めて下さっているフェルザホンさんアラブ料理、ロシア料理にも似たウズベク料理の話をお聞きし、日本料理の感想も話して頂こうと考えています。どうか堅苦しい話ではないウズベキスタンのエピソードをお楽しみ下さい。多くの方のご参加をお待ちしています。

詳細は以下リンクを参照ください。 

昨日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:TBS「クレイジージャーニー 」でおなじみの遠藤秀紀様(東京大学総合研究博物館教授)音源掲載

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スタッフからのお知らせです。

昨日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30~)は、ゲストにTBS「クレイジージャーニー 」やウルトラマンや特撮好きとしてもよく知られている、東京大学総合研究博物館教授の遠藤秀紀様をお招きした音源が番組サイトに掲載されました。

死んだ動物を解剖し進化の歴史を研究しながら、将来の研究に役立てるため標本に残す「遺体科学」についてや、自分の手で動物の秘密を解き明かすことになった原体験についてお伺いいたしました。

上記画像でアシスタントの安田様が持たれている骨は、遠藤様がお持ち下さったキリンの前足の手首から先、指の付け根までの間の骨です。本放送の冒頭部分でご説明頂きました。

合わせて、遠藤様が上梓された書籍の一部をご紹介します。
 

次週も引き続き遠藤様をゲストにお招きし、遺体との格闘であり遺体の中に手を入れて触ってみないと分からない発見や、死体を見る解剖学は、過度の経済合理性優先の圧力で、研究対象となる資料や標本の維持がきわめて難しくなっていると云う現状についてお伺いする予定です。

ロマンと経済の楽しみな地域に -日本と縁の深い中央アジア-

 

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 この6月に私が会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会が設立から20周年の“成人式”を迎える。発足した当初は、まさか20年も続くとは予想もしていなかった。20年前に「ウズベキスタン協会」といっても、多くの人は「ウズベキスタンて、どこにあるの?」と言い、パキスタンアフガニスタンの「スタン」の連想からか、「パキスタンの一部?」などとよく聞かれたものだ。

 ウズベキスタンカザフスタントルクメニスタンタジキスタンキルギスのいわゆる中央アジア5ヵ国は、1991年に旧ソ連邦から独立した。国土が一番広いのはカザフスタンで日本の約7倍。ただし人口は約1700万人。一方のウズベキスタンの国土は日本の1.2倍で、人口は2100万人を超え、中央アジア諸国の中では最も多く中心的な存在だ。このため世界各国の中央アジアの代表部は、日本も含め大体ウズベキスタンに設置している。中央アジアの人口は、2050年を過ぎると1億人になるとみられている。

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大航海時代までは陸の要衝
 中央アジアは砂漠と山々が多く、近代世界ではあまり重視されていなかったが、15-16世紀の大航海時代がやってくるまでは、西洋と東洋を結ぶ陸の要衝であり世界の中心だった。西洋の文物と中国の絹などの製品を交易する中継拠点で、特にウズベキスタンタシケントサマルカンドなどの諸都市はオアシス国家として栄え、東西の人々が行き交い、紀元前から今日の世界遺産となっている壮麗な宗教施設のモスクや建築物が建てられていた。私達が中央アジアにロマンを感ずるのは、そうした歴史があり、仏教なども当時のシルクロードを通じて伝えられたからだろう。

 また東西の様々な人種、人々がシルクロードを往来していたので数多くの言葉や文化が重要な意味を持っていた。現在は中央アジア各国の現地語のほかにトルコ語系、ペルシャ語系の言葉が通ずるようだが、大昔からグローバル化の中心であり多様性の“るつぼ”として存在感を発揮していたのである。

■21世紀に蘇ってきたシルクロード
 大航海時代に入ると、交易は海路が中心となり陸のシルクロードは次第に影をひそめロマンの場所として人々の記憶に残っていった。その後、空の時代、宇宙の時代となり、ますます人の記憶から薄れてゆき交通的にも遠くて行きにくい場所となってしまった。

 しかし、21世紀に入り再びシルクロードが蘇ってきた。世界のど真ん中にあり、もし今後ドバイのようなハブ空港が作られれば欧州、中東、アジア、アフリカなどへ行くのに最も短時間でいける近い場所になるからだ。

 実際、中央アジアを通る輸送路の建設構想が進んでいる。一つは中国が提唱する現代版のシルクロード経済圏構想だ。欧州と中国を結ぶ鉄道網の建設でシベリア鉄道とも繋がれる。現代の貿易は輸送インフラの有無が貿易だけでなく、地域の発展にも欠かせない大きな要件になっているからだ。この鉄道計画はカザフスタンを通って中国を結ぶ北路とサマルカンドタシケントなどウズベキスタンを通って中国と結ぶ南路となるようだ。

 このほか中東のドバイのようなハブ空港の建設と、海のないウズベキスタンには無関係だが、東アフリカからパキスタンバングラデシュなどを寄港地とするインド洋では海のシルクロードの構想実現化も進んでいる。いわば輸送路をめぐる覇権争いに大国の中国やロシア、インドなどが絡んでいるのだ。しかも中央アジア諸国はイスラム教を信ずる人が多いものの、どこも穏健なイスラム国なのでイスラムをウォッチする場としても地政学的に欧米や中国から重視されるようになってきた。

■日本ウズベキスタン協会の設立
 日本ウズベキスタン協会の設立は、アジア開発銀行総裁だった故千野忠男さんの勧めもあって、私が1996年にウズベキスタンを訪れたのがきっかけだった。当時はまだ低開発国の状態にあったが、各地をまわってみると親日的な人々が多く、新興開発国を目指して国を挙げ努力している姿が目立った。特に日本は、明治維新から近代へ移る過程で途上国から近代国家へ猛スピードで国づくりに成功したことを知られており、“日本に学べ”という空気が強かった。 

 しかも、第二次大戦の敗戦で満州などに抑留されていた日本兵捕虜数万人が中央アジアに連行された際、鉱山や道路建設森林伐採などで働かされていた日本人を目の当たりにしていた現地人が多かった。

 中でも満州からウズベキスタンタシケントに連れてこられた日本人航空工兵の技術者たち約500人が建設したオペラハウス「ナボイ劇場」は日本人が中心となって建設した。その現場で一緒に働いたウズベク人は、日本人の働きぶりや真面目さ、手先の器用さ、一つのことを皆で協力してやり遂げるチームワークの素晴らしさなどに舌を巻いた。

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 さらに劇場を2年の約束期限の2日前に完成させたり、親切に技術を教えてくれる日本人に敬意を持つようになる。しかも劇場完成から10年余りした1966年にタシケントで大地震が発生。市内の建物の大半は壊れたのにナボイ劇場だけはビクともせず建ち続けていた光景を見たウズベク人は改めて日本人に尊敬の念を持ち、中央アジア全体に日本人の評判が伝わっていった。

出征当時の永田行夫氏

 工兵部隊の隊長だった永田行夫大尉は当時まだ24歳。自分より年上の職人や若い兵たちを前に次のように説いたという。 

 「自分たちは捕虜なのだから真面目に仕事をやらなくてもよい、と思っている人も多いだろう。しかし、ソ連側はロシアを代表するようなオペラハウスを作りあげて欲しいと言っている。いい加減な仕事で手抜きをすることもできるが、この劇場が10年も20年も残るものだとすれば、いい加減なものを作って日本人が笑い物になるより、後世に残る立派な建築物にして“さすが日本人は違う”といわれた方が後々まで誇りを持てると思う。諸君らにはいろいろな思いがあるだろうが、ここはひとつ日本人の底力、素晴らしさを見せてやりたいと考えているがどうだろう」

 このひと声で、ビザンチン風3階建ての壮大なオペラハウスは今も残る歴史的建造物になったのである。予定の期限内に建設を終えた時、日本人収容所と工事現場を預かっていたロシア人将校は永田隊長の手をとり何度も感謝の念を表明したという。

 後に建物の銘板が作られた時、ソ連から独立したウズベキスタンのカリモフ大統領(当時)は「この劇場は日本の捕虜たちによって建てられた」と書いてあった“捕虜”という言葉に反対し、「ウズベクは日本と戦争をしたことがない。それなのに捕虜という言葉を使うのはふさわしくない」として捕虜という言葉を消して“日本人が建設した”と書き換えたと言い伝えられている。その銘板は今もナボイ劇場の壁に張られており、劇場を訪れる日本人旅行者はそのエピソードを知って涙を流す人が多いという。またその日本人の働き方を間近で見ていたウズベク人のジャリル・スルタノフ氏は、日本人の働いている姿や建設中の劇場の写真などを集め自宅を改造して資料館を建てている。(詳しくは拙著のノンフィクション「日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた」角川書店を参照下さい)

 f:id:Nobuhiko_Shima:20180601162821j:plain劇場のプレート

 このオペラハウス建設の物語は日本とウズベキスタンを強く結びつける絆となり、故カリモフ大統領の後を継いだミルジヨエフ現大統領も日本との絆を重視し、多くの留学生を日本に送り込んでいる。

 ウズベキスタンは多くの鉱物資源を持ち、農業や果樹園栽培も盛んで、現在は7%前後の成長率を誇る新興国として注目を浴びている。かつてはイスラム過激派集団の侵入を恐れて閉鎖的な国家運営を強いられていたが、新大統領ミルジヨエフ氏が登場してから日本など信頼をおける国々からのビザ無し交流などオープンな国づくりを目指し始めた。中央アジアの人口は今後50年以内に1億人を突破するとも見られている。中央アジア各国が密接に連係し、輸送インフラが整ってくれば日本を上回る市場にもなり得るといえる。ロマンとビジネスがある楽しみな地域になってきた。
TSR情報 2018年5月30日】

 トップ画像:完成直後のナボイ劇場 映画「ひいらぎ」より


 なお、嶌が会長を務めるNPO法人「日本ウズベキスタン協会」は今年創立20周年を迎え、6月16日(土)に会員向けの総会と終了後にファジーロフ大使をお招きして日本の印象や大使の人柄がわかるエピソードなどをお聞きするイベントを開催いたします。  

 この20年で日本でもウズベキスタンの名が広く知られるようになり、ウズベキスタン料理の人気も高まっています。そこで本イベントにもう一方、ウズベキスタン料理のあれこれを東京学芸大学日本語教育を学ばれ、ウズベキスタン協会のウズベク語講師を務めて下さっているフェルザホンさんもお招きいたします。アラブ料理、ロシア料理にも似たウズベク料理の話をお聞きし、日本料理の感想も話して頂こうと考えています。

一般の方のご参加を歓迎しており、堅苦しい話ではなくざっくばらんにウズベキスタンのエピソードをお伺いしたいと思っていますので、多くの方のご参加をお待ちしています。詳細は以下リンクを参照ください。

6月3日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:TBS「#クレイジージャーニー 」でおなじみの遠藤秀紀様(東京大学総合研究博物館教授)

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スタッフからのお知らせです。

3日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30~)は、ゲストにTBS「クレイジージャーニー 」やウルトラマンや特撮好きとしてもよく知られている、東京大学総合研究博物館教授の遠藤秀紀様をお招きいたします。

死んだ動物を解剖し進化の歴史を研究しながら、将来の研究に役立てるため標本に残す「遺体科学」についてや、自分の手で動物の秘密を解き明かすことになった原体験についてお伺いする予定です。ご期待ください。

遠藤様が上梓された書籍の一部をご紹介します。
 

トランプ、強気策で突破 金正恩の小細工効かず

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 トランプ米大統領金正恩朝鮮労働党委員長の米朝対話実現、朝鮮半島の非核化を巡って緊張したやり取りが続いている。一度は6月12日にシンガポール米朝首脳会談が開催されると発表していた。ところが米韓合同演習を理由に北朝鮮の金桂冠・第1外務次官が「演習を実施するなら首脳会談に応ずるかどうか再考するしかない」と揺さぶりをかけたのだ。

 さらに北朝鮮の崔善姫外務次官がペンス副大統領を「愚鈍な間抜け」と批判したためトランプ大統領は怒り、それなら「米朝会談は中止だ」と応じた。北朝鮮からすれば、戦術的な駆け引きのつもりで語っただけだったのかもしれないが、アメリカの激しい反応に動揺したようだ。金正恩氏はすぐさま仲介役となってくれるだろう韓国の文在寅大統領と二回目の南北対話を申込み、中国にも支援を求めた。

 北朝鮮にすれば米朝首脳会談は、アメリカから“体制の保証”を得ることと経済支援を引き出すための重要なステップになるはずだ。それを駆け引きのために言った揺さぶり発言でご破算になることは避けたかったに違いない。しかも北朝鮮は先日「米韓合同演習には異議を唱えない」という約束もしていたのだ。今回のトランプ大統領の“米朝会談中止発言”を聞いて北朝鮮は多分、下手な小細工を仕掛けない方が良いと判断したのではないか。実際、二回目の南北朝鮮会談を通じて「いつでもいかなる方式であっても対面して問題を解決する用意がある」と反省の弁を込めて文大統領に伝えた。これを聞いたトランプ大統領は、予定通り6月12日の米朝首脳会談に再び応ずると答えた。

 今回の一連の動きを通じて判明したことは、北朝鮮が体制保証と経済支援をいかに重視しているか、トランプ大統領とのつまらない駆け引きは通用しにくいことがわかった――などだろう。しかし、今後焦点となる朝鮮半島の非核化のプロセスを巡る交渉は北朝鮮、韓国の命運を左右するものとなるし、周辺の日本、中国、ロシアにとっても極めて重要な意味を持つだけにまだまだ予断を許さない。

 それにしても文大統領の素早い反応と動きは驚きだ。朴槿恵政権が退陣していなかったらこうは運ばなかっただろう。

 危機になると、ふさわしい人物が登場してくるものだという。文大統領の印象について登場した時にコラム(※まぐまぐ有料版「虫の目、鳥の目、歴史の目」の1月12日配信「日韓関係を築き直す好機 ―苦労を知り筋を通す文在寅新大統領―」)に感想を記したように、ほぼ予想通りの活躍ぶりだ。安倍首相の姿、存在感が見えないのは残念な限り。ここで共に行動していればまた違った評価が高まっていただろうに・・・・・。

まぐまぐ有料版「虫の目、鳥の目、歴史の目」の1月12日配信「日韓関係を築き直す好機 ―苦労を知り筋を通す文在寅新大統領―」全文は以下リンクを参照ください。

【再掲:全文掲載】日韓関係を築き直す好機 ―苦労を知り筋を通す文在寅新大統領―

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※本コラムはまぐまぐ有料 ジャーナリスト嶌信彦「虫の目、鳥の目、歴史の目」2018年1月12日配信したものです、本日掲載のコラム「トランプ、強気策で突破 金正恩の小細工効かず」内に関連事項がございますので、全文掲載いたします。

 二国間の政治関係を良好に保つには、経済や歴史、政治問題などもあるが、何より重要なのはトップ(首相、大統領)が互いに胸襟を開き、心おきなく率直に話合える関係をもてるかどうかだろう。たとえ一時的に言い争いになるかもしれなくとも、口ごもらず正直に自身の主張を言い、違いを認め合った上で、その溝を埋めてゆく熱意を示し合うことが友人関係を築く極意だ。人間同士なら本気で解決の道を探りながら情熱を込めて語っているとわかれば、互いに相手の人物像の印象が強く残り長く付き合っていこうとなるものである。口当たりの良い外交辞令を並べ、その場だけの雰囲気を納めようとしても決して真の解決にはつながるまい。知人から友人関係に発展する場合と国家関係も基本的には同じだろう。

 日韓関係は、トップ同士だけでなく長い歴史関係や民族的対立、過去の支配・被支配の差別感情などもあって近代以降の両国は、決して良好だったとは言えまい。

 そこへ今回新たに登場した韓国の大統領が文在寅(ムンジェイン)氏である。文氏は韓国南部(慶尚南道)の釜山に近い巨済(コジェ)生まれで65歳。両親は朝鮮戦争1950~53年)時に北朝鮮から逃れてきた難民だった。貧しさの中で育ち、奨学金を得ながら大学を卒業した。しかし軍事独裁の朴正煕大統領政権下で民主化デモの指導者として逮捕され、拘留中に司法試験に合格する。釈放後は20歳代前半に兵役につき、後に大統領となる盧武鉉ノムヒョン)氏と82年に共同で弁護士事務所を開設し、労働者支援の人権派弁護士となっている。2003年に盧武鉉氏が大統領に当選すると乞われて秘書室長に就任、政治の世界へ飛び込んだ。2009年盧氏が自殺した後、12年の大統領戦に立候補したが朴槿恵前大統領に4ポイント差で敗れている。

 その後2度目の大統領選の準備を続けてきたが、その間、朴前大統領への抗議デモに参加したり韓国の“政経癒着”体質を批判したりして若年層の指示を固めた。大統領に当選すると「正義と常識が通り国民だけをみて正義感あふれる誇らしい堂々たる大韓民国の大統領になる」と勝利宣言をした。

【筋を通す正義・法治の人物か】
 小さい頃から熱心なカトリック教徒として過ごしているが、高校時代には酒とたばこで3~4回の停学処分を受けたり、大学時代では朴正煕政権への抗議デモで催涙弾に当たり気を失ったこともある。なかなか面白味のある人物とみえる。その時介抱してくれた正淑氏が後の奥さんとなっている。若い頃から貧困ながら正義感の強い活動派だったという。ただ日本とのつながりはほとんどなかったようだ。テレビ、写真、似顔絵などでみる文氏は穏やかな顔つきで知的な佇まいをしており、庶民派大統領として70%前後の支持率を誇っている。

ポピュリズムには流されまい】
 この文氏と日本、北朝鮮、中国、ロシア、東南アジアなどがどう付き合っていくかによってアジア情勢の安定感も異なってこよう。

 私の印象では、革新系の庶民派であると同時に、映像やしゃべり方、似顔絵などをみた印象からすると正義感にあふれ、筋を通す紳士的な人物にみえる。慰安婦問題では、韓国外務省の調査に納得がゆかないと苦言を呈し、韓国における親日派清算が解放後に十分に行われていないとしているが、直ちに日韓合意を破棄するとも明言していない。慰安婦や韓国国民の感情をくみ取りながらも“日韓友好”“法治国家”としての振る舞いを大事にして未来志向の正常な外交関係を模索したいという意思が感じられる。ポピュリズムに流されることなく歴史問題を解決し本当の友好関係を築く姿勢で外交に挑むという言葉に真実味を感じたがどうだろうか。

【安倍首相の役割は100回余の首脳会談の経験を生かすこと】
 一方、安倍首相は文氏とは全く肌合いの違う政治家だ。三代にわたるエリート政治一家の三代目として5年を越える首相経験を持つ。本当の貧しさや痛みは殆んど知らずに育った“坊ちゃん”政治家のようにみえるが、首相の座をいったん捨てた挫折から這い上がってきた経歴を持つだけに決して凡庸な政治家ではあるまい。周囲の官僚やアドバイザーの話を聞き、彼らの言の取り入れるべき点はよく取り入れながら政治を進めてきたことが、ある種の安定を築いてきたのだろう。それと、外交を嫌わず、すでに100回以上の首脳会談を行ない、自然に世界をみる眼を養ってきたことも大きな財産になっているはずだ。

 その経験を生かし新しい韓国の文大統領とも腹を割った付き合いをし、これまでにない日韓関係を築けば安倍首相をみる国内の目ももっともっと違ってくるだろう。これまでと違い久しぶりに韓国に誠実な大統領が現れた印象を持つ。この機を逃さず、じっくりと良い関係を築くべきだ。
まぐまぐ有料 ジャーナリスト嶌信彦「虫の目、鳥の目、歴史の目」2018年1月12日配信】

昨日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:元旋盤工で作家の小関智弘様 二夜目 音源掲載

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スタッフからのお知らせです。

昨日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30~)は、ゲストに大田区の町工場で長年旋盤工を務められながら、作家も続けられてきた小関智弘様をお迎えした二夜目の音源が番組サイトに掲載されました。

日本のものづくりを支える東京都大田区内の町工場で長年旋盤工として働きながら自らの労働体験に根差したノンフィクションや、同人誌に小説を執筆してきた人生観などをお伺いいたしました。来週水曜正午まで期間限定で番組サイトにて公開中です。

前回の機械やコンピュータがいくら進歩しても出来ない職人技。材料を見て、旋回させ、適切な位置にブレ止めをかけてからやらないと出来ない、長い経験と多くの失敗の積み重ねがあって初めてできる旋盤工の職人技についてお伺いした放送音源は番組サイトにて今週水曜正午までの期間限定でお聞きいただけます。

小関様が上梓された書籍の一部をご紹介いたします。 
今回の放送で小関様より日本のモノづくりに関して以下のように話されておりました。

「中小企業の方々は儲けることより、いい仕事をしたいと思っておられる方が多く、そういった方々がいる限りは日本のモノづくりは大丈夫だと思う。大企業はかなりの部分で下請けに依存していてどっこいいい仕事をしているので欠かせない存在だ。そういう人たちをみるとまだまだ(日本のモノづくりは)大丈夫。」
小関様の書籍には生き生きと働かれている方々や工場の息遣いが聞こえてくるような画像が掲載されておりますので、ぜひ一読いただけると幸いです。

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画像は「どっこい大田の工匠たち」27ページの岩井仁さんの章より

 嶌が先日記した、中小企業に関するコラムもあわせて掲載いたします。ご興味をお持ちの方は合わせて参照下さい。

次回はTBS「クレイジージャーニー」やウルトラマンや特撮好きとしてもよく知られている、東京大学総合研究博物館教授の遠藤秀紀様をお迎えする予定です。

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【著】嶌 信彦

     
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嶌信彦の一筆入魂

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ニュースキャスターたちの24時間

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